79-2  トヨタ土地建物株式会社

街をクリエイトする神宮前の不動産

今回は、原宿で不動産業を営まれて 49年、まちづくりのキーマンとして活躍されてきた、トヨタ土地建物株式会社の豊田豊彦代表取締役に話を伺います。
辰ではご紹介により『神宮前 5179』(設計:桑原聡建築研究所、2003 年竣工)やいくつかの改修工事を施工させていただいています。
豊田さんは、3 年ほど前から「雑学教室」という月刊紙を発行され、不動産業の立場から、あるいは 1 人の「未来学者」として、日々の出来事に対するご自身の思いを毎月発信されています。「まちづくり」のあり方を、豊かな経験と知識、そして鋭い感性で伝えていらっしゃる姿勢に注目します。

 

― 3 大都市圏の基準地価が 16 年ぶりに上昇しているというニュースが流れましたが、ここ神宮前地区も上がりました。どのようにご覧になっていますか。

豊田:今は、適正価格だと思っていますよ。バブルの後、本来下げなくてもよかったはずの価格を、金融機関の資金回収で下げすぎた。それがバブル以前昭和 61 年くらいの水準に戻ってきている。妥当な線だと思っています。
―昔の水準といいますと、具体的にはどのくらいの金額になるのでしょう?
豊田:昭和 61 年頃、まだ建物の建方にゆとりがあった頃は坪 6000万くらいでしたね。3 年前に建ったルイヴィトンはお買い得で、坪3000 万くらいだと聞いています。表参道のどん底は平成 9,10 年。坪 1500 万くらいだった。もっと昔、昭和 50 年までは坪 800 万くらいでしたかね。昔は山手線の原宿駅なんて 10 人足らずの乗降客しかなかった。それが昭和 54 年に地下鉄が出来てからにぎやかになったな。ハナエ・モリビルが建ち、その頃の街並みには余裕が感じられたね。
「表参道のどこがいい」と聞かれると多くの人は「ケヤキ並木」をあげますが、でもそれだけではダメですね。今はどこの街も並木くらいはある。そのほかに何が必要か。それはバランスのとれた美しい建物、そしていいテナントと人の流れを作ること。建物の使いやすさ、街の歩きやすさが出てこないと人は入ってこないんだ。
―どんなところがいい建物といえるのですか。今でも残っている建物ではどんなものがありますか。
豊田:太田美術館、グリーンファンタジア、ピアザビル、コープオリンピアなどは古いが趣がありますね。こだわりとしては例えば、私が建てた神宮前 3 丁目の「BEAMS」が入っているビルは、外装を陶板タイルにしたのですが、いろいろとサンプルを作ってね、天気によって色が変わって見える。焼加減を滋賀の工場まで行って指示した、素材にこだわったものです。
―話はさかのぼりますが、いつ頃からこの地でご商売を始められたんですか。
豊田:もともと静岡の実家は機屋をやっていました。昭和 30 年頃、一家で上京しました。32 年には母が個人で賃貸アパートの斡旋などを始め、実は私自身は早稲田を卒業後、6 年間ほど調査会社、いわゆる興信所に勤めておりました。あるとき銀行から「上野で支店候補の店舗を探している。近所の不動産を調べてほしい」という依頼を請けました。銀行支店の決定に街の不動産屋も使うことを目のあたりにし、これは面白い商売になると直感しました。当時はまだ不動産業そのものが街のアパートの周旋をやる程度の時代。母の仕事を手伝うようになり、住宅並みの保証金と家賃で企業を引き寄せることが出来、自らもビルを建設して賃貸物件にするというビジネスを始めたのです。
昭和 42 年、「トヨタ土地建物株式会社」の称号で法人を設立。地元の信金から融資が可能になって、今の「キラー通り」(コシノジュンコが命名したのは有)の小さな三角形の土地に自社ビルを建てることになりました。6.5 坪、土地相場で 100 万は高いとは思いました。しかし通常坪 25 万くらいの建築費を、40 万をかけて 3 階建てのしゃれたビルを建てました。この街はファッションに敏感な街にしたいという思いがありましたからね。竣工後は注目され、VANジャケットの石津社長にもほめられたし、テナントにデザイナーの金子さんのブランド「ピンクハウス」が入居して、結構話題になりました。
その後、ファッションに理解があるというので、若いデザイナーやアパレル業者が集まるようになってきました。ニコル、バツ、ビギ、ファイブフォックス、アトリエサブ、パーソンズなどDCブランドを立ち上げた人たちだね。保証金を割り引いて入居させたり、出世払いにしてやって、家主だけれども事業の保証人になったりしました。
―その後、軽井沢にホテルを建てたり、順調にご商売を発展させた豊田さんでしたが、バブル崩壊後、ほとんどのビルを手放されることになります。さまざまなご経験をされて、土地についてどのような思いをお持ちですか。
豊田:やはり、土地は国からの預かり物だから、その土地で事業を起こすのであれば、地域に貢献するように、はっきりとした目的を持つべきだと思いますね。買う側に融資をする金融機関は、投機商品と間違えないでほしい。表参道にステータスを求めて採算を度外視する人も来ますが、それはそれでいいと思う。問題は右から左へ単に売り飛ばし利益を得るような扱い。金融機関の計画性のなさ、経営理念のなさがバブル崩壊を招いたのであり、取得の目的がはっきりしていれば価格設定の失敗はないと思います。
また土地規制にはもっと厳しい規制があっていい。「登記事項に使用目的を記載し、その変更を 2 年以内は認めない」など、まだまだできることはあると思っています。
今、私は明治通りの表参道交差点から宮下公園までの「プラタナス商店街」の会長の職にあるのですが、この地域では歩道を拡張する計画があります。公的機関の資金も受けず、ビルオーナー達が自主的にセットバックの建築を心がけ、良好な街並を作ろうとしています。オーナーとテナント双方の選択であり、努力の結果です。規制があろうがなかろうが、そういう感性を持った人が住み、また店を営んでいくということも、良い環境の街づくりになると自負しているんですよ。
―本日はどうもありがとうございました。

71-3 株式会社リブコム 加藤隆昌 専務取締役

不動産の付加価値の連鎖を創造する

 

建築施工を通し、辰が出会うさまざまなお客様。 なかには新しいムーブメントで、社会に貢献しようという企業も数多く いらっしゃいます。
そのような先進企業の新しい取り組みを折々にご紹介していくコー ナーが、この「Close up Company] です。
(不定期でお届けします。「建築家紹介」はお休みとなります。)
今回ご紹介するのは、港区・渋谷区・目黒区・世田谷区など城南 4 区 で不動産物件・オフィスビル・商業施設・マンションを提供している、 株式会社リブコムです。 このたび辰の施工で、「駒沢パークサイドテラス」がオープンの運びと なりました。加藤隆昌専務取締役にお話を伺いました。

 

―創業はいつごろですか。
加藤:平成3年です。もともと建売住宅を扱っていましたが、5年ほど前 から都心の高級住宅を手がける会社として実績を伸ばしてきました。富 裕層向けビジネスに絞り、高級戸建、宅地の分譲などを行い、うまく波 に乗れて都心のプライスリーダーとして認知されてきました。
しかし、最近では、土地の価格も上がりすぎたため、住宅用だけでな く、都心の商業系ビルも購入し始め、それがうまく寄与して、売上の7割 がいまや商業系となっています。ホームページや会社案内も、実情とリ ンクしなくなって、この2月から一新しました。
―土地は値上がりしているのですか。
加藤:この1年は異常な値上がりです。もはや土地だけで売る仕入れと しては買えません。従来のデベロッパーはとりあえずハコを作って売る だけでしたが、それではきついです。最後まで加工してきちんと付加価 値をつけて売ることまで全力を尽くさなくては。数年前から、そういう考 えは持っていたのですが、なかなか形にまでならなかった。デベロッパ ーだけでは無理ですからね。そこで我々は、あらゆるビジネスパートナ ーと組んで、様々な文化、付加価値を創造し、企業として「ビジネスプラ ットフォーム」を目指すことを明確にしてきました。「バリュークリエーショ ン事業部」を設け、飲食、ブライダル、アパレル、いろんな業界の才能 あるプロデューサーとのネットワークを駆使してプランニングを行ってい ます。今回ロゴも変えました。「アンド」という字を使い、いろんな人との つながりを強調する付加価値の連鎖をイメージしています。
―デベロッパーがただ安売り競争を行っていると、結局ヒューザーのよ うな話になってきますからね。
加藤:そうです。そして、この事業部に直結した試みが「東京サイトプロ ジェクト(TSP)」です。2週間ほど前、「東京ウォーカー」という雑誌に用 賀の物件が紹介されました。「東京新名所プロジェクト2006」という企画 ですが、表参道ヒルズや秋葉原UDX、渋谷Q-AXシネマなどの大きな プロジェクトと並んで、われわれの「TOKYO SITE PROJECT MB-1(マドビル)」が出ています。小さな物件ですが「その土地に必要な価 値が盛り込まれた開発でこの東京をよくしていこう」というコンセプトで 建築しているものです。
「不動産と建築、そこに文化を融合させよう」と いうことです。バブル当時は派手な建物がたくさんできたけど、そこに は文化が少なかった。結局、築年数が浅くても壊されたりしている。コ ンクリートの建物の寿命は100年、きちんとした耐震構造を持つことな んかは当たり前、いい形の建物ができれば皆さん注目してくれます。
さらにデザインだけではない。不動産が本来持っている潜在的な力を どこまで引き出せるかがポイントです。
本当にお金がある人は、もう資産を増やすことにはさほど意味を感じ ていません。「どこに意味があるか」を考えています。自分自身にリタ ーンすることではないんです。そういう人たちが「文化・芸術に使うこと がかっこいい。ここだったら使いたい」という不動産企画を提供してい きたいですね。100年存在する建物はエコに繋がるわけだし、それこ そが本当のデベロッパーだと思います。
日本は海外と比べると、まだ まだ考え方がせまく、恥ずかしいと思います。
―そうですね、まだ築年数だけで建物が考えられている。せっかく建 築家に設計を頼んで建てた家でも、単に坪数、築年数、駅からの距 離で計られています。
加藤:これからは変わると思います。それにデザイナーの建てた建築 だとしても、きちんと住宅として機能しているかが問題。新しく住む人 に良さが伝わらなくては意味がありません。将来的にデザイン変更に 応じられるか、など骨太の建物には、基本があります。

―ライブドア、東横インの問題が明らかになって、企業の社会的責 任がより厳しく求められています。
加藤:もちろん、企業として儲けることは大事です。でもそのために存 在しているなんて悲しい。存在意義のあるデベロッパーになりたいで すよ。「あそこのはいいよね」とお客さんに一目置かれたい。TSPによる 物件も、土地の仕入れから手がけたものが、この春から10棟くらい出 来上がってきて、現実に形になってきています。ぜひ見ていただきた いですね。