233-1 変化は住宅から

今月は、神宮前に立ったコンクリート打ち放しの2件のビルのご紹介です。

「NC BUILDING」は表参道の東側の小道で、長年飲食店を営まれていたご一家のビルへの建替え工事です。お住まいを上層階に、テナントを下層階に設け、ご自身の経営されるお店も2階に入りました。

「シンシア表参道」は以前近隣で弊社が施工させていただいたビルの建て主様が、今回も新たなビルの工事をご依頼くださった物件です。こちらは、青山通りから西側に少し入ったところ、デザインをこだわった小さな店舗ビルが住宅街への道に並んでいます。

「シンシア表参道」の設計者、松崎峻氏(スーパービジョン)は渋谷桜丘町で30年以上、設計事務所を主宰されていました。神宮前では今回の現場近くのガレリアアーツビルやCROCSビルを手掛けられました。しかし、2年ほど前、息子さんのお嫁さんの実家が女所帯になって物騒だというので、息子さんの誘いもあって、さいたま市見沼区に多世帯住宅を建てることになり、今は息子さん世帯、お嫁さんのお母様世帯、そして松崎さんの思いが詰まったアトリエ兼住居にお住まいです。野菜が植えられている家庭菜園があり、高台のため他所から視線もはいらず、2階建てのアトリエは北と南の2つの庭に挟まれてとても過ごしやすそうです。70歳も超えられ、今回を機に桜丘町の事務所から完全に大宮の自宅事務所に拠点を移されました。

「大学卒業後戸田建設に入社、31歳のときに日大の同期で黒川紀章建築都市設計事務所に勤めていた北村昌三と独立しました。住まいも同じ中央線沿線で、渋谷でずっと一緒に仕事をしてきました」と松崎さん。
住宅は基本だということですが、最近の若い人の仕事で気になることがあるとおっしゃいます。コンピュータの弊害か、手描きができない人が多いと感じるそう。それに設計の最初の段階でCADで詳細まで描き過ぎ、「もっと大まかに全体を捉えてから詳細図に下りていけと、我々は習ったものです」とおっしゃいます。坪や尺の単位も実感としてわかっていない人もよく見かけるので、何とかしたいと感じられています。「家を建てるということは、ロマンでしょう。作家の林芙美子は、『放浪記』などで知られていますが、女学校を出ているけど、建築の学校で学んだわけではない。でも落合に自分の家を建てようと勉強して、本を250冊読んだそうです。山口文象に設計を依頼しましたが、本人もその辺の設計者には負けないくらいに詳しくなり、素晴らしい邸宅を建てました。その後10年しか住めなかったけれども、幸せだったと言っています。だから僕なりに建築史などをまとめて、若い人に伝えたいことがたくさんあるんですよね」

「それからこの地域には『見沼田んぼ』という大きな緑地があってとても魅力的なところなんですよ」と松崎さん。『見沼田んぼ』とは、徳川時代からの治水事業で開拓されたもので、農地を守るために「三原則」が定められ、開発が抑えられてきましたが、農業後継者不足が進み、現実にそぐわなくなってきました。今は「農」の多面的・公益的な機能が再評価されているため、さいたま市では、独自の『百万人の「農」-さいたま市農業振興ビジョン-』を打ち出しています。

「僕は、老人の街なんかがいいかな、と考えています。一人暮らしの老人が集まって暮らす。元気な人はそこで農業支援などの仕事もできます。そんなことをいろいろ考えさせてくれるのもここに引っ越してきてから。考えたら、住まいを変えるってとてもいいことだと思うんですよ。
アメリカ人なんかは移動に抵抗ない人が多いでしょう。仕事を変える、お金との付き合い方・人との付き合い方を変える。そんなことも、まず住宅から変えるっていうのもいいかと感じます。夏目漱石は80回、家を変えたそうですからね」と新たな意欲を刺激されているようです。

232-1 都心の工事

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「CUBE西麻布」  撮影:アック東京

今月は、西麻布の交差点のすぐ近くに建った、「CUBE西麻布」のご紹介です。

「CUBE西麻布」の場所には前回の東京オリンピックの頃建てられた木造2階建ての小さな店舗兼アパートがありました。大家さんは10年ほど前から古くなった建物の建て替えを考えておられましたが、一軒残った店子(床屋さん)のご商売が続いていたので、すぐにはできませんでした。それが3年前、床屋さんが「2018年5月に出ます」という決心をされたので、やっと建替えの設計がスタートしたのです。

敷地は六本木通りに面しており、今は立体交差になっていますが、六本木方面から谷底になる交差点の側道に面しています。
設計のバウ・ビルトの村上さん、榎本さんによると、工事にあたって第一の問題点だったのが、敷地の奥の部分(2/5)の下を地下鉄日比谷線が斜めに走っているということ。古い路線のため、土かぶりが少なく、地上面から3.5m下を走っています。当然その部分は杭を打てず、可能なところに杭をたくさん打つことになります。工事開始前の1年間、営団地下鉄と協議を重ねて杭の位置を調整し、既存家屋解体後に試掘も行いました。そこで地下鉄の越境もあったことが発覚しましたが、当時は図面もきちんとしておらず、事情を知る人はすでになく、という具合でした。

また、東隣の建物が境界ぎりぎりに建っていて、こちら側が下がらない限り隙間がないので、どこまで敷地を有効に使い得るかということが第二の命題でした。そこで、バウ・ビルトさんではそのような都心の工事の経験を豊富に持っている施工会社を決めるために、見積もりを数社から取り、最初に工務店を決めたとのことです。その上で構造も概算で基本単価を確認して、技術的なやりとりを具体的に決めていかれました。
「隣地とは50cmは開いてないと無理」という施工会社もいた中、救世主となったのが、建物の裏に通る2項道路でした。2項道路(にこうどうろ)とは、建築基準法第42条第2項の規定により、「建築基準法上の道路」とみなされる道のことで、「みなし道路」ともいわれます。辰の担当者はその裏の道を使う、という見積もりを出してきました。

大通りは都バスも走っており、昼間の道路使用許可はおりません。しかし夜間工事となると、ここ西麻布は隠れ家的な飲食店が多い場所で周辺への理解を得にくいのです。このみなし道路を使うことで、昼間も工事用車両が駐車できます。しかし、2項道路は小さなビルの裏側で不法占拠のたまり場となっていて、放置自転車、バイクが山のようにありました。既存建物の解体時、それらを排除することから工事の準備は始まりました。営業担当者が、周辺の誰もが本当は「なんとかしてほしい」と思っていたクリーンアップ大作戦を行いました。

テナントビルはボリュームを稼ぐことが命題ですが、完成したビルを見ると、天井の高さは余裕があるけれど、隣のビルよりは高くありません。
「容積率は使い切っていないですよ。本当はもう4層載せられるくらい。でも重量的に、鉛直荷重にしても引き抜き荷重にしても杭がぎりぎりなのです。1層でも増やすとはね出しの分、引き抜きも大きくなるので、杭が持ちません。階高だけなら、壁が延びる分くらいの重量だけで済みます」と榎本さん。

リーシングを行う不動産業者さんからは、「内外コンクリート打ち放しのかっこいい建物に」というご希望が出ています。細長く向こうが開け、「狭い場所、でも壁で目立つ」という方向性を考えていくことになりました。榎本さんは「断熱をやらないという発想もあるけれど、今の時代にエネルギー消費の大きい建物を造るのはよしと出来ないので、巧みに内断熱と外断熱を切り替える方法を考えた」とのことです。

さてどのような解決方法をとられたでしょうか。

232-4  建物再訪 5.C-House

建物再訪 5.C-House 室内テラスのある家


今回は、14年ほど前に竣工した品川区のC様のお宅にお邪魔しました。
施工担当者が退社して時間が経過、メンテナンスをご希望だったC様を結果的にずいぶんお待たせしてしまいました。それでも今回、屋上防水、クラックなどの外壁改修、撥水材塗布工事などの外部の改修工事を行いました。現場担当の小関に工事のフォローの状況を確認しながら、C様にお話を伺いました。

-こちらは高級住宅街という環境もあり、竣工当時はプライバシーに配慮したファサード、そして内部にトップライトから光が降り注ぐ大きな室内テラスがある建物としてご紹介しました(ShinClub59号)

小関:そもそも私が伺うようになったのは、テラスの上のトップライトのサッシの両脇から雨漏りしているとのご連絡をいただいたのがきっかけでした。聞けば、前任の担当者の頃からとのことで、メンテナンスで一時的には修復されたものの、実際は根治していませんでした。
前任者の引継ぎ事項を行うまでに時間が経ち、ほんとに申しわけないことでしたが、今回それに引き続き長期修繕的な外部の改修もお受けくださいました。
C様:家はどんどん劣化していたから、助かりました。小関さんには感謝状を出したいくらいです(笑)

-お引渡しの時はどうでしたか。
奥様:大満足でした。ネットで調べて芦原先生の事務所に突然お邪魔しましたが、小さな個人宅にもかかわらず、とても良く対応してくださいました。ミッドセンチュリーテイストのシンプルで美しい建物ができあがり、感謝感激でした。
C様:妻が風水も少し取り入れたいと言うことで、水周りの配置や建物の凹凸にもこだわりました。
奥様:そうですね。芦原先生も空気が流れる家が良い家とおっしゃっていただけに、植物が良く育つ、気の流れの良い空間になりました。

ところがその後間もなく、風通しの良いはずのリビングのフローリングが黒ずみ始め、日に日に広がっていったのです。原因は床暖房の水漏れによるカビで、2階の床を全部張り替える大工事に発展しました。

-それはうちの責任で対応させていただいたのでしょうか。
奥様:はい、日数はかかりましたが、辰さんに直していただきました。数年後、次に問題になったのがサンルームの雨漏りです。構造上、そうなりがちだとは聞いていましたが、やはり修復も難航しました。結果サッシ周りのシーリングとそれを取り囲むコンクリートの塗装を広範囲にしていただき、一時的には解消しました。でも最も担当者さんを困らせたのは、3階シャワー室から付近への水漏れで、こればかりは原因究明とその修復が大掛かりになりそうでしたので、この時期から互いに連絡が滞るようになりました。

小関:で、その担当者が退社してしまったため、2年位前から私が引き継ぐことになったのです。
本来、建物がいろんな事情で補修していかなくてはならなくなるのは、仕方が無い事なのです。ただ、せっかく有名な先生に設計していただいたバリューを損なうことなく保存していくことは大事なので、適切なメンテナンスを施していかなくてはなりません。

お客様の中にはコンクリートは永久にもつと思っている方も時にいらっしゃいますが、それはないです。木造よりは長持ちしますが、寿命が50年というハウスメーカーの説明書も「10年に一度、大規模改修をしたら」という条件付きだったりしますから、過度に景気のいい話をしても問題です。
お客様が困っているときにこそきちんとお話を伺う関係を築かないとだめだと思います。

奥様:なかなか小関さんのように親身になってくださる方はいないと思いますし、興味深く、為になる事柄をユーモラスにお聞かせくださるので話が楽しく尽きません。
C様:彼女、聞き上手なんですよ(笑)

-奥様は、デザイナーのお仕事を続けていらっしゃいますよね。
小関:ほんとに言われたことをこちらがきちんとやらなきゃならなくなるんです(笑)職人さんも名前で呼んで、工事の全体像までお話くださるから、自然に頑張ろうという気になります。

-職人さんにはお客様の笑顔が何よりですね。室内テラス、続くリビングはお友達を呼んでパーティにも最適な空間と伺っておりました。
奥様:仲の良い友人達を招いて時折食事会をしていましたが、最近は実家や親のケアに週末を充てています。でも余裕ができましたらこの空間を心温まる集いに生かしたいと願っています。
C様:友達は宝ですからね(笑)

-親御様のことで忙しい皆様は、ご自分の生活についての整理は先送りになりがちです。
奥様:はい、ですから消費税増税前のこのタイミングで工事が出来て、ほんとによかったです。
愛着が深いこの家に生涯済み続けていきたいですが、今後のことを思うと、売却にしても賃貸にしても良い状態にはしておきたいですね。

小関:建物のバリューを維持して、その価値をわかってくれる人に使ってもらえるようにお手伝いしていきたいですね。

-本日はありがとうございました。

所在地:品川区
構造:RC造 地上2階
用途:専用住宅
設計:芦原太郎/芦原太郎建築事務所
竣工:2004年12月
改修:2019年5月
工事内容:外部長期修繕改修工事
・ 屋上防水やり替え
・外壁メンテナンス
クラック処理、シール部打ち替え、
化粧塗装

231-1 子どもが中心

 

「上町しぜんの国保育園(small pond) 」  撮影:アック東京

「上町しぜんの国保育園(small pond) 」  撮影:アック東京

 

写真は、このたび世田谷区に竣工した「上町しぜんの国保育園」です。
世田谷区は、全国的に見ても、待機児童がもっとも多い地域。保育園を作っても作っても間に合わないと言われています。
社会福祉法人「東香会」は、40年以上にわたり、子どもの創造性を育む保育事業に携わってこられ、「町田しぜんの国保育園(small village)」では、グッドデザイン賞や日本建築家協会優秀建築選を受賞。その特色ある保育に着目した世田谷区からの新たなオファーにより、上町に保育園が建てられることになりました。
東香会の齋藤紘良理事長は、保育園の園長としてだけでなく、ご自身が子ども向けの音楽活動を行い、アーティストを保育事業に参加させたり、カフェを作って地域の方たちを呼び込んだりして、ユニークな保育事業を展開されてきました。その齋藤理事長が「新しい園長に」と協力を仰いだのが、枠に収まらない保育で有名な港北ニュータウンの無認可保育園「りんごの木」の青山誠氏でした。
オープンしたばかりの「上町自然の国保育園」に伺うと、青山園長は開口一番「保育園なんてない方が、本当はいい」と言われるのでびっくり。それは「子育ては家庭でやるのが一番、それができないから、保育所でやるのであって、親や保育者だけでなく、街ぐるみで子育てをするという感覚が大切」ということなのでした。
「園庭に通じる大きな窓のところに立つと、子どもたちの動きがよくわかります。子どもは、自分のことを言葉では表現できません。体の動き、表情、泣く…。それらをよく見つめて、その気持ちを汲み取ることが大事。プログラムを先行させて、大人が子どもの行動を制限してばかりの保育園も少なくない。でもそれでは自己肯定感の低い人間になってしまいます。ここでは、見せるための行事は一切やりません。決まっているのは入園式と卒園式と運動会。運動会も子どもたちがミーティングをして種目を決めます」と話す青山園長の後ろの壁には子どもたちの張り紙が。4,5歳で自己主張しながら互いの言い分を話し合うそうです。
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青山誠園長。壁には子どものミーティングの張り紙。テーマは部屋の使い方のよう。

「職員一人一人によく言うのですが、もしこの建物がなくても、原っぱで砂山があり、思い切り子供たちが遊ぶことができれば何もいらない。建物が建つことでこどもの動きが制限されたら、それこそ建物にとっても不幸なこと。だから子どもが先で建物があと」と青山園長。建物への希望は、間口が広い大空間、そして昔の建築からヒントを得た、内と外の間の中間領域。内と外をきっちり線で区切ると、足をいったん外できれいにしてからとか、皆、並んでとなりがち。雑巾をおいておき、自分で足拭いて入っておいで、というゆるい感じが子どもの気持ちを育みます。中間領域は「縁側廊下」として実現しました。

「子どもを見るのは親だけ、保育園だけと皆さん言い過ぎです。街中の交通安全の問題だってそう。この辺は歩き始めた子が散歩する道だと、ドライバーがリアルに思ってくれればいい。車とママチャリがぶつかったら、間違いなくママチャリが負けます。なのにママチャリにだけ『気をつけろ』というのはちがう。弱者にだけ努力義務を課すのではなく、強者がゆずらないと」と青山園長。まだまだお話はつきません。
保育はいろんなことを学ぶ機会を得られるのだと改めて思い出しました。