229-1 地域で愛される建物に

 

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高山商店  撮影:アック東京

写真は、練馬にある食品関連の会社「高山商店」様の工場と事務所ビルです。関東ローム層という地質に恵まれ、大根の産地として有名な練馬は、昔から沢庵農家が多く、「高山商店」も、昭和10年、農家から現社長のおじい様の時代に漬物業を始められ、先代の髙山恵一郎氏の時代から、いわゆる「ガリ」と呼ばれる生姜の甘酢漬けの販売を始められました。

先代の社長がこのデザイン性ある建物を建てられた31年前、漬物の会社は点在しておりましたが、周囲にはまだ畑も多く、かなり斬新なものであったようです。しかし、先代社長は、宅地開発がさらに進むと考え、違和感のないようにデザイン性のある打ち放しコンクリートの建物を建てられ、工場部分も地下に収めて周辺への影響を最低限にしました。この地で息子様髙山幸治様や次世代の方々が長くご商売を続けていけるように、と配慮されたのです。

それから月日が流れ、30年を過ぎて、コンクリートの外壁はだいぶ傷みが見られるようになりました。
父上の恵一郎様が一昨年病に倒れられ、昨年春に他界される直前に現社長の幸治氏に「建物をきれいにした方がいい」という気持ちを伝えられ、社長は、「新築同様にきれいにする」と誓われたのでした。
黒ずんだコンクリートの建物の前に立った現場担当者は、「一周忌に何としても間に合わせたい」という社長の期待にお応えしなくてはと、コンクリートの化粧補修を行う専門業者に社長の思いを伝えました。現場では一体感が生まれ、この3月、きれいに建物は生まれ変わりました。
先代社長は、ご自分の目で見ることができませんでしたが、社長は、その遺志に報いることができたと大変満足いただけたようです。
長年その地で暮らし、ご商売をなさってきた親御様が亡くなられたとき、その土地や建物をどうやって引き継いでいくべきか、多くの方が今、その悩みに向き合っておられることでしょう。
単に相続税の問題だけではなく、特にお仕事にも関わりがあれば、事業継承という問題もあるでしょう。
そんな時に、地域で暮らしてくことに「先見の明」を持って、地域に開かれた、その場所にある必然性を持った意味のある建物を次世代に引き渡していければどんなに素晴らしい事でしょう。
今回は、そのような場面を見せていただき、建物が再び美しく生まれ変わる瞬間に立ち会えたことを光栄だと感じた次第です。
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改修前の、「高山商店」北側全景写真

228-1 静かさを求めて

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SHINKA HALL  撮影:黒住直臣

写真は昨年春竣工した、中央区新川の賃貸マンション「SHINKA」の地下ホールです。この2月に三期工事を終了したばかりです。近くには「髙橋(たかばし)」という橋があり、その河岸には船着桟橋もあり、往時の「運河」の雰囲気を感じさせてくれます。

建て主はこの地で賃貸オフィスビルを経営されていました。賃貸マンションに関しては初の事業です。
「建物が年を経るにつれ色あせていく事は宿命なのかもしれないが、ただ年月とともに賃料が下がっていく―それは何とかできないか」という思いを持っておられたのです。そんな建て主のつぶやきともいえる言葉に、この都心で長く事務所を営み、且つこの地に暮らしてきた建築家の長谷川順持氏は、新しく建てるマンションに新たな価値として古びない価値と性能を盛り込みたいと考えました。

例えば、東日本大震災以後、まず求められるのは耐震性です。一方、耐震性のある躯体がそのまま表現される打ち放しのRC造の建物も、都心では10年位で灰色に汚れて、見回してみると味になっているとはいいがたい。メンテナンスが必ず必要ならば、全面打ち放しはいかがなものか。打ち放しの良さを見せるなら、ガラスの内側で経年変化の影響を受けない形にして、外装はタイル貼りにし、ハイドロテクトで埃が付きにくいものはどうだろうか。長谷川氏は建て主と対話を重ねたそうです。

さらに、都心のマンションで問題なのは騒音です。窓を開けると、鍛冶橋通りの車の騒音がかなり部屋の内側に入ってきます。夜中も救急車が通り、換気扇の吸気口も音を取り込みます。サッシの遮音性能は、4つの等級がありますが、一番遮音性能が高いT4は二重サッシでないとならない。内部の広さを考え、T3を狙うことにした方がコスト的にもいい。そして吸気口は天井裏で蛇のように回らせると音が侵入しづらい。開口部の問題はかなり解決されました。
さらに防音性能を高めたのは、壁のALCの遮音性能をアップした事でした。ALCは外側にコーキングをして複数の枚数をついでいます。メーカーでは防水性能だけでなく、防音性能の数値比較も出しているのですが、その数値は複数のALCにシールを打って実験していることがわかりました。そこで、長谷川氏はALCの厚みを厚くするより、むしろシールを裏からも打った方がいいと思いつきます。法律が変り、柱と梁に壁を直接鉄筋で結び付けられないので、ラーメン構造に対して、スリットで乾式壁を立て込んでいくALCは、合理的であるものの音性能が不安です。その目地の音漏れを内外にシールを打つことで解決できると考えたのです。

もう一つは、採光の問題。特にお風呂です。全住戸の共通な印象として自然光の入る浴室としています。建て主も明るいお風呂に大共感。そこで一番北側にあって表から見えない、本来売れない部屋になりそうなところを一番日の光があたりそうなお風呂のあるプランにし、さらに光が当たらない2-7階には、防音性能の高い防音室を設けました。お金をかけることになった分、家賃も上がります。もともと音楽大学が近くにあるわけではないところに、「都心でありながら静けさが手に入り、一人の時間を楽しめる防音空間も持てる」という新たなマーケットを開拓したことになったのです。
オーナーの夢でもあったホールを地下に設けることになり、屋上に気兼ねなく自由に使えるスカイテラスも作りました。
結果的に、防音室のある北側の大きな家賃の高いスペースから入居者は埋まっていきました。マンションには、新たな価値が生まれたのです。

227-1 地域を支える医療療養病院

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写真は、2期にわたる工事を終えて完成した世田谷区経堂の医療療養型病院「児玉経堂病院」です。
以前の建物は木造で、本館は大正10年、別館は戦後、新館は築40年とかなり古く、前々より行政から耐震構造並びに防火管理等の問題から改築するよう指摘を受けていたとのことでした。このたび竣工を迎えられることになりました。

母体は、結核患者のための隔離病棟でした。もともと荏原に本院があったのですが、戦争で焼けてこの経堂の地に移ってきたとのことです。
当時はまだ住宅も少なく、牧場もあったくらいの、のどかな環境でした。
しかし、戦後、周囲が住宅街になるにつれ、木造で古いこともあり「基本的には周辺へのイメージは良くなかった」と、児玉新生会理事の児玉慶隆氏は振り返ります。
昭和20年代まで、結核は日本人の死亡原因の第1位であり、その高い死亡率や感染力のために「不治の病」と恐れられていました。BCGワクチンの普及や生活水準の向上などによって、結核による死亡者・死亡率は激減しましたが、現在も毎年約18,000人が新たに結核を発症し、約1,900人が結核で亡くなっています。(政府広報オンラインから)
児玉経堂病院では、一部残っていた結核病床も6年前に廃止しました。
全館完成で医療療養病床109床、将来的には一般病床11床を加えて120床になる予定で、外来診療の充実、更にリハビリ室も広く設ける事で長期の入院が可能な医療療養型を主にした病院となっています。
「療養病床」とは、病院にある「一般病床」「療養病床」「精神病床」「感染症病床」「結核病床」という5種類の病床群の中の一つです。病気や加齢などで長期の休養を必要としている人が対象で、慢性病の人が充実した医療ケアを受けられるというメリットがあります。
「療養病床」には「介護療養病床」と「医療療養病床」があり、それぞれ「医療療養病床」では医療保険、「介護療養病床」の場合は介護保険が適応されてきましたが、厚生労働省は、2017年度末で「介護療養病床」を廃止しました。理由は「医療の必要性の高い患者と低い患者が同じ比率で混在する」という統計に基づき、介護療養病床に入院する医療措置の必要性の低い患者を介護施設にスライドさせるためです。公的資金の見直し、医療現場の要請などがあり、2011年までに導入と言われてきましたが、これまで延期されてきた経緯がありました。

「医療療養病床」の児玉経堂病院は今回の建替えにあたり医療法の標準仕様に準じて、以下のような必置施設を充実させています。
「一般病床」として、各科専門の診察室 ・手術室 ・処置室 ・臨床検査施設 ・エックス線装置 ・調剤所 ・給食施設 ・診療に関する諸記録 ・消毒施設 ・洗濯施設 ・消火用の機械又は器具。「療養病床」として、一般病床の必置施設に加え、 機能訓練室 ・談話室 ・食堂 ・浴室、を設置。また、病床面積は6.4㎡、廊下幅も1.8m(片側居室)と法令通り広くなりました。
工事をしている最中も、病院運営のため、半分の建物で上記の施設を維持するという計画で、非常階段は屋内で2方向設置が求められるため、仮の階段室を中庭に設け、竣工後解体が行われるという具合でした。
病院経営の面でもご苦労された工事が完了し、関係者の皆様は、新たな建物でのスタートに心を躍らせていらっしゃることでしょう。

(p3の座談会で児玉慶隆理事と設計の山内研氏、担当者油木啓裕氏に、工事を振り返っていただきました)

226-1 新年のご挨拶

 

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 ラグシスヒルズ三軒茶屋   撮影:アック東京
新年、明けましておめでとうございます。
皆様方におかれましては、健やかに新しい年をお迎えのことと、お慶び申し上げます。
平成最後の新春、記録にも記憶にも残る新年の幕開けであり、弊社にとっても大きな節目の年となります。
この度、2019年1月1日付けで代表取締役が交代することとなり、私、岩本健寿(いわもとたけひさ)が新社長に拝命されました。
さらに、昨年10月1日に、弊社は創立20周年を迎えました。森村体制が「創業~発展期」とするならば、これからは「発展~成熟期」という位置付けを目指していきます。
 さて、我々を取り巻く建設業界は、東京五輪景気および消費税率引き上げ前の駆け込み需要という好況要素はあるものの、本年をピークに市場の縮小が予想されております。量から質へと需要転換が本格化するのではないでしょうか。
そのような時勢下ではありますが、弊社の進むべき道は変わりません。
社是「信義は万事の基※」を信条に情熱を持って仕事に取り組み、挑戦し続けます。
今後も役職員一同、皆様方のご期待を“超える”建築をつくり続ける所存ですので、今まで同様のご愛顧賜りますよう、お願い申し上げます。
2019年  元旦
 株式会社 辰 代表取締役 岩 本 健 寿