235-1 創立20周年を迎えました

「元麻布の家 K邸」  撮影:アック東京

「元麻布の家 K邸」  撮影:アック東京

バブルがはじけ、多くの企業、銀行が倒産した1999年10月、株式会社辰はスタートしました。

主力取引銀行の破綻をうけて、8月に前身会社が倒産。その後処理に追われながら、株式会社ユニホー会長の麦島善光氏(当時)の支援を得て、渋谷宮下公園近くのビルで新しい会社をスタートさせ、仕掛り中の17現場の工事を完成させました。
それは、「お客様のために、工事だけは完成させなくてはならない」という「建築屋」としての意地であり、協力業者の皆様のご理解と協力、社員の犠牲の上に成り立ったものでした。

その後1年目、2年目とお叱りを受けながらも、お客様、設計に携わる建築家・プロデューサーの方たちがめざすデザイン性・機能性に優れた建築をともにつくることの出来る、施工技術に特化した集団となるべく、一つ一つの仕事に愚直に取り組んでまいりました。

環境に配慮した建物、耐震性を備え可変性に耐えられる建物、地域を活性化させ、新たなまちづくりに寄与する建物、人の心を惹きつけ楽しくさせる斬新な建物。そんな魅力的な建物をつくることで、人々の暮らしに安心と潤いを与えるお手伝いができることが私たちの喜びです。

これからも弊社は、皆様とともに良い建物をつくり続けるため、情熱をもって挑戦していきます。

2019年10月1日

株式会社辰 代表取締役  岩本健寿

234-1 建築の不可能を可能に

「ReBreath Hongo 2018」  撮影:Kenta Hasegawa

「ReBreath Hongo 2018」  撮影:Kenta Hasegawa

 

今月は、文京区で再生された4階建ての共同住宅をご紹介します。
「ReBreath Hongo 2018」は、築50年の旧耐震で既存不適格の共同住宅でした。耐震補強をしても開口が小さくなり、居住性が損なわれたり、法律の改正などで建て替えようとしても元のボリュームを維持できない建物なので改修をあきらめたという話はよく聞かれます。が、「建築の不可能を可能に」を合言葉に多くの建物の再生を手掛けている再生建築研究所は、今回、既存のボリュームを維持しながら、耐震補強も行い、既存建物が持つ南側の空地を活かすなど、専有面積を増やして不動産の価値をさらに向上させました。

過去に建てられた建物が、増改築、耐震補強などの課題を迎えた時に立ちはだかるのが、「検査済証」がないことです。工事が適法に終えられた、とういう証明書ですが、昔はその取得率はかなり低く、また建物所有者がきちんと保管していない、所有者がいろんな理由で変遷しその保管がわからなくなっている、などという例は少なくありません。

しかし、検査済証がないことで法的に認められずに改修工事の許可が下なかったり、銀行からの融資を受けることが出来なかったりして、放置されたまま古びていく既存建物の何と多い事でしょうか。建物自体は工夫すれば何とか住める、この場所にずっと住み続けたいという人たちがいる。そんな思いを救い、既存ストックの活用に積極的に取り組んできた「再生建築研究所」の神本豊秋氏。昨年移転した、神宮前の事務所「ミナガワビレッジ」は、1敷地に4建物が建つ築60年の違反建築物でしたが、図面を起こし直し、耐震設計を見直し、60年ぶりに「検査済証」を取り直しました。豊かな緑の庭を残し、環境設計も見直して快適な建物を再生、入居、運営も行っています。

「ReBreath Hongo 2018」では、耐震改修などのほか、建物の省エネ化を進めるため、全体で1次エネルギーの消費を約45%削減するという環境設計が行われました。

現在、世界では異常気象が各地で頻発しており、2020年以降の温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の結果を受け、国内では2030年度までに温室効果ガスの削減目標を-26%とすることが設定されています。
住宅の省エネ性能を評価する際の基準には、2つあります。
①外皮性能を評価する基準(屋根や天井、外壁、床、窓など建物の外側の部分)
②1次エネルギー消費量(エアコンや照明、換気、給湯など、生活をするのに必要なエネルギーのこと)
基準値は地域ごとに定められて、その基準値以下を目指すことが必要となります。今回の改修工事は、改修でありながら国の定める省エネ基準以上の環境性能を有しています。日本は欧米に比べて、建物の評価に環境性能も加える意識がまだまだ低いと言われています。リノベーションが多く行われる中で、もっとその意識を全体で高めていけるようになることも必要だと思われます。

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233-1 変化は住宅から

今月は、神宮前に立ったコンクリート打ち放しの2件のビルのご紹介です。

「NC BUILDING」は表参道の東側の小道で、長年飲食店を営まれていたご一家のビルへの建替え工事です。お住まいを上層階に、テナントを下層階に設け、ご自身の経営されるお店も2階に入りました。

「シンシア表参道」は以前近隣で弊社が施工させていただいたビルの建て主様が、今回も新たなビルの工事をご依頼くださった物件です。こちらは、青山通りから西側に少し入ったところ、デザインをこだわった小さな店舗ビルが住宅街への道に並んでいます。

「シンシア表参道」の設計者、松崎峻氏(スーパービジョン)は渋谷桜丘町で30年以上、設計事務所を主宰されていました。神宮前では今回の現場近くのガレリアアーツビルやCROCSビルを手掛けられました。しかし、2年ほど前、息子さんのお嫁さんの実家が女所帯になって物騒だというので、息子さんの誘いもあって、さいたま市見沼区に多世帯住宅を建てることになり、今は息子さん世帯、お嫁さんのお母様世帯、そして松崎さんの思いが詰まったアトリエ兼住居にお住まいです。野菜が植えられている家庭菜園があり、高台のため他所から視線もはいらず、2階建てのアトリエは北と南の2つの庭に挟まれてとても過ごしやすそうです。70歳も超えられ、今回を機に桜丘町の事務所から完全に大宮の自宅事務所に拠点を移されました。

「大学卒業後戸田建設に入社、31歳のときに日大の同期で黒川紀章建築都市設計事務所に勤めていた北村昌三と独立しました。住まいも同じ中央線沿線で、渋谷でずっと一緒に仕事をしてきました」と松崎さん。
住宅は基本だということですが、最近の若い人の仕事で気になることがあるとおっしゃいます。コンピュータの弊害か、手描きができない人が多いと感じるそう。それに設計の最初の段階でCADで詳細まで描き過ぎ、「もっと大まかに全体を捉えてから詳細図に下りていけと、我々は習ったものです」とおっしゃいます。坪や尺の単位も実感としてわかっていない人もよく見かけるので、何とかしたいと感じられています。「家を建てるということは、ロマンでしょう。作家の林芙美子は、『放浪記』などで知られていますが、女学校を出ているけど、建築の学校で学んだわけではない。でも落合に自分の家を建てようと勉強して、本を250冊読んだそうです。山口文象に設計を依頼しましたが、本人もその辺の設計者には負けないくらいに詳しくなり、素晴らしい邸宅を建てました。その後10年しか住めなかったけれども、幸せだったと言っています。だから僕なりに建築史などをまとめて、若い人に伝えたいことがたくさんあるんですよね」

「それからこの地域には『見沼田んぼ』という大きな緑地があってとても魅力的なところなんですよ」と松崎さん。『見沼田んぼ』とは、徳川時代からの治水事業で開拓されたもので、農地を守るために「三原則」が定められ、開発が抑えられてきましたが、農業後継者不足が進み、現実にそぐわなくなってきました。今は「農」の多面的・公益的な機能が再評価されているため、さいたま市では、独自の『百万人の「農」-さいたま市農業振興ビジョン-』を打ち出しています。

「僕は、老人の街なんかがいいかな、と考えています。一人暮らしの老人が集まって暮らす。元気な人はそこで農業支援などの仕事もできます。そんなことをいろいろ考えさせてくれるのもここに引っ越してきてから。考えたら、住まいを変えるってとてもいいことだと思うんですよ。
アメリカ人なんかは移動に抵抗ない人が多いでしょう。仕事を変える、お金との付き合い方・人との付き合い方を変える。そんなことも、まず住宅から変えるっていうのもいいかと感じます。夏目漱石は80回、家を変えたそうですからね」と新たな意欲を刺激されているようです。

232-1 都心の工事

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「CUBE西麻布」  撮影:アック東京

今月は、西麻布の交差点のすぐ近くに建った、「CUBE西麻布」のご紹介です。

「CUBE西麻布」の場所には前回の東京オリンピックの頃建てられた木造2階建ての小さな店舗兼アパートがありました。大家さんは10年ほど前から古くなった建物の建て替えを考えておられましたが、一軒残った店子(床屋さん)のご商売が続いていたので、すぐにはできませんでした。それが3年前、床屋さんが「2018年5月に出ます」という決心をされたので、やっと建替えの設計がスタートしたのです。

敷地は六本木通りに面しており、今は立体交差になっていますが、六本木方面から谷底になる交差点の側道に面しています。
設計のバウ・ビルトの村上さん、榎本さんによると、工事にあたって第一の問題点だったのが、敷地の奥の部分(2/5)の下を地下鉄日比谷線が斜めに走っているということ。古い路線のため、土かぶりが少なく、地上面から3.5m下を走っています。当然その部分は杭を打てず、可能なところに杭をたくさん打つことになります。工事開始前の1年間、営団地下鉄と協議を重ねて杭の位置を調整し、既存家屋解体後に試掘も行いました。そこで地下鉄の越境もあったことが発覚しましたが、当時は図面もきちんとしておらず、事情を知る人はすでになく、という具合でした。

また、東隣の建物が境界ぎりぎりに建っていて、こちら側が下がらない限り隙間がないので、どこまで敷地を有効に使い得るかということが第二の命題でした。そこで、バウ・ビルトさんではそのような都心の工事の経験を豊富に持っている施工会社を決めるために、見積もりを数社から取り、最初に工務店を決めたとのことです。その上で構造も概算で基本単価を確認して、技術的なやりとりを具体的に決めていかれました。
「隣地とは50cmは開いてないと無理」という施工会社もいた中、救世主となったのが、建物の裏に通る2項道路でした。2項道路(にこうどうろ)とは、建築基準法第42条第2項の規定により、「建築基準法上の道路」とみなされる道のことで、「みなし道路」ともいわれます。辰の担当者はその裏の道を使う、という見積もりを出してきました。

大通りは都バスも走っており、昼間の道路使用許可はおりません。しかし夜間工事となると、ここ西麻布は隠れ家的な飲食店が多い場所で周辺への理解を得にくいのです。このみなし道路を使うことで、昼間も工事用車両が駐車できます。しかし、2項道路は小さなビルの裏側で不法占拠のたまり場となっていて、放置自転車、バイクが山のようにありました。既存建物の解体時、それらを排除することから工事の準備は始まりました。営業担当者が、周辺の誰もが本当は「なんとかしてほしい」と思っていたクリーンアップ大作戦を行いました。

テナントビルはボリュームを稼ぐことが命題ですが、完成したビルを見ると、天井の高さは余裕があるけれど、隣のビルよりは高くありません。
「容積率は使い切っていないですよ。本当はもう4層載せられるくらい。でも重量的に、鉛直荷重にしても引き抜き荷重にしても杭がぎりぎりなのです。1層でも増やすとはね出しの分、引き抜きも大きくなるので、杭が持ちません。階高だけなら、壁が延びる分くらいの重量だけで済みます」と榎本さん。

リーシングを行う不動産業者さんからは、「内外コンクリート打ち放しのかっこいい建物に」というご希望が出ています。細長く向こうが開け、「狭い場所、でも壁で目立つ」という方向性を考えていくことになりました。榎本さんは「断熱をやらないという発想もあるけれど、今の時代にエネルギー消費の大きい建物を造るのはよしと出来ないので、巧みに内断熱と外断熱を切り替える方法を考えた」とのことです。

さてどのような解決方法をとられたでしょうか。