207-4 「建物再訪」 3.大塚の家(N邸) 

耐震重視のサスティナブル住宅

今回は、2007年竣工した3階建ての戸建て住宅のメンテナンスのご紹介です。
長野県を拠点にお仕事をされてきたN様ご夫妻は、ご親戚の家に隣接する土地を取得されて、2007年、耐震性を重視したRC造のご自宅を建てられました。設計は都心の住宅設計を得意とする細江英俊氏です。お子様の独立やご夫妻の仕事の仕方の変化など、ライフステージにフレキシブルに対応できるプランを創出。建物前面の駐車スペースに前庭を置いたり、親戚宅に繋がる北側にも裏庭をおくなど採光・通風にも配慮しています。2階のリビングも南側に大きく開口部のある快適空間で、エアコンの室外機は屋上に設置し、さらに太陽光発電パネルも設置しました。
10年を経て、外壁にクラックが出てきたり、水漏れ箇所が見つかったこともあり、建物全体を点検し、メンテナンスを行うことになりました。

―10年を経て、お住まいはいかがですか。
奥様:子供が楽器を弾くので、遮音効果があるのはいいですね。あと冷暖房は、エアコンだけだと厳しくて、大型のガス暖房を入れました。
N様:私は特に不満はないけど、こちら(奥様)は「温熱環境は、床暖とファンヒーターだけで済む松本の家の方が、東京の家より温かい」と言っています。
奥様:松本はとても寒く、最初から温かい家を作ろうと、ハウスメーカーで木造住宅を建てたんです。雪はあまり降らないけど、凍結がすごいんですね。こちらではまず、地震の心配があり、「とにかく頑丈な家」とRC造を選択しました。実際2011年の震災があったのですが、3階の本棚が倒れたくらいでほとんど問題はありませんでした。
―設備など変えたいものはありますか。
奥様:特にないですが、防犯のシステムを変えてもいいかとも思っています。
細江:住宅設備は環境に応じて新しくなります。当時としてはまだ一般的でなかったのですが、東京ガスのエネファームの導入、太陽光発電の採用というご希望があり、屋上はパネル部分で10mを超えてしまうため中高層のお知らせ看板まで出して工事しました。
奥様:今回、たまたま水漏れがあったので、屋上に上がったら、予想以上に土やごみが溜まっていて、ドレインも詰まっていました。でも結構、景色もよくて、「もっと自分で上がってもいいわね」という話が出ました。
細江氏:防犯のことも考え、簡易なはしごにしておいたのですが、「メンテナンスのために、使いやすいタラップをつけるのもいい」という発見がありましたね。
奥様:松本の仕事との二重生活もあと2年くらいで終わる予定ですから、家で過ごす時間も増えることでしょう。1階の北側の部屋には床暖房も設置していますが、部屋を使いこなせていないので床暖房をさらに広げて楽しいスペースにしたいですね。
それから今回、松本の家もメンテナンスしたのですが、そちらは「屋根壁パック」というわかりやすい形で、費用もあまりかかりませんでした。こちらのRC造は予想以上で、RC造の規模の大きい住宅のメンテナンス費がそれなりにかかる、ということを改めて知りました。
細江:資産価値という点では、売却とか部分的に賃貸にするという場面でもない限り、実感いただけないかと思いますが、お二人で1階だけで生活ができるようにもプランニングしております。資産価値を上げるためにも、きれいに使っていただき、十分なメンテナンスを行っていただければ、ほんとにありがたいお話です。
弊社営業:そのためにも、お客様と長いお付き合いをさせていただき、ぜひご意見をいただければ幸いです。
―本日はありがとうございました。

構造:RC造
用途:専用住宅
規模:地上3階
設計:細江英俊建築設計事務所
竣工:2007年1月

204-4 「建物再訪」 2.N(エヌ:練馬集合住宅) 

 

 

今回は、ShinClub 74 でご紹介した、「Neri」こと「N」のオーナー芹沢尚弘氏と竣工当時若松均建築設計事務所で現場を担当し、「N」の住人としても芹沢氏と家族ぐるみのお付き合いを続ける、萩野智香氏(萩野智香建築設計事務所)にお話を伺いました。
練馬駅周辺の数多くの不動産物件を先代から引き継ぎ、街の環境を見据えて不動産オーナーのあるべき姿を提案する芹沢氏は、以前勤めていた「PDO」で「地域とのつながりを考慮した美しい共同住宅」案を募集。高齢者の多い下町情緒残る界隈の特性を生かした若松均氏のプランが採用され、2006年3月、共同住宅「N」が完成しました。竣工後10年を迎え、今回、外壁塗装、防水工事などの改修工事を行わせていただきました。

―芹沢様はずっと練馬にお住まいですね。
芹沢:曾祖父の代からになります。農家で、この辺はまだ畑ばかりでした。祖父の代から町の不動産屋さんとアパート経営を行うようになり、父の代で徐々に増やし、その後私が引き継いでいます。
常々疑問に思っていたのはほとんどの地主さんが経営を不動産屋さんに丸投げで、「相続対策としてある程度の収入が確保されればいい」くらいの意識だということ。集合住宅の規模になると、街の景観として影響力はすごく大きいのに、無責任にただ建物を作り続けています。最近はワンルームがほんとに増えてますが、練馬ではある程度の広さが確保された部屋に、シェアして半額ずつ払って住む方の需要が多いくらい。子供ができればファミリータイプに引っ越す、子育てエリアです。新築神話は賃貸住宅においても、最近の若い人には当てはまらないし、竣工後5,6年経って入居者が埋まらなくなっていく物件が多いです。東京の賃貸住宅は総じて余っていくわけで、建築家の設計による建物はもちろん魅力がありますが、それ以上に普通の建物をきちんとメンテナンスしながら、長く使っていくことも忘れてはならないことだと思いますね。
―「N」は近隣の方からの評判も良いそうですね。
芹沢:近所の人が通り抜けられる開放的なプランで、「いいものができたね」という声をいただいています。入居者の方も建物を愛し、ゴミを拾うとか、清掃を心掛けてくれ、長く入居してくれています。ですから工事に関わった設計者の方、工事の方、そして街の人たちをがっかりさせないよう、いい状態を維持していきたいですね。メンテナンスは、工事の最初の挨拶、工事中のお声、終わった時の挨拶など近隣の方や入居者との新たなコミュニケーションの機会です。お互い、顔を合わせて話を交わすことこそ、セキュリティに繋がります。5年後には、防犯や宅配BOX、インターネット環境など入居者のための更なるメンテナンスを計画しています。街行く人に「愛着がないんだな」と思われるような建物にはしたくはないですね。
―萩野さんも「N」の住人でいらっしゃったとか。
萩野:若松事務所に入所した頃、芹沢さんの所有するマンションに入居することになって、いろいろとお話を聞くようになり、物件を担当することになりました。完成後、今度は自分が関わった「N」に住み、自分が考えていたことの答え合わせができたことは得難い経験でした。特に、2つの反転するプランの部屋に住み替えたのですが、「これだけ室内の環境が違うんだ」ということを実感しました。10年間で建物が変っていくことも経験できて、本当に自信をもってお客さんに伝えられることが増えました。改めてお礼申し上げます。やはり、オーナーの志があるかないかの差で、環境はずいぶん変わると思います。芹沢さんのような方とよいまちづくりをしていければと思いますね。
―練馬を救う会、ですね。
芹沢:同世代のつながりは既にあるんです。他のエリアで、やはり先代からの不動産を引き継ぎ、新たに複数のマンションを建てられて、街に良い環境を与えているオーナーとのつながりも生まれそうです。
―本日はありがとうございました。

 

構造:RC造+S造
用途:共同住宅
規模:E棟地上3階 W棟地上4階
設計:若松均 /若松均建築設計事務所
構造設計:多田脩二
照明設計:戸恒浩人
企画:PDO
管理:スタジオエヌ
竣工:2006年3月

 

 

202-4  「建物再訪」1.元代々木の家 「家は買うのではなくつくるもの」 


撮影:アック東京

辰が発足して18年目。これまで施工させていただいた建物は300近くになりました。新築物件の一つ一つに「嫁に出す気持ちで、お引渡ししてきた」という社長森村の言葉通り、建築は一品生産。その後も長いメンテナンスを通じて、お客様とお付き合いしてまいります。そんなお客様と建物そのものの価値について語り合いたい、という企画をスタートさせることにしました。建築家の先生方が、お客様の暮らし方や与えられた敷地の環境に応じて設計し、その建物を施工する建設会社が責任をもって維持管理に関わってこそ、良質な建物は年月を経て価値を生み出し、長く愛される景観として生き続けます。
一方、それらが適正な価格で売買される健全な市場が、まだまだ日本には育っていません。建物をきちんと評価いただく市場の発展のため、施工会社ができることをお伝えしてまいりたいと存じます。

第1回は、「元代々木の家」。1999年、前身会社で、ご自宅の施行ご依頼くださった大野様は、前身会社でが主力取引銀行の破たんにより倒れた後も、引き続き辰での施工を希望、契約の変更にも応じてくださいました。当時、新会社として新たなスタートを切る我々に力を与えてくれました。
その家も竣工後、16年が経ち、ご家族も増えたことから、新たな家を建てられることを決意され、その際、なるべく竣工当時の状態に近い形にメンテナンスしてから売却しようと、辰のリニューアル部にメンテナンスをご依頼いただきました。大野さまに お話を伺いました。

―17年前、前身会社が請けていた工事を新会社へご契約いただいたときのお気持ちはどういうものでしたか。
大野:そもそも新築時に設計の先生に依頼はしましたが、辰さんの施行はあこがれでした。建築が好きで、青山・神宮前周辺をよく見て歩いていましたが、「いい建物だな」と思うと、施工会社が辰さんということが多々あった。予想よりも高かったのですが、自分が見た現場で感じた施工センスから、辰さんにお願いしたいと思いました。破たんしたときも、作るということでの問題ではなかったのでから、僕は全然かまいませんでした。
―当時、17の仕掛り工事のお客様には、ご迷惑をおかけしましたが、契約を変更いただくなどして、完成にこぎつけました。
しかし、発足したばかりの「ShinClub」にすべての竣工情報を掲載する機会は逸してしまいました。この度リニューアル部がメンテナンスを請け負わせていただき、良い機会となりました。
大野:今回、建物を購入いただき、引き継いでくださることになったTさんは、まだ僕が居住中に内覧に見えたのですが、環境や建物だけでなく、僕の暮らし方に共感してくださった。物も増えて、片付いてもいなかったのですが、「こういう方に購入いただいて、引き継いでもらえるとうれしいなぁ」と思いました。
コンクリートは時間の経過によってメンテは必要ですが、そこで安易な方法によって景観が勝手に変わってしまうようなやり方はダメだと思いました。杉板型枠の打ち放しコンクリートのテクスチャーを白く塗りつぶしてしまうようなことは違うと思うのです。周辺に暮らしている人たちの環境を、見慣れた風景を大きく変えてしまう。コストが心配でしたが、予算から最大限の成果を得られるような逆提案をいただいて、「やっぱり相談してよかったな」と思いましたね。
「ShinClub」も同じです。会社が続くことと同じように、ずっと同じスタイルで続けていることに価値があると思います。

僕はよく子供に「家は買うものではなく、つくるものだよ」と言っています。これからも、子供には「家はつくるんだ」ということ、誰に頼むかが大事だということを伝えていきたいと思っています。

―本日はありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

元代々木の家
構造:RC造
規模:地上3階
用途:専用住宅
設計:正屋デザインシステマ
竣工:2000年3月