(株)辰 通信 Vol.50 発行日:2004年5月 
株式会社 辰 東京都渋谷区渋谷1-24-4-7F  編集発行人:松村典子
今月のトーク
「自己責任の家」 
せっかく苦労して建てたマイホームが、納得のいかない家であったり、欠陥住宅やシックハウスとなってしまったりすると大変です。住宅は自動車などと違って返品はできません。実際の被害による損失はもちろんのこと、不安と憤りそして後悔の念は、金銭で取り戻すことはできません。「製造物責任法(PL法)」など、ものづくりに関する責任の所在を明確化するために、様々な制度や活動が展開されていますが、解決までの道のりは責任転嫁に汲々とする人たちとの空しい戦いの日々が続きます。ですから、家作りの責任を他者に転嫁せず、「自分の家は自己責任でつくる」ことにこだわる人が現れるのは当然のことです。今回は、「自己責任の家:H邸」が完成しましたのでご紹介いたします。

「まかせきりにはしない」 
建築主のH氏は若手の法律家で、自宅の建設にあたりご両親からのアドバイスもあり、「建築家に任せきりにせず、自分の判断で自己責任の家を作ろう」という方針を立てました。とはいえ、多忙な中ですべてを自分でやるわけにはいきません。まず始めに家作りのパートナー探しから始めました。もともとある設計者にプランを頼んでいたのですが、希望に対しての折り合いがつきませんでした。そこで今度はCADも使って、自分で基本プランを考え、実施設計と概算見積を地元施工業者に依頼。その間、ご自分でもインターネットや雑誌で知識を仕入れているうち、弊社のサイトに行き着きました。「外断熱工法」について相談されたH氏に対し、弊社は「打ち込み工法はよくない」というアドバイスを差し上げ、H氏は「失敗例をみせてくれた」ことに感銘を受けたと言います。ただ、詳細が決まっていない状況で弊社にも概算見積を依頼したところ、当初の想定金額よりも高かったとのことでした。地元業者の工法では北側斜線制限に対応できないことがわかり、加えて弊社提案の「ドライビット工法(東邦レオ)」の外断熱を採用することにしたH氏から、再びご連絡をいただいたのは、6ヶ月後のことでした。

矢のように届くメール
 H氏のご説明を聞きながら図面を拝見した時、弊社はほとほと感心しました。まだまだ工夫の余地のある、荒削りな内容ではありましたが、あいまいな表現を嫌い、特に仕上げや仕様については、ほとんど余すところなく書き込まれていました。見積もりの最中も、その後の調整時もH氏からは細かな指示や回答が電子メールを使って矢のように届きました。対応にあたった弊社の窪田営業部長は、当時のことを「メールを送信し、トイレに行って席に戻ると、もう返信メールをいただいていた」と振り返ります。H氏の情熱に弊社も一念発起し、構造に関する監理だけは第三者に依頼することを条件に、監理業務を含めて請け負わせていただきました。
効率的な定例打合着工と同時に、週に一度の工程会議が始まりました。通常の工事と異なり、「設計者」という船頭はいません。H氏曰く「やりたいことはすべて図面に描いてありますし、不安なことはメモでお渡ししました。さあ、てきぱきやりましょう」という調子です。ごもっとも!!関係者が集まってだらだらとなりがちな会議が一気に引き締まりました。また、H氏は決して独断で判断しようとしません。「素人の図面です。おかしなところがあったら、何でも指摘してください」といわれると、初めは指示だけを待っていた現場のスタッフたちも「言うべきことは言わないといけないな」ということが分かり、積極的に提案するようになりました。着工間もなく、地方の事件を抱えることになったH氏は、定例に毎回出席できなくなったため、前日までの協議事項、そして議事録に書き込みをして送るようにし、出席されたときは、「皆さん、忙しいでしょうから、用が済んだらお引き取り下さい」となるべく短い時間で打合を終わらせます。そんな言葉も、素直に受け止めればありがたいご配慮でした。

広がる自己責任の輪
 現場は、H氏の通勤路に面しているので、こまめに工事の様子を覗くH氏から「中村主任が朝8時にいないのに、作業が始まっています。」とか、「昨夜は最終電車で帰宅しましたところ、コンクリート打設後、左官屋さんと中村主任と松村氏が立ち会っておられて感動しました。」などのメールを頂戴しました。また「冬期のコンクリート養生は○○でしかるべきだと思います。」など、工法にも詳しくなったH氏の質問に、手馴れていたはずの技術報告も、「○○を根拠に××だから問題ありません」という説明を余儀なくされ、教科書や法令集を確認しながら対処しました。H氏に誘導されて費用のかかる提案をしてしまうと、更にその費用を捻出する提案をしなければなりません。一人が自己責任にこだわると、次第にその輪が広がり、関係者すべてが自分の責任を明確にし、それを全うせざるを得ないような雰囲気が出来上がってきました。手間をかけた分遅れてしまった工期も、工夫して取り戻さなければならないという責任感が、おのずと現場を包んでいきました。

最終検査
 最終検査の日、細かいチェックをした後に、ふとH氏が漏らした「皆さんの苦労を知ってしまったので、妥協したくない自分と、大目に見てあげたいもう一人の自分がいて複雑な気分ですよ」という言葉を、決して現場のスタッフは聞き漏らしてはいません。責任を果たすことの厳しさと、すがすがしさを痛感させていただいた思いがします。
作品紹介:都立大の家:F邸
  monthly architecture 01
四方に既に家が建っており、日照エリアが限られている敷地である。隣地の建物のボリュームも含め、日影のシミュレーションを取り、開口部の位置を決定した。北側採光という単純なプランではなく、むしろ坪庭を設けて、その日当たり部分に対し吹き抜けをつくって、日照条件の悪い場所に明るい家を計画する事が出来た。日照の制約により、敷地に対し壁が斜めになっているが、パースが出てかえって視覚的にも広く感じられるようになった。1階のダイニングとリビングの図式分けも考慮し、庭のレベルに目線が入ってくるようにリビングの床を下げた。庭が広く見え、家族が集まる空間がより開放的なものになっている。(武松幸治氏 談)
所在地:東京都目黒区
構造:RC造
階数:地上3階
用途:専用住宅
設計:武松幸治+E.P.A環境変換装置建築研究所

全景
私道奥右側奥がF邸

1階から2階への階段

吹き抜けのあるリビング

3階個室
斜めになった天井も三角形に切り込んだ開口部からの景色で広々と感じる。

伊東裕伸主任

東田貴宏係員
現場担当:伊東裕伸主任 東田貴宏係員「急勾配の屋根をコンクリート金ゴテ押さえする作業が大変でした。蓋(外型枠)をするか悩みましたが、蓋をしないで打設できたのが良かったです。隣地との境界がせまっており、資材の搬入条件が厳しかったのですが、隣地の方の協力を得られ、車の乗り入れをさせていただき感謝しました。武松先生には以前も『瀬田の家』でお世話になったので仕事はしやすかったですね。常にスケッチをその場で描いていただけるので、打合もスムーズに行なえて現場としては助かります。(伊東)
建築家紹介:「建築家とアーティスト
 武松幸治+E.P.A環境変換装置建築研究所/monthly architect 01
武松幸治 profile 1963年 長崎県生まれ  
1986年 多摩美術大学美術学部建築科卒業
1986年 (株)ユニテ設計・計画入社  
1987年 都市建築ワークショップ ロンドンAAスクールサマーセミナー参加
1988年 (株)クリエイティブ・インテリジェンス・アソシエイツ入社
1989年 ブロンソン・コーツ・アーキテクチャー勤務(ロンドン)
1991年 環境変換装置建築研究所 一級建築士事務所/EPA設立
1996年 東京都建築士会平成7年度住宅建築賞受賞
 第1回にご登場いただく建築家は、㈲E.P.A.環境変換装置建築研究所の武松幸治氏です。「龍雲院」で平成7年東京都建築士会の住宅建築賞を受賞されています。このプロジェクトは五感を総動員し自然を観賞するというアジアの姿勢を現在の造形と空間に結びつけることがテーマでした。また弊社施工の「トランスビル」は、都市の革新的なオフィスを実現したものです。弊社では他にも「瀬田の家」「深沢の家」「代田の家」「南麻布の家」そして先月完成した「都立大の家」など多数施工しています。
―「都立大の家」、斬新なデザインで社内でも見学会をさせていただきました。

武松:設計をするときは、デザインはもちろんですが、敷地条件や法規制をクリアしながら最大限のボリュームを使い、「どうやって最適な環境を提供するか」を考えます。それは多分他の建築家の方と同じです。デザインは、求められる機能や条件で明確になります。今回は方向性が決まったので、変更はほとんどなかったですね。
―事務所の名前にも表されているように武松さんは、エコロジーにこだわりのある建物づくりをしています。
武松:事務所を立ち上げたときは、まだエコロジーが世間に認知されていない時期で、オゾン層破壊などに対してある種の危機感を持って「自給自足型」の建築を目指し、「環境を変換する装置としての建築」を提案していました。ところがエコロジーが注目されるにつれ、ビジネスばかりが強調されてきて、自分としては一時期そのような動きに違和感を覚え、個人的に建物を依頼された方に発信し続けてきました。辰で施工した「トランスビル」も、以前のオフィスと比べ坪数は広くなっているのに、光熱費のランニングコストが40%から60%ダウンしています。ハニカムガラスの外壁で、夏は光をシャットアウトし、冬は採光を十二分に取る、冷暖房費を節約する状況を作り出しています。
―数字としても実証されているわけですね。

武松:現在、福島の東白河郷に完全自給型の農家を計画しています。オール電化ですが太陽電池のみ。飲料水は地下水で、トイレなどの生活用水や断熱のための屋根の冷却水は雨水を利用します。雨水を受けるのに効率の良いHPシェル(フライブルグのパビリオンで有名)の屋根を採用しています。オーナーは都会住まいの50代の方ですが、リタイヤしたあと、第二の人生は農業をやろうとしています。田舎暮らし的なわらぶき屋根の家という案もあったのですが、都心で暮らし、ブロードバンドでインターネットも楽しんでいる―そういう人のリクエストが、実際のトラクターのサイズから、どこで収穫物を乾燥するか、保存はどうするかなど、かなり具体的なわけです。「住宅は最小限、納屋スペースの上にワンルームで広々と使えればいい」ということで、機能的な形態の家になりました。

―武松さんは、青森の伝統工芸「ブナコ」を使った照明や、MDFの積層面を見せた3次元加工の優れた家具もデザインされています。
武松:最近は特注でソファなど作ることが多いですね。建物に合う家具がなかなかないし、入荷に時間がかかったり、良いデザインの物はサイズオーバーだったりする。リビング廻りはいろいろなリクエストが出てきます。施主の要望に合う形態の家具を設計しています。ただ商品化のための家具デザインとなると、そう簡単にはデザインできないですね。むしろ「ブナコの照明」や「MDFの家具」などは、守りたい技術があってそれを何とか維持できないかと、職人やデザイナーとの共同作業で出来たものなのです。

―ところで、武松さんは現代美術の展覧会の会場構成など、海外の著名芸術家の方とのお仕事も多いですね。
武松:今、ロンドン在住のアーティスト、アニッシュ・カプーア(Anish Kapoor)の作品を国内で作っています。1991年、横浜で仕事をしたことがあるのですが、純粋な空間を作り出す作品です。彼とは空間を構成することに共通の意識をもっているので、また一緒に仕事が出来るのは本当にうれしいですね。
アーティストたちには、「アーキテクチュアル・マニピュレーター(Architectural Manipulator )」と呼ばれています。「調整役」というところでしょうか。誰もやらなかった領域、まったく人がいなかったわけではないのですが、アーティスト側の意識に立ってものづくりをする人が、日本には少なかったのではないかと思います。パブリックアートでも、どこかでアーティストと建築する側との意識がずれていろいろな問題が起きたりする。アーティストが何を表現していくかを理解してあげないと、彼らの存在の意味がなくなります。そのために持っている知識を役立て、サポートする、それが建築家だと思いますね。

―事務所には、1994 年「欲望の砂漠」という展覧会に出展した武松氏の理想郷(循環型システム)の模型が飾られています。長崎の陶器の町「波佐見町」の、街の中にデザインがあふれる環境で育った武松氏は、アーティストであると同時に骨太の社会派建築家でもありました。
施工:辰トランスビル
現場最前線:安心して次へつなげる解体工事を」 
株式会社コクボノベルティ 代表取締役社長小久保孝幸氏 /under constrcution 01

小久保孝幸 社長
第1回は、建設工事で最初に現場に入る、解体業の会社です。 (株)コクボノベルティは、平成10年創業、今年で6年目に入りました。 社長の小久保孝幸氏(写真左)は、もと九重部屋の力士(現役時代の四股名は鷹の富士)。現在も蔵前の事務所から時折、部屋の後輩の練習を見にいかれることがあるそうです。
小久保社長に、最近の解体現場の話を伺いました。
小久保:ご存知のように、平成14年5月の建設リサイクル法の施行により、最終的に廃棄物の処分が確認されるまで1ヶ月ほどかかるようになりました。産業廃棄物処理伝票<マニフェスト>が今では7枚つづりになり、保管も含め、書類業務に時間がかかるようになりましたね。(マニフェストとは産業廃棄物の不法投棄を防ぐために、解体工事現場から出た産業廃棄物がどのように処理されたのかを書類にしておくもので5年間の保存が義務付けられている。)
ガラやコンクリートの分別は重機で行なえるのですが、例えば建物床部分のコンクリートの裏に、断熱材として発泡スチロールのようなものがついている場合、人手ではがしていかなくてはならず大変です。(写真右)
 またリサイクル自体は良い事だと思いますが、中間処分場で分別を進めていっても、最終的にどうしようもない混合物が出てきます。そういったものを処分できる施設はまだまだ民間任せの状態です。処分場は周辺の反対を受けなかなか建設できないものです。周囲に水が漏れないようにそのまま埋め込む「安定型」、水の処分をしながら管理する「管理型」など、いずれにしても指導をするのであれば、国が大きな最終処分施設を考えていただきたいと思いますね。
また「廃ガス規制」により、現在都内では、ダンプの台数が減っています。運搬面からもコストがかかっています。

三人の作業員がコンクリートのかけらから手で発泡スチロールをはがしている。
―武蔵小金井の社宅解体現場に伺いました。北原正章現場監督にお話をうかがったところ、「解体工事は、騒音や振動で基本的に近隣の方にご迷惑をおかけするわけだから、工事の時間帯や安全管理には十二分に気を使います」とおっしゃっていました。
小久保:そうですね。解体業は、工事で最初に現場に入ります。その後、建物が建ち上がるまで、長い施工期間があるわけですから、安心して次の工事業者の方につなげられるよう、近隣の方に御理解いただくことが第一と心がけています。
 ときには、建物の建設そのものにお怒りになる方もいないわけではありませんが、そんなときには、工事の内容を十分にお伝えして、わかっていただく努力を続けます。結局それしかありません。
―小久保社長は、13年の力士生活で培った厳しさと真面目さが、大きな体と穏やかな風貌からにじみ出ている方でした。
TOPIX/INFORMATION
BLUXビル 引渡し 4月28日 目黒区
 道路拡幅計画に伴う、セットバックに対応した外壁改修工事。9階建ての複合ビルの1階から3階部分までを店舗改修も考慮に入れ、デザインを変更しました。
改修設計:鈴木孝紀/HAL建築研究所

T邸増築工事 地鎮祭  4月11日 練馬区
 T様の3棟目の建物となる今回は、
息子様夫婦との同居となる2世帯
住宅の増築工事です。 設計施工:㈱辰
What's New
「Vague(二十騎町の集合住宅)」内覧会のお知らせ
共用のエントランスとなる中庭に水盤のある集合住宅が完成しました。コネクティングドアで2住戸をつなげることができるガラス塔のような北棟と、
中庭に大きな開口をもったメゾネットタイプの南棟が中庭を挟んで建っています。ぜひご覧下さい。
※敷地に駐車場はありません。コインパーキング以外路上駐車はできませんので、車での来場はご遠慮ください。
日時:2004年5月22日(土)13:00~17:00
所在地:新宿区二十騎町1-39
交通:地下鉄 大江戸線牛込神楽坂駅より徒歩6分 東西線神楽坂駅より徒歩10分
企画・管理:タカギプランニングオフィス
設計:architecture WORKSHOP
構造:構造計画プラス・ワン
階数:地上5階建 主要用途:共同住宅+住宅
延床面積:1513.02㎡   建築面積:417.16㎡
編集後記
リニューアル版、いかがでしたでしょうか。今後とも、より充実した内容を心がけてまいります。ご意見、ご要望をお待ちしております。