221-3 地域を支える福祉施設 対談:板井佑介/ケアメイト代表取締役+金野千恵+アリソン理恵

2018年8月12日 at 2:39 AM

(p1より続く)

-複合的な要素の建物を成立させるためにどういう点を工夫されたのでしょうか。

アリソン:今回の敷地のように高密度な街の中に、地域の人、子ども、高齢者の方が過ごす場所を一体的に作るには、行政との調整においていくつかの縦割りの部署との協議が必要でした。例えば当初、高齢者のための場所として申請した部分は、子どもなど、他の利用者が使えないという指摘などもあったのですが、丁寧に説明し、運用上問題がないということで一つ一つクリアしていきました。制度の中では違う種類の人と定義されている子どもや高齢者、地域の人たちも、本来はグラデーションの中に位置するもので、例えば「ご飯を食べる」ということにおいては平等な存在です。建物の中央、おへその部分にキッチンを置くことで、食べることを介していろんな人たちが繋がっていくことができると考え、制度的なことを調整しながら実現させていきました。

金野:行政との関係では、ケアメイトさんがこの地で60年の間活動されてきたからこそできたということも多かったと思います。このようなオープンな建物を作ることができたことも、これまで培ってこられた地域との信頼関係があってこそだと感じています。抑えるべき部分は抑えながら、制度によってできてしまう空間を受動的に受け入れるのではなく、思い描いた場所を実現するために可能性を模索し、調整していくことにやりがいを感じますね。

板井:今回のような施設のコンセプトは、やっぱり新しいものなんです。業界としてスタンダードな形式ではない。ですから、新しい物事に日々チャレンジしながら、自分たちでこれから創造していくのだと感じることができるまで、我々もいろんな経験をしていくことになるでしょう。基本的に、「ダメ」とか「無理」とか、「うまく行かないからあきらめる」という方向で進めることだけは無しにしていこうよ、と言っています。どんどんいろんなことを受け入れて創造していけるケアの現場を作っていきたいのです。
最近は、小学生の女の子が勝手に来て、赤ちゃん抱いてあやしてる。「じゃあ、小学生がもっと来やすくなるには?」と考える。そういうアプローチは、とてもいいと思いますね。この業界、「安心」「安全」というワードが付きまとうのですが、どこまでやるのかを考えていかなくてはならないと思います。
金野:実は建物を作っていくプロセスの中で、この建物の「門や柵を作る」という話が一度も議論になりませんでした。こういったプログラムで、ゆとりのある敷地だとほぼ100%、「どこをセキュリティラインとするか」という議論になります。
今回は計画の初期段階から門を作って鍵をかけるような「閉ざされた拒絶感を感じる施設を作り続けるべきではないのではないか」という前提があり、また地域に開かれることで地域の人も含めて見守る場所にすることで、門を作ることとは違った「安心」「安全」の作り方があるのではないかと考え、この建物のオープンなエントランスが実現しました。こういった街への構えは都市型施設のモデルになると感じています。

アリソン:ロッジアやテラスなどの生活室に繋がる半屋外空間は周囲から見えるように配置されていますが、地域の人が入っていっても良さそうだなと感じるスキを建築として設えることは重要だと思います。

板井:当社の他の事業所の「子ども食堂」に来たことのあるお母さんが、この場所の情報を得て、「今度はただ料理を作って提供するだけでなく、子どもに料理の仕方を教える『料理教室』もやってほしい」と提案してきました。それで気づかされたのですが、そういう提案を受けるきっかけづくりが大事だと。ぼくらだけでやるのではなく、「それならむしろ一緒にやろう」とやる側に引き込むことを考えています。

主体は、地域の方。ぼくらはそれを応援するのが理想です。皆で考えてもらって、参加してもらえる場にすることがまずは大事ですね。介護保険制度は3年に1度のペースで変わっています。ただそれを追いかけていては、自分たちで何かしている感じがなくなる。そうではなく、自分たちで考えてやっていきたいですね。

アリソン:福祉業界はまさに成長している分野で、例えば「共生型」といって高齢者と障害者の双方が使える枠組みの施設が今後実現されていく制度ができてきたりと、日々更新されています。さっきの食堂の件でも、地域の方が出入りすることが普通になれば、「入っちゃダメ」などと言えなくなってきます。そうやって法制度が変わっていくことで、新たな居場所が実現できるようになっていくのではないかという期待があります。

板井:残念なことにただでさえ介護業界は何かあると、すごく印象が悪くなるんです。だから、やっていることをきちんと見てほしい。特に「地域に対して確かな視点を持っているかどうかを事業所指定の要件に入れてほしい」と自治体に働き掛けようと思っています。

また今回、金融機関に土地活用のあり方としてのペーパーを作ったのですが、アパートより社会的に形を示せる方がもっと良い運用になるんじゃないかと感じました。それに120人の入居者が入る特養を作るくらいなら、数十人位の小さい規模の施設を作っていく方がよっぽど有用です。それが都市部の地主さんのチャレンジに繋がっていくのもいいと思いましたね。

—本日はどうもありがとうございました。
◆株式会社ケアメイト
住所:東京都品川区西大井2-4-14 TEL:03-3772-1461
設立:1996年8月 代表取締役:板井佑介
従業員:235 名(2018 年3 月現在)
サービス:居宅介護支援、訪問介護、訪問看護、(看護)小規模多機能型居宅介護、
保険外サービス「ケメモア」、家政婦紹介、高齢者向け宅配弁当サービス
保育事業(けめともの家・キッズ)
◆一級建築士事務所teco
東京工業大学出身の金野千恵氏とアリソン(根本)理恵氏が2015年設立した建築設計事務所。住宅、家具、コミュニティースペースなどの設計、建物や、まちに関するリサーチを行っている。
主な作品:向陽ロッジアハウス(KONNNO)、第15回ヴェネチアビエンナーレ国際建築展2016 日本館『en(縁): art of nexus』 会場デザインなど。