151-3 谷尻 誠/SUPPOSE DESIGN OFFICE 代表

2013年4月14日 at 12:02 PM

既成概念をくつがえすところから始める

「建築の本質は行為にある。本質を考えないとだめなんです」

今月は「(La Torretta)沼袋の集合住宅」の設計者、谷尻誠氏にご登場いただきます。

今、若手建築家でもっとも活躍が注目されている谷尻誠氏。2003年、傾斜地に設計したカフェ併用住宅「Café Float」(毘沙門の家)で注目を浴び、以来、内外からの設計依頼が引きもきらない。建築だけでなく、ミラノサローネなどの展覧会やイベントなどの企画・運営、講演なども行う。広島を拠点に、東京にも事務所を持ち、活動の領域は広がっている。東京事務所でお話を聞かせていただいた。

―活動の拠点の広島事務所では設計だけでなく、毎月「THINK」というイベントにいろんなゲストを招いて、トークショーなども企画されていますね。なぜですか。
谷尻:建築を考えるとき、基本は「創らないこと」だと思っています。レストランを作るのに必要なのは、食事の行為と料理と料理人。普段、設計者がレストランの設計を頼まれれば、まずレストランらしいものを創ってしまいますね。しかし、何がレストランを決定づけているかは、そこではないと思います。例えば「THINK」の会場も、料理を食べればレストラン、歌を歌えばライブハウス、髪を切れば美容院、作品を展示すればギャラリーになるわけです。本質は行為にある。カフェであっても、みなが仕事をしていればそこはオフィスと呼んでもいい。作る側がオフィスというイメージを持ってしまっているので、潜在的にオフィスっぽいものをなんとなく作ってしまいますが、それでは楽しいオフィスを設計できない。オフィスを何が決定づけているのか、そういうこと自体を考えて設計しないとだめです。美容院もまず鏡ありきで設計しているけれども、戸外のパラソルの下、髪を切ってもらっているような風景は海外では珍しくはありません。とにかく、既成概念に陥ってしまっていることが多い。そんなことを考え、毎月「THINK」を開いて、ゲストにいろんな話をしてもらい、若いスタッフたちが自分たちなりに勉強して普段のリズムに生かしてくれればと思っているのです。

島事務所の3階で毎月開いているイベント「THINK 」で若いスタッフたちに囲まれて。

―その自由な発想は、ご自身の設計者としての経歴と関係があるでしょうか。
谷尻:そうですね。僕の場合はいわゆるスタンダードではないですね。専門学校を出た後、最初に入った設計事務所では、特に誰かに建築を教わったと言うものではありません。要領よくやっていれば自由に時間も使えましたし、実務は学べました。でも、今建てているような建物の作り方はまったくわからなかったですね。『新建築』や『住宅特集』などの専門雑誌は穴が開くほど見つめていて、何年何月号に誰の何という建築が載っているというのがすぐわかるくらい、デザインへの憧れはありました。
5年いて、次の事務所にも1年くらい在籍しましたが、次第に仕事がなくなって、独立することにしました。26のときでした。当時自転車レースをやっていたこともあり、昼間自由に時間を使えない仕事をする気がなく、新潟、長野、北海道・・・、下請け仕事をしながらレースに行くという日々。そのうち下請けなのにいろいろ提案するものだから、仕事がだんだん来なくなって、とうとう焼鳥屋のアルバイトで食いつないでいました。あるとき友人に「知り合いが店を出すから行ってみたら」と紹介されました。それまで商業系の建物の設計はまったくしたことがなかったのですが、がんばりました。以後「仕事を受けてから調べて自分で考える」ということを繰り返していくうちに仕事が増えていった、という感じですね。

建物を作る際は、特に奇をてらっているわけではないですね。クライアントとの打合せでも、すぐにわかる話だけで終わってしまうから、建物の話はあまりしません。むしろ建築以外のその人の価値観、好みの方が大事です。「沼袋の住宅」でもいえることですが、当たり前に済ませてしまうところを、もう一度考えたい。それはたぶん、「教えてくれる人がいなかったから、考えること自体を自分でやるしかなかった」という自分の経歴が役に立っている。価値のないところに価値を作る、みんなが部屋と思っていないところに興味がある。価値観の変換レベルを高め、もっと新しいことをいろんな場面で行っていきたいですね。それはプランだけでなく、施工過程や材料の開発においてでもいえることです。
―材料ですか?
谷尻:例えば、今、ある別荘の設計を進めていますが、ただの発泡スチロールを積んで支えて、防水を1回かけ、吹付コンクリートをふく。これをやると型枠が不要です。敷地が崖のようなところだと重機が下りないし、工事は大変になりますが、これなら簡単。土木の技術では当たり前のことを建築で使わないのはもったいない。建物が社会に及ぼす影響、ものをつくるときにどれだけのものが大量に捨てられているかということを改めて問い直しています。建築を創る上で、何が起きているかを考える必要があるのです。
―本日はどうもありがとうございました。

1974年 広島県生まれ
1994年 穴吹デザイン専門学校卒業
1994年~1999年 本兼建築設計事務所
1999年~2000年 HAL建築工房
2000年 建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE 設立
現在 穴吹デザイン専門学校非常勤講師  広島女学院大学 客員教授
広島と東京を拠点に、数々の住宅や商空間、展示会場などに関する企画・設計・ランドスケープやインテリアのデザイン等を手がける。

初めての著書『1000%の建築ー僕は勘違いしながら生きてきた』を2012年3月刊行。各方面で話題となり、海外でも出版予定。