147-3 小久保 隆/環境音楽家・音環境デザイナー 

2013年4月10日 at 7:43 PM

Listen から Atmosphere へ

 

「音との付き合いもクールダウンの時間が必要です」

昨年の東日本大震災以来、すっかりお馴染みになってしまった、「ヴイン、ヴィン、ヴィン」という携帯電話の緊急地震速報の音。今月はこの音を制作された、環境音楽家の小久保隆さんにお話を伺います。
 小久保さんの仕事は実に多岐にわたる。代表的なものに「六本木ヒルズのアリーナ」の環境音楽や、「クィーンズスクエア横浜」モール内の音環境デザイン・時報音楽、そして渋谷駅前「ハチ公ファミリー」の時報音楽など。また、Docomo のメロディコールの初期楽曲(12 カ月分)やケータイクレジットの「iD」のサイン音など、日頃多くの人が知らず知らずのうちに耳にしているものも多い。自然の音を元にした音環境デザイナーの第一人者である。

―大学在学中から音楽活動をされていたのですね。
小久保:当時シンセサイザーがブームになり始めていて、「これからは電子工学だ」と電気通信大学に入りましたが、半分プロで音楽の仕事を始め、在学中に「デジタルバッハ」というシンセサイザーを使ったレコードアルバムをコロンビアから出し、自然にこの道に進むとことなりましたね。

当時は、シンセサイザーの演奏をするミュージシャンもまだ少なく、小久保さんはツトム・ヤマシタ氏や坂本龍一氏など一流のアーティストと音楽活動を行う。

小久保:1980 年代は YMO などのテクノポップが流行っていて、当然そういう音楽を求められ、次から次へと仕事が来ました。まだまだパソコンで音楽を作れる時代ではなく、プロとして第一線を走るために 1 台 1500 万円もする「コンピュータミュージカルインストルメント(CMI)」を購入し、仕事をしていました。楽器の中で自分の出した音を、まるで油絵のように足し算で作れる機械です。油絵は、最初に塗った色が気に入らなければ、白を塗ってとか、インタラクティブに作っていくものでしょう。ところが自分の喜ぶ音を作っていくと、引き算でどんどんシンプルに、クワイエット(静か)な方向に進んでいくのです。依頼される音楽は楽しいから作っていくけれども、「本当の自分はどうなんだろう」と音楽で自分探しをしている状態でした。

-それが、自然の音を使うようになったのはどういうきっかけからですか。
小久保:1980 年代の終わり頃でしょうか。元から録音のマニアではあったのですが、自然の音を録ること、その場所にいることが作曲のきっかけになったことがありました。鳥が鳴いている森の中、白波の立つ水辺、それらがコンピュータの中で自分が作る音の世界と同じなのだと感じたんですね。もちろん自分は音楽家ですが、自分のつくる価値観としては同じなのだから作曲する側から積極的に自然の音を取り入れていってもいいのだと気がつきました。

もう一つは息子が小児喘息で苦しんでいたことです。「もっと空気の良い所にいかなくては」と考え始めました。僕自身も池袋にスタジオがあっ
たのですが、ハードスケジュールが続いて、そんなやり方と自分の持っている音楽性の違いを感じていました。「せっかく望まれて仕事があるから断れない、これは自分のライフスタイルとして示さないと駄目だ」と、音楽の制作拠点を山梨県北杜市の武川のログハウスに移しました。当時「マルチハビテーション」という言葉が生まれていたのですが、都会と田舎を行ったり来たりすることで理解してもらうことにしたんですね。

―今、そのようなライフスタイルを求める人は多いですが、まさに先駆けですね。
小久保:僕は、東京生まれの東京育ち。東京から逃げるわけにはいかない。100%の田舎暮らしではなく、都会と田舎の両方に住むことで都会を見直す、田舎暮らしの良さを感じながら、都会の生活をどう良くしていくか、をいつも考えるようになりました。

―原発や自然災害の問題で、社会全体が不安を抱えている今、音楽が生活に与える影響はますます大きくなっているように感じます。
小久保:コンピュータのおかげで、生産性は飛躍的に上がったけれども、人間の脳はその分無理していて、バランスがとれなくなっています。もっと仕事の時間を短くして、1 日の中でうまく緩急をつけるといい。エクササイズでもクールダウンは必要です。それには、今までのオーディオのように、高級オーディオで積極的に聴く「listen」、つまりあえて聞き耳をたてる聴き方でなく、空気のように音がある状態、何気なく我々が聞いている状態が結構大事なんです。僕が提案しているのは、建物の中で音に包まれる「atomosphere」としての音楽。それはとんでもなくお金を使う必要はありません。簡単なシステムで自然の音に包まれる、その空間が、また新しく価値を持ち、ストレスフリーの役目を果たすというものです。音や照明が、予め建築と一体になっている設計がいいですね。パソコンの中でも音と映像が一緒になった、リラックスできる仕組みを構想中です。
―本日は、どうもありがとうございました。

 

山梨県北杜市武川のスタジオ内で制作作業中の小久保氏

小久保 隆

1956 年 東京生まれ
1980 年 電気通信大学電気通信学部卒業 同大学院中退
1986 年 株式会社スタジオ・イオン設立 代表取締役
都市、オフィス、ミュージアムなどのパブリックスペースを音で環境デザインする傍ら、プライベート空間にも癒しの音楽を提供。99 年には、独自のレーベル「イオンレーベル」を立ち上げ、現在まで 23 タイトルをリリース、2009 年には世界各国の自然音を収録した「地球の詩」シリーズ 10 タイトルが完結、収録に訪れた国は 40 ヶ国を超える。

 

「クワイエット・コンフォート /Quiet Comfort」小久保隆(CD 2枚組)小久保隆 20 年の集大成。小作品と大作、そして大自然の環境音という小久保隆の世界がバランスよく収められており、その幅広い活動のインデックス的な作品になっている。2,800円(税込)オンライショップからも購入可能
http://www.studio-ion.com/