138-3 中村 晃/アーキプラス一級建築士事務所

2013年4月1日 at 12:00 PM

傾斜地の魅力

今月は、「Bluehouse」の設計者、中村晃氏に、傾斜地の設計について伺います。事務所兼ご自宅は、やはり傾斜地に建つ建物で弊社が施工させていただいた混構造の住宅です。(2002 年「岡本の家」)

―中村さんが、傾斜地の設計に興味をもたれたのはどういうきっかけからですか。
中村:大学の建築学科に入って、これはすごいと思ったのが、フランク・ロイド・ライトの「落水荘」です。それからケーススタディハウスにあこがれるようになりましたね。(編集注:特に #21,#22などは、建設不可能と見える険しい立地の上に建っている)
卒業後建設会社に入ってからはそんなことも忘れていたのですが、転機は阪神大震災です。神戸のT学園の再開発を会社で受けることになって、僕は手を上げた。震災で高台の大学の下の住宅街が壊滅状態になりました。その土地を大学が買い上げて始まった復興プロジェクトです。厳しい崖で、やる気とともに怖いとも感じました。その頃からイタリアの山岳都市を何回も訪れ研究しました。とにかく空間が面白い。上ったり下りたりする楽しさ、思いがけない場所に出会える楽しさ。それらは設計者がつくったのではなく、自然に発生していった有機的な空間でした。
この神戸のT学園では、平なところは一番上の敷地のコモンスペース 1 箇所だけで、イタリアの山岳都市にならい、斜面地に沿って新たにロビー、アリーナや教室、階段などを配しました。設計に約 3 年かかり、2001 年にできたのですが、その後、傾斜地に自分でも自宅兼事務所を建てることにしたのです。
独立に際して、自分は「傾斜地の設計」を得意分野にし、最初に設計した「段床の家」は、「2009 年グッドデザイン賞」を受賞しました。以来、今回で傾斜地の設計は 8 件目になります。
しかし傾斜地の設計は、階段などの動線もあり、やはり大変です。湿気の面も気を配らないといけません。空気の流れや換気に配慮したプランが必要です。もちろん構造計算は難しい。通常の耐震性の1.5 倍で計算します。最近はだいぶ読めるようになりましたが、最初の頃は予算を立てるのが大変でした。懇意の構造の先生は 2 人いますが、頭の柔らかい先生達です。普通の先生はなかなかやりたがりません。それだけに遣り甲斐があります。
ただ、コストの面から、「お金がないので、斜面地を選びました」と言ってこられるお客様は断っています。最近、「土地が安いので、建物も安く建ちませんか」という方が多いですね。莫大な造成工事が必要なケースばかりではありませんが、その傾斜地に魅力を感じてもらうのでなければ、意味がないです。
文化によって違いますが、欧米では、高い所に富裕層が住むものです。アラブ世界では逆に貧困層ですが、日本では、「山」というのが恐れ多い場所なのですね。「神性」があるから、「山に住宅を建てる」というのは、昔は抵抗があったでしょう。だから、僕は海外に情報を求めていったわけですが、山は緑があるし、景観は捨てがたい。いつも思っているのですが、大抵の施工者は平らに造成するという頭しかないんですよ。僕は、緑を基本的に破壊するのは嫌いで、なるべく残すことを考えます。ヨーロッパでもそうですが、山全体を壊すのではなく、建物が山に連なり、なじんでくれて、その建物があることでいい風景になることが理想です。
また、傾斜地に住むことは、上下運動があるので不便です。「体力はいるけれど、不便さに変えてもそこがいい」と理解されていないと無理です。お客さんの中にはだんだん心配になってきたと言う人がたまにいらっしゃいますが、それならもうあきらめてもらった方がいいんです。逆にヨーロッパは、お年寄りは結構歩いている。体力維持にいい。生活圏の中でそれが当たり前なのです。
―この春の東日本大震災で津波被害を受けた地域では、高台への住宅の移動などの復興プロジェクトも出されています。
中村:地震・津波・台風などの自然災害や、それに続く火事で被害を受けやすいのは木造の建物です。日本という災害国ではいよいよ住宅のコンクリート化が必要だと感じています。津波が来てもコンクリートの住宅は残りました。震災復興で高台に住むということもひとつの解決策ですが、平地に住みたい方でも、まず土台をしっかりとして、コンクリート造にすることが大事だと思います。避難システムは別に考え、ルートを確保して逃げれば戻ってこられます。仕上げ材はだめになっても、また住めます。一般の方はまだ、「え、コンクリート造の住宅ですか」と言う人がほとんどです。住宅のコンクリート化をどんどん進めるべきですね。
―本日はどうもありがとうございました。

 「傾斜地の魅力を十分理解いただける方に住んでいただきたいと思います」

1957 年 東京都生まれ
1981 年 早稲田大学理工学部建築学科卒業  戸田建設入社
2007 年 同社退社
アーキプラス一級建築士事務所設立

 

岡本の家(中村氏の事務所兼住宅)

ご自宅兼事務所にて。開口部に広がる豊かな緑をバックに現在施工中の模型を見せていただきました。エアコン不要のひんやりとした空気が心地よい空間です。