128-3 佐藤 隆一郎 /東京大学大学院農学生命科学研究科教授 

2013年3月23日 at 12:00 PM

「食品は高齢化社会を救うキーワード」

今年のノーベル化学賞は、根岸英一氏(米パデュー大学特別教授)と鈴木章氏(北海道大学名誉教授)の 2 人の日本人が受賞、話題となりました。ノーベル化学賞のように、高度な研究分野の評価は、ある程度の年月を重ね、いろいろな角度からの検証が不可欠のようです。今月は、「食品」の研究から、高齢化社会の問題解決に成果を見出そうとしている、東京大学大学院生命科学研究科食品生化学講座の、佐藤隆一郎教授にお話を伺いました。

―東京大学では、昨年 5 月から、世界最大手の食品メーカー「ネスレ」と「食と生命」についての共同研究がスタートしたそうですね。
佐藤:これまでの外資系企業の寄付といっても、実際には日本支社からのものだったのですが、今回初めてスイス本社からの寄付を頂きました。アジアへの戦略として東大を選んだという点で話題になりました。この講座は「Food For Life」をテーマに全ての人々の生活の質の向上を目指します。「メタボリックシンドロームと機能性食品」、「脳科学と認知」、「老人科学と長寿」など 8つのプラットフォームを想定した講座で、高い専門性を持つ研究者が参加できるように計画していきます。

― 11 月には農学部にフードサイエンス棟が竣工し、その中でこの講座の研究も進められる予定ですね。
佐藤:複数の食品研究関連研究室が一堂に会するという点で、この新しい施設はいろいろとメリットがありますね。

―世界的に見て、現在の日本の食品分野の生命科学のポジションは、どうとらえたらいいでしょうか?
佐藤:単純に評価は難しいですが、1990 年の前半、日本から世界に向けて、新たに一つの概念が発信されました。つまり「『食べ物』は、生命維持という一次機能、味、栄養素という二次機能以外にも、健康を維持して病気を防ぐ、三次機能がある」というものです。有名なネイチャー誌に発表され、日本では「トクホ」と呼ばれる機能性食品の開発が行われるようになりました。ヨーロッパ諸国も後追いしました。アメリカももちろん概念的にはすごいものがありますが、むしろサプリメントに向かっています。ヨーロッパでは国を挙げて体制を作っています。オランダは特にすごい。効率的に農業政策を行っていて、例えばトマトなどは、あの狭い国土で日本の 3 倍の効率で収穫を行い、ヨーロッパ各地に輸出しています。そんなセンスがある。日本は先端を切ったのに、追い越されかねない状態です。

―三次機能は、認知症の問題などにも関係してきそうですね。
佐藤:おおいに関係がありますね。2015 年には日本の人口の26%は高齢者(65 歳以上)になる。4 人に 1 人です。2050 年には、36%が高齢者。今国民1人当たりの年間医療費は 27万円ですが、65 歳以上は 1 人当たり 67 万円、総額 34 兆円のうち 17 兆円使っています。単純に見てもこれでは経済発展は望めない、非常に不健全な社会になります。高齢者が医者にかからない、薬を使わない、つまり医薬に頼らずに食生活を改善することで、健康な高齢者を 1% でも増やしていくことが必要です。
僕らが今、概念として提唱しようとしているのは、「運動機能性食品」。身体の中のある因子をうまく活性化させ、あたかも運動したかのような効果を発揮する食品の利用です。そういうものをもっと分析していきたいと考えています。例えば寝たきりにならないまでも、高齢者は運動量が増えないので筋肉量が減っていきます。次第に不健康に傾いていく。そのときに、あたかも運動したかのような履歴が残る食品を与えることで、運動のできない高齢者も、運動効果を一部食品で代替できると考えます。

―どういう研究方法で見つけていくのですか
佐藤:Assay 系(分析・評価)といい、評価方法を定めて生体側の機能を解析する基礎研究ですが、薬と同じ考え方ですね。効くものをピンポイントで探して見つける。意外にごく身近な食品の中に含まれているものです。我々の研究に対し製薬会社や食品メーカーが商品化に発展させてくれるというのがいいですね。相互に結びついて社会貢献していく連携プレイが一番です。

―本日はどうもありがとうございました。

「運動機能性食品で、メタボリックシンドロームからヘルシー・エイジングまで取り組みます」

農学部生命科学総合研究棟の前で。この建物の手前右側に新しくSRC造、地上8階建のフードサイエンス棟(設計 : 久米設計、施工:大林組)が建つ

佐藤 隆一郎

1956年 東京都生まれ
1980年 3月 東京大学農学部卒業
1985年 3月 東京大学大学院農学系研究科修了(農学博士)
1986年 4月 帝京大学薬学部助手
1990年10月 同上 退職 テキサス大学 メディカルセンター University of Texas Southwestern Medical Center博士研究員
(1985年ノーベル生理学・医学賞Goldstein博士、Brown博士研究室)
1994年 8月 帝京大学薬学部講師復職
1995年 7月 大阪大学薬学部助教授
1999年 8月 東京大学大学院農学生命科学研究科助教授
2004年11月 同上 教授  現在に至る
2009年 5月 「食と生命」総括寄付講座代表兼任
2010年 4月 総長補佐