115-3 千葉学 /東京大学准教授・千葉学建築計画事務所

2013年3月10日 at 12:00 PM

 

日本盲導犬総合センター

今月は、2009 年度日本建築学会賞作品賞を受賞された、千葉学氏をお尋ねしました。受賞作「日本盲導犬総合センター (2006 年竣工 )」は、静岡県富士宮市に造られた、盲導犬の育成と活動を社会に伝える施設です。盲導犬を訓練するための「守られた環境」であると同時に、盲導犬を通じた福祉活動を広く知ってもらうための「開かれた場所」という相矛盾する側面を、「機能ごとに建物を分け、コテージに見立てて回廊でつなぎ、相互の距離をデザインすることによって両立させている」というものです。富士山の雄大な景色をバックに、黒い勾配屋根が印象的な建物です。

日本盲導犬総合センター(静岡県富士宮市) 撮影:西川公朗

―シルバーウィーク中は海外にいらしていたそうですね。
千葉:この秋からスイス連邦工科大学(ETH エーテーハー)で教鞭をとることになり、3 週間に1度の割合で通うことになりました。スタジオ制で学生は 36 人。教育水準も高く、真面目な学生ばかりでこちらも背筋が伸びる思いです。
―東京大学でも授業があるので、お忙しくなりそうですね。
千葉:研究室を持ったのが 2001 年ですから、もう 8 年になります。あっという間ですね。

―建物を建てる上で、いつも心がけていらっしゃることなどがありますか。
千葉:賃貸の集合住宅でも、個人邸でも、「盲導犬センター」のような施設でも、その都度巡り合った仕事に対して最大限努力すれば、面白いと思ってもらえるのではないでしょうか。

ただ、設計するときにいつも思っていることは、ちょっと乱暴かもしれませんが、「究極的にはどんなところにでも住める」ということです。「その中で建築家は何をどこまで作るのか」ということを常に意識しています。上質な素材であったり、至れり尽くせりのプランであったり、それも大事だけれども、むしろ素朴な場所だけあれば、人間は住めるのではないか、と考えています。
「盲導犬センター」も犬の施設ではありますが、集合住宅を作っていることと変わりはありません。人間は穴倉に入れば安心して飯が食える、ちょっとしたシェルターがあれば皆でご飯が食べられる。人間も最終的には動物で、一緒にいて安心だったり、危険を感じたり、居心地が良かったり、最後はそういうところで判断するから、どう配置すれば一人でいられるか、群れとしていられるか、という身体的な要素を大事にしているといえますね。
―最近の若い人は自分の部屋にこもった状況でも IT を通じて、グローバルな世界に通じている感覚が当たり前です。物質的な欲望も非常に希薄だったりします。
千葉:確かに、こもるのは良くないとは思いますが、同じ会社、組織の中でもメールでコミュニケーションを取る時代です。一緒の空間で話をするとか、より空間に関わっていくことを考えたいとは思いますね。

今、身体と思考がずれているとは思います。そういうところは時代ですから、我々も同じだとは思います。一方でもう一度身体感覚を取り戻すという空気が現われていることも感じます。最近は学生が、「人と人との距離をどうデザインするか」という設計テーマを選んでくる場合が非常に多い。すごく敏感なのです。付かず離れず、でも離れていればまた寂しい―。ある意味、身体接触機能が「このままではまずい」「人と人は一応群れていないとまずい」ということが、直感的にわかっている。「そのことをどうやったら、再び取り戻せるのか」ということを考えている。ゆり戻しが来るのかな、という気はします。
―今後のご予定などお聞かせください。
千葉:町役場の仕事があり、あと幼稚園の設計を行うことが決まっています。幼稚園は、長年やってみたかったテーマです。「人間の本質的、動物的な部
分に興味がある」と先ほど申しましたが、幼稚園はまさに、最初に人間が社会に出てくる場所。一度取り組みたいと思っていました。先生と園児のまとまりを大事にして、園児一人ひとりに目が行き届くようにという方針に共感しています。「盲導犬センター」ができたときに、ある建築家が見に来てくれて、「これ、幼稚園にしてもいいよね」と言ってくれたことがありました。そのコメントはうれしかったですね。すでにそういうことはやっていたのかもしれないですね。
―本日はありがとうございました。

「いつも考えていることは、人間は究極的には、どんなところにも住めるということです」

1960 年 東京生まれ
1985 年 東京大学工学部建築学科卒業
1987 年 同大学大学院修士課程修了。1987 ~ 93 年 日本設計
1993 年 ファクター エヌ アソシエイツを共同設立
1998 ~ 2001 年 東京大学工学部建築学科安藤研究室助手
2001 年 千葉学建築計画事務所を設立
現在、東京大学大学院准教授
主な作品に、和洋女子佐倉セミナーハウス(竣工 97 年、JIA 新人賞 98 年、BCS賞 98 年)、日本盲導犬総合センター(竣工 06 年、学会賞 09 年、BCS 賞 08 年)、WEEKEND HOUSE ALLEY(竣工 08 年 )  ほか

学生のときに作ったものも含め、現在 11台所有。学生時代からレースに出場して千駄ヶ谷の事務所にて、スタッフが通勤に使う自転車を前に。趣味は自転車。中いる。富士宮市では千葉氏の発案で自転車イベントが開かれ、「若いものにはまだまだ負けません」と話は盛り上がった。