173-3 最近の建築躯体工事事情

2014年8月7日 at 2:48 PM

今月は、最近の建築コストの上昇について、現場からの声をお届けすることにしました。皆様ご存じのとおり、東日本大震災の復興需要が本格化し、全国、特に関東地方では、建設技能労働者の不足が問題となっており、それが建築コストの上昇となって、一般の工事にも跳ね返ってきています。
お客様、設計の先生方にもよりご理解をいただけるよう、施工会社として日々努力を重ねておりますが、弊社リニューアル部部長窪田より、最近の建築躯体工事の状況について、ご報告させていただく機会を作りました。

辰リニューアル部部長 窪田幸夫
工事部長、営業部長歴任。現在は、リニューアル全般を統括する。施工設備全般に詳しく、環境問題にも興味あり。

最近は、RC造(鉄筋コンクリート造)の施工を得意とする当社でも、以前より鉄骨造(以下S造)の施工が増えています。理由の一つに型枠大工、鉄筋工等の職方不足によりRC造の施工単価が著しく高騰したため、設計者が最初からS造の設計を選ぶことが増えたためです。もともと「敷地の関係で塔状建物になるためS造でなければ建てられない」、あるいは「建物の形をコンクリートでは表現できないためS造で設計する」というような建築的な理由もありますが、それにしても多くなっています。

S造はRC造より、施工費が安く簡単と思われがちですが、実はそうでもありません。施工者側として、まずS造で一番困るのが見積段階です。基本的には、鉄骨業者数社(3社~4社)に見積を依頼して出て来た金額と施工時期の確認をして、施主に最もコストのかからない見積を提出します。その際、たとえ安い見積を出してくれた業者でも、工事の時期が合わなければ、残念ながら2番目に安い業者の金額を入れざるを得ません。
加えて、最近は工事単価の高騰で予定金額が大幅にオーバーする事が普通となっています。そのため、最初の見積から予算オーバーの見積内容の調整、VE(バリューエンジニアリング Value Engineering=機能を落とさずにコストダウンする方法)に入ります。設計者より設計内容の変更が提示され、その内容で再提出しますが、その作業を数回繰り返すとあっという間に1~2か月かかってしまいます。
S造の場合、2か月も工事時期がずれこむと、一番安い業者と交渉していても工場を空けておく事が出来なくなり、工事辞退の回答がくることがあります。製作不可の状況では、変更見積にも協力してもらえません。工場を無理に空けてもらった場合には単価面でアップ要求が出てきます。
VE内容で、仮にトン数が下がる内容を設計者より提示されても、金額が下がるのではなく逆に上がってしまう見積を提示される場合もあります。特に、ロール発注物と呼ばれる受注生産の鋼材は、工場に入ってくるまで数か月掛かかり、鋼材単価の上昇のリスクもあるため、割高の金額が出てきます。工期にも大きく影響します。
最初の見積業者に変更見積を辞退された場合、2番目、3番目の業者と交渉に入らざるを得なくなります。そして、その経過を踏み、工事受注をした場合に、実際に施工してくれる所がまったくなくなる事もあります。後は工事金額を度外視して出来るところに契約金額に上積みして発注する事になります。
S造工事で工期に直接関係する要因の一つに、ALC板の納期があります。現在、図面承認から60日~70日後に現場搬入という状況です。S造の場合、RC造より現場作業の工期はかかりませんが、まず鉄骨工事の製作図面、鋼製建具、ALC板等の二次製品の製作図を直ちに承認しなくてはなりません。地下があり、地下からのS造となる場合、さらに鉄骨の承認を急ぐ必要があります。現場の準備期間が工事着手前にかなり必要となります。
当社では、S造は現在施工中の新築工事、21現場中6現場(約28.5%)
の割合です。S造が増えたといってもまだ圧倒的にRC造が多数をしめています。

さて、先日「人手不足」を取り上げたTV番組で、現在の職人の求人倍率に触れていましたが、型枠大工は、現在約6倍の超人材不足(一般事務所職は約0.2倍)となっており、職人全般についても同様に不足しているとのことでした。
日経アーキテクチャーの7/25号の資料では、全産業の男性労働者の年間給与は1999年~2012年の13年間で約6%低下し、中でも建設業の男性労働者は8%も減少したそうです。技能労働者の賃金の目安となる公共工事設計労務単価(基本8時間労働の日当)は、同時期に約30%も低下しており、デフレ経済が続いたこの時期、元請け建設会社は激烈な安値受注合戦のツケを、最前線で働く職人に払わせてしまったことがわかります。リーマンショック後の3年間で型枠職人の3割が減ったといわれています。
しかし、その労務費が東日本大震災で職人不足が深刻化してから、一気に上昇に転じました。現在は、1997年当時の20000円/日台にまで回復してきています。専門業者の会社の経営者がこの機会に職人の待遇改善に本腰を入れ始めた事も影響しています。特に社会保険への加入を重視しています。国交省は、国の直轄工事の元請と一次下請けは社会保険加入企業に限定するという方針を打出していて、14年度から実施を開始しました。いずれ地方公共工事にも波及することになりそうです。

振り返れば20年前は、若くて技術のある職人は、肉体的に労働条件が悪くても、平均的なサラリーマンより賃金で優位に立ち、またプライドもあったように思います。朝早くからの外仕事、多少の雨風、夏の暑さ、雪などにめげず、仕事をしていい車に乗り、若い人の憧れになっていた部分がたくさんありました。親方や先輩の厳しい指導にも、「一人前の職人になればいい月給がもらえる」「いい暮らしが出来る」、その部分が支えとなっていました。それが、上記のような理由で若い人材が建設業界から去ってしまったのです。特に社会保険の面では、会社員のように会社の給与から天引きであれば問題がないのですが、独立している職人は、自分で健康保険や年金を掛けなければならず、健康保険は病気の事もあるからまだしも、国民年金は自発的に掛け続けることは難しく14,980円も毎月の事では大きな負担というのが現実でした。それが是正されていくことは、若い人を呼び戻す最低限の環境整備でしょう。当社は官庁工事をほとんど施工していないため、比較的民間工事が中心の専門業者が多く、各見積書へ法定福利費提示は少ないと思います。しかし一部金属建具、型枠工事の会社から見積書に計上してくるところが出てきています。いずれ、業界全体に同様の動きが訪れると思います。

昨年の9月の増税前と現在の型枠単価を比べると、平均㎡単価で約28%アップしました。鉄筋工事を比べると約23%アップとなっています。(当社窪田チーム積算ベース調べ)
当社の施工物件は変形の建物が多く、また同タイプで上階まで連続していく建物が少ない一点物的な建物が多いため、他のオーソドックスな建物より、躯体単価は高くなりがちです。これからも建築コストの上昇は避けられないかもしれません。しかし、コストありきで施工が容易で安価な方法ばかり選択する方向は、結局仕事をする人の技能を磨く場が減少し、誰がやっても同じ仕事ばかり増えていく可能性があります。それは働く人が簡単に職を失うことにも通じていきます。職人だけでなく、厳しいコストにさらされる建設会社の現場管理者もまた減少しています。熟練や評価と無縁の世界はいかがなものでしょう。職人さんの腕も、それを頼りに個性的な建物の施工を行う当社のような施工会社も、社会にとっては必要な存在です。元気な若手が活躍する、そんな建築現場を持ち続けたいものです。