50-3 建築家紹介01 武松幸治 E.P.A環境変換装置建築研究所

2004年5月1日 at 7:51 AM

「建築家とアーティスト」

第1回にご登場いただく建築家は、㈲E.P.A.環境変換装置建築研究所の武松幸治氏です。「龍雲院」で平成7年東京都建築士会の住宅建築賞を受賞されています。このプロジェクトは五感を総動員し自然を観賞するというアジアの姿勢を現在の造形と空間に結びつけることがテーマでした。また弊社施工の「トランスビル」は、都市の革新的なオフィスを実現したものです。弊社では他にも「瀬田の家」「深沢の家」「代田の家」「南麻布の家」そして先月完成した「都立大の家」など多数施工しています。

―「都立大の家」、斬新なデザインで社内でも見学会をさせていただきました。

武松:設計をするときは、デザインはもちろんですが、敷地条件や法規制をクリアしながら最大限のボリュームを使い、「どうやって最適な環境を提供するか」を考えます。それは多分他の建築家の方と同じです。デザインは、求められる機能や条件で明確になります。今回は方向性が決まったので、変更はほとんどなかったですね。

―事務所の名前にも表されているように武松さんは、エコロジーにこだわりのある建物づくりをしています。

武松:事務所を立ち上げたときは、まだエコロジーが世間に認知されていない時期で、オゾン層破壊などに対してある種の危機感を持って「自給自足型」の建築を目指し、「環境を変換する装置としての建築」を提案していました。ところがエコロジーが注目されるにつれ、ビジネスばかりが強調されてきて、自分としては一時期そのような動きに違和感を覚え、個人的に建物を依頼された方に発信し続けてきました。辰で施工した「トランスビル」も、以前のオフィスと比べ坪数は広くなっているのに、光熱費のランニングコストが40%から60%ダウンしています。ハニカムガラスの外壁で、夏は光をシャットアウトし、冬は採光を十二分に取る、冷暖房費を節約する状況を作り出しています。

―数字としても実証されているわけですね。

武松:現在、福島の東白河郷に完全自給型の農家を計画しています。オール電化ですが太陽電池のみ。飲料水は地下水で、トイレなどの生活用水や断熱のための屋根の冷却水は雨水を利用します。雨水を受けるのに効率の良いHPシェル(フライブルグのパビリオンで有名)の屋根を採用しています。オーナーは都会住まいの50代の方ですが、リタイヤしたあと、第二の人生は農業をやろうとしています。田舎暮らし的なわらぶき屋根の家という案もあったのですが、都心で暮らし、ブロードバンドでインターネットも楽しんでいる―そういう人のリクエストが、実際のトラクターのサイズから、どこで収穫物を乾燥するか、保存はどうするかなど、かなり具体的なわけです。「住宅は最小限、納屋スペースの上にワンルームで広々と使えればいい」ということで、機能的な形態の家になりました。

―新しいスタイルの田舎暮らし、出来上がりが楽しみですね。

―武松さんは、青森の伝統工芸「ブナコ」を使った照明や、MDFの積層面を見せた3次元加工の優れた家具もデザインされています。

武松:最近は特注でソファなど作ることが多いですね。建物に合う家具がなかなかないし、入荷に時間がかかったり、良いデザインの物はサイズオーバーだったりする。リビング廻りはいろいろなリクエストが出てきます。施主の要望に合う形態の家具を設計しています。ただ商品化のための家具デザインとなると、そう簡単にはデザインできないですね。むしろ「ブナコの照明」や「MDFの家具」などは、守りたい技術があってそれを何とか維持できないかと、職人やデザイナーとの共同作業で出来たものなのです。

―ところで、武松さんは現代美術の展覧会の会場構成など、海外の著名芸術家の方とのお仕事も多いですね。

武松:今、ロンドン在住のアーティスト、アニッシュ・カプーア(Anish Kapoor)の作品を国内で作っています。1991年、横浜で仕事をしたことがあるのですが、純粋な空間を作り出す作品です。彼とは空間を構成することに共通の意識をもっているので、また一緒に仕事が出来るのは本当にうれしいですね。
アーティストたちには、「アーキテクチュアル・マニピュレーター(Architectural Manipulator )」と呼ばれています。「調整役」というところでしょうか。誰もやらなかった領域、まったく人がいなかったわけではないのですが、アーティスト側の意識に立ってものづくりをする人が、日本には少なかったのではないかと思います。パブリックアートでも、どこかでアーティストと建築する側との意識がずれていろいろな問題が起きたりする。アーティストが何を表現していくかを理解してあげないと、彼らの存在の意味がなくなります。そのために持っている知識を役立て、サポートする、それが建築家だと思いますね。

―事務所には、1994 年「欲望の砂漠」という展覧会に出展した武松氏の理想郷(循環型システム)の模型が飾られています。長崎の陶器の町「波佐見町」の、街の中にデザインがあふれる環境で育った武松氏は、アーティストであると同時に骨太の社会派建築家でもありました。