52-3 建築家紹介03  鈴木孝紀/ハル建築研究所 

2004年7月30日 at 3:16 PM

「つなぐ建築、つながる建築」

今回は、2000年第2回TPOレコメ(ShinClub51参照)で優勝した鈴木孝紀氏(ハル建築研究所)にご登場いただきます。弊社は、ギャラリーのある家「K-house」(2002年9月竣工)、8戸を収める重層長屋「m-house」(2003年5月)の施工を行っています。

―建築家を志したのは、いつ頃ですか。
鈴木:僕の場合、東京オリンピック。代々木体育館を見たときにすごいなと思ったのが伏線だと思います。
―設計は丹下健三さんですね。オリンピックで東京は変わりましたからね。
鈴木:今は「箱物行政」と批判されて大きな公共建築の建設を手控える空気が強いですが、僕は一定の時間軸の中で力を持った質の高い建築が現れるのは必要なことだと思います。それについて評価があり、批判があり、また新しい動きがある―そういう爆弾のようなものが落とされるのは大事なことですよ。
―その後、建築学科に進まれて・・・。
鈴木:大学を出てからは、坂倉建築研究所に8年勤務。そこでは新宿のホテルの設計でオフィスチームに配属され、設計や現場監理を学びました。独立しようと思っていたところ、横浜国大の先輩だった3人(北山恒、谷内田章夫、木下道郎の3氏)が主宰する「ワークショップ」に呼ばれまして、苗場のホテルやビヤレストランや、個人住宅、集合住宅の設計にも参加しました。その後独立して、大学の同期長島一道と「ハル建築研究所」を設立しました。彼は、医療や福祉の建築計画やコンサルティングなどが専門で、僕は建築の設計をしています。共同で設計する場合もあって、彼にはいろいろ教わっていますね。
―コンペで受賞した「a-cube」は、東急田園都市線青葉台駅からすぐですね。
鈴木:基本的な条件を整理した上で、提案として「この立地で僕だったら、こういうものが欲しい」という思いがありました。審査員には僕の意図が好意的に受け取られたと思いますね。例えば「バスルームは大きくてテラスのような明るい場所がよい。リビングはいらない。でもある程度きちんと料理をしたいので、キッチンはちゃんとしたものが欲しい。」とか。
―集合住宅そのものについては、どう考えていますか。
鈴木:個人住宅に比べ、「社会性」を問題にしなくてはならないと思いますね。集合住宅は、あるシステムを持って作らないとできない。物理的空間、構造、設備だったり、近隣との関係だったり。そしてそのシステムには、単純に法的規制などの与件として割り切れるもののほかに、建築家としてメッセージがあるべきだと思います。
 僕は、それを「社会性」という言葉で捉えたい。例えば「環境」の話がある。物理的に負荷を掛けないという意味でもあり、都市の環境にどうフィットして使われていくか、という意味もある。それから10年後、20年後にどう社会情勢と適合しているかという点がある。適合しなければスクラップ&ビルドになる―それではかなわない。フィットできるようなシステムを考えておくことが大事ですね。リニューアルやコンバージョンを容易にするシステム。
例えば、隣と2戸を1戸にしてしまう、上下階の床を抜くことができる、隣の2,3件をまとめて借り、住まいと仕事部屋に利用するなどの物理的フレキシビリティや、上階に住んでいたけど下の階に移れるような環境を用意しておくとか。それから近隣にある学校や病院、アミューズメントなどいろいろな環境に対応し、「だからこの場所にこの建築が必要」といういろんな読み方があるわけです。必要だったらほかの用途に変更する。周辺の環境を読み取って、適合させ、建築を使い続けられるシステムを設定してレベルを高くする。その仕事こそが建築家がやりたい部分だと思いますね。
 社会性ということを最近「つなぐ建築、つながる建築」という言葉で考えています。建築をどう設計するかということなんですが。いろんな意味が込められています。例えば集合住宅の住戸と共用部との関係。それから集合住宅が都市全体とどうつながりを持っているのか。イメージとしてのつながりもありますね。街が持つイメージとのつながり。場所性の問題になるでしょう。もう一つは時間のつながりです。「記憶に残る建築=長続きして使ってもらえる建築」を考えたい。使う人に長く使ってもらえるように、長期使用に耐える融通さを持ったものを目指したいですね。それらがすべてきちんと読み込まれてなんらかのシステムとしてセットされている建築を考えたい。
それには、人間の行動パターンを目的でなく、時間軸で考えていかなくてはなりません。10年、20年後にどういう行動パターンを取るようになるのか。そう思って見回すと、今僕が住みたい集合住宅はないですね。都市の中で多様に人が住むことができる集合住宅がないと思う。30代くらいまでの人が、一人あるいは二人で住んでも、その後ずっと住み続けられるのかということになると難しいですね。年取って一人になっても都心で暮らせるものがあれば老人ホームはいりませんね。成熟した都市にするために、どういう暮らし方があるのか。空間・イメージ・時間をトータルに考えて、提案するのが建築家の仕事だと思います。
 極論を言うと、都市は集合住宅だけでも成立するのではないかと思います。劇場・美術館・病院・学校などは、住宅の集合の中で、バグが発生しているようなもので。しかし、超高層の集合住宅ではなくて、面的に複雑に絡み合う、関係性が密でつながりあっているのが、都市として成熟しているのではないかと思います。
集合住宅ではないのですが、5,6年前に長島と設計した老人ホームは、今では珍しくないのですが全室個室です。一番重要な個人のプライバシーを、与えられた条件のなかで広く獲得するために、共用部を必要最小限のオープンなスペースとしました。将来の状況の変化に適合させるためです。
地域につながるオープンなスペースも持たせました。マニュアル通りではないわけで、完成してから監督官庁におこられました。建築のシステムは、社会のシステムを変える力を持つべきだと感じましたね。
―どうもありがとうございました。
鈴木 孝紀
1953年 東京都生まれ
1979年 横浜国立大学工学部工学研究科建築学専攻修了
1979~1987年 坂倉建築研究所勤務
1987~1993年 ワークショップ勤務

1993年 ハル建築研究所設立、現在に至る

ハル建築研究所代表。主な作品に「a-cube」「house MH」「ベルホーム」「花みずき」等。個人住宅、集合住宅、老人ホーム、障害者施設など幅広く設計している。

※2007年  鈴木孝紀建築設計事務所/SASに改称