53-3 建築家紹介04 日埜直彦/日埜建築設計事務所

2004年8月30日 at 12:25 AM

「リノベーションとは」

今月は、日埜直彦氏に登場いただきます。日埜さんは、今、(株)辰で 施工をしている都内のクリニックの設計を担当されていますが、この夏、 水戸で開催される「カフェ・イン・水戸2004」のリノベーション・プロジェク トに、青木淳氏、アトリエワン(塚本由晴氏+貝島桃代氏)とともに参加し ています。水戸芸術館と水戸市街を会場として開催される展覧会に併 せ、街の中の古い建物を実際にリノベーションし、「街の再生のためにリ ノベーションが持つ可能性」が呈示されています。日埜さんの手がけた 「セントラルビル」は築45年の木造2階建て、店舗と下宿、計14室のアパ ートでした。7月31日、8月1日に行われたオープンハウスのため水戸を 訪れている日埜さんに話を聞きました。
-昨日のシンポジウム『リノベーションとはなに?』で話を伺いましたが、 「セントラルビル」では、解体工事の廃材を再生したパーティクルボード を1階店舗部分の壁に採用しているということでしたね。今ある建物をモ ノとして見直してみること、モノとしてリサイクルしてみることを試みられた わけですが、一方で「リノベーション∈リサイクルだが、リノベーション≠リ サイクルだ」ともおっしゃっていました。つまり社会問題としてのリノベーシ ョンと建築的なリノベーションとは違うということでしたが・・・。
日埜:社会的問題としての例えばリサイクルが、良い建築を導くとは限ら ないわけですよね。そうなる可能性はあるけど、結局は別の問題です。 ある建物の再利用は、かつてそれを主体的に使っていた人にとっては 確かに懐かしいものの再生であり甦りであるけれども、そのこと自体は一 般の人にとってほとんど無意味かもしれない。ノスタルジィの肥大はいつ のまにかキッチュになっていきます。第3者が共有できる「古さ」、「今」関 わろうとしている僕らなりの捉え方が必要だと思います。古い建物に新し いものを加えることで、2つが組み合わさって、よりよいものを生み出すこ とが理想でしょう。それは「合唱」のようなもので、古いものが歌い、新しい ものが歌い、そしてその合唱がそのどちらとも違う独特の個性をつという ことです。 セントラルビルはかなり厳しい条件でやっていて、必ずしも完成度が高 いとは言えませんが、その意味で独特のものにはなっていると思いま す。それはノスタルジィに頼ったものではないし、かといって社会的に正 しいからよい建築だというものではない。そういう尺度では捉えられない 空間をリアライズしようとしました。
-現実に、リノベーションによって「街おこし」ができると考えますか。
日埜:可能性はもちろんあると思います。ただ一般に過剰な期待がある かもしれません。「ある建物をリノベーションで新しい建物にできるか」と 言われれば出来る。しかし、その積み重ねによって新しい街づくりに繋 がる可能性はあるかと問われれば、これは簡単ではないわけです。リノ ベーションを介して、「自分の生きている空間に主体的に関わる」あるい は「自分の欲しい空間はどういうものなのか考える」ことが必要だというこ とはとてもわかりやすい。しかしそこで見逃されるのは、例えばリノベーシ ョンを大なり小なりセルフビルドと混同してしまうことです。セルフビルドに よる自分のスペース作りであれば、さっきのノスタルジィの話と同じで、そ れ自体は他人と共有しにくい。あるいはコンバージョン(用途変更)はむしろ社会的な問題ですが、その実現自体は基本的にテクニカルな問題 です。それは個別解をもたらすものではなく一般解に向かうもので、目の 前の具体的な建築を形作るものではない。セントラルビルでリサイクルを 徹底しているように、社会的問題を無視するわけではないのですが、リノ ベーションによって出来る空間には、そういう課題では掬い上げられない クオリティーがあると思います。
―今回、「街おこし」の解答を建築家に期待されていた人も少なくないの ではないか、と思うのですが。
日埜:戦後60年、近代社会がどういうものであったか皆知っているはずで す。セルフビルドで自分の部屋を作り個人的な楽しみの世界に撤退して も、正しさにすがり社会的なものへ応答するだけでも、まともな環境は出 来ない。その分裂がなにを生んだか忘れてはいけないと思います。 自分の部屋の壁の色を変えるのは誰でも出来ることですが、建物のどの 壁、どの柱を抜くことが出来て、どの壁を壊してはいけないか、という判断 は建築家が持っているような専門的判断力が介在しないと出来ないこと です。そういう具体的なことを意識しないセルフビルドの高揚感はどうかと 思います。それを無理に踏み越えてしまえば当然危険ですし、無理とあ きらめてしまうのももったいない。リノベーションで面白い空間を作ることは 実際に可能ですからね。同様にリノベーションが街づくりにつながるとい うレトリックも、今までの苦労を忘れているところがあるんじゃないか。それ では現実はついてこない。元気を失うより積極的になるのは良いことだと 思いますが、実際に何が出来るのか、そして何が出来るべきなのかをき ちんと考えることは必要ですね。簡単ではないけれども、ポジティブな取 り組みが必要だと思います。
-日埜さんは建築批評を積極的に発信することでも知られています。ま た独立前は神戸の設計事務所に勤務し、震災も経験しています。日埜さ んの事務所が入っている六本木の「ギャラリー・コンプレックス」はリノベー ションで生まれ変わった建物です。アート、それにつながるリノベーション を街の活力につなげたいという水戸市民の今後の活動にも注目していき たいと感じました。

 

1971年 茨城県生まれ
1994年 大阪大学工学部高額建築科卒業
1994年~2002年 アークスコーベ勤務
2002年 日埜建築設計事務所設立
2003年 「ギャラリー小柳ビューイングルーム」JCDデザイン賞2003優秀賞
「ギャラリー・コンプレックス」リノベーション