55-3 建築家紹介06 パルフィ・ジョージ

2004年10月4日 at 1:05 PM

「建築はサービス業」

パルフィ・ジョージ氏

 

今回は、日本で活躍中のハンガリー人建築家、パルフィさんにご登場いただきます。
 辰は2002年竣工した「MASUNAGA1905」(設計:サイトウマコト、実施設計:パルフィ総合建築計画)を施工させていただきました。
―来日して26年。これまで日本で仕事をしてこられて、どんな感想を持っていますか。
パルフィ:建築が他の産業と大きく違う特徴は、「人的要素」が非常に大きいことです。産業という言葉で考えれば、第二次産業のはずですが、実態は異なります。設計者、施工者に99%存在することは「作る」という作業。しかし人間がすることなので、設計・監理者が、現場の作業を行う人のモチベーションをいかに高めるか、どうやって施主のために「絶対にいいものを作ってあげよう」という気持ちにさせるか―これが結構重要なんですね。
自分の仕事だけでなく、仕事の対象となるものに対して建築ほどグレードが変わるものはない。例えば、ホンダの車を作るということは、「工場の作業員が一生懸命働けばいいものができて、そうでないときはダメだ」ということはなく、車の性能は極端には変わらない。しかし、建築は恐ろしくそれが大きい。ある意味、システム化されていない、一番遅れている業界ではないかと思います。
―現場の予算管理もありますし、担当者のコミュニケーションがなかなかスムーズに行かない場合もありますが、いろいろと初めての条件に対応しなくてはならない建築もあります。
パルフィ:建築の中で「今までだれも考えていなかったアイディアを盛り込む」ということもあるとは思うんですが、僕は、誰も考えていなかったことの中にどれだけ評価に値するものがあるのか、疑問を持っています。もちろん建築の中にも新境地というのはあるし、人間の空間に対する欲求はいろいろと変化していく。しかし、逆に今最先端の技術をどう人間らしいものに生かしていくか、を考えたほうがいいのに、デザインとか形とか「今まで誰も考えていなかったことが何よりも先に来て、作者の存在だけがアグレッシブに出ている気がします。メディアの問題もあると思います。とにかくメディアに載らないと仕事が来ない、という風潮があるようですが、僕自身はこれまで長いこと仕事をしてきて、評価されたい対象が本当に変わってきました。本当に評価されたいのは、お客様からです。本格的な会社案内も、ホームページも作っていません。それでもお客様から口コミで仕事をいただいています。
―建築専門雑誌だけでなく一般誌でも建築を取り扱うようにはなりました。
パルフィ:それは住環境に対して一般人の関心がある程度高まったこともあるかもしれませんが、僕は日本人の暮らしがそれほど良くなったとは思わない。部屋が広くなったわけでもないし、結局「美しい建物に住みなさい」という消費・購買意欲を刺激しているのに過ぎない、と思います。僕は、人がいない建築写真は無意味だと思う。誰もいない殺風景な空間、誰もいないところで建築は美しいはずはない。そんな建築写真がいっぱい雑誌に出て、その隣に、ファッションや食べ物のページがあって、「そんな服どこにしまうの?」と言いたくなってしまいます。
―お客様の希望というのもありますね。
パルフィ:最近、大手ゼネコンの一人勝ちみたいな話も聞きますが、一人一人のお客様のニーズに応えて、きちんと工事するところがどれだけあるでしょうか。お金持ちなら、坪300万かけてもいい、というお客様もいます。
例えば、初めて家を建てるなら、風変わりな打ち放しの家を高級住宅街に建てるかもしれません。でも50歳も過ぎ、会社も経営するような地位になって「そういう家に住むのはくたびれちゃった、もっと楽な空間に住みたい」という希望を持つお客様もいます。木造もきちんと作れば、設計に2年以上かけて、宮大工を呼んできて、となるかもしれない。でもそこまではしたくないと思うでしょう。じゃ5億円で土地を買って、2億円で建物を作るとして、そのときに、天井はむき出しとか、アルミのフレームとか、都心に今並んでいるような建物はどうか、というとお客様はそういうものに関心がないんですよ。彼らが見ているのは、「Architectural Digest」とか、外国の雑誌、そして不動産情報。そんな中でも1冊に1,2件、満足するものがあればいい。ギンギラギンのアメリカのリゾート物件はほしくないし、装飾は不要。まじめでシンプルなディテールの建物だけど、中身にはそれなりのグレードのものがほしいんです。ソファセットに600万かかってもかまわないし、厨房に2000万かかってもいい。そのように お客様が考えているのに、そういう生活文化にまで理解をもっている施工業者がどのくらいいるでしょうか。そういう暮らしに対してまったく情報がないんですよ。
 「文化がない」というのは、「育てられていない」ということなんです。僕は、今の日本人は子供と一緒に過ごす時間がものすごく少ないのではないか、と感じています。大事なことが伝えられていない。18-22歳の若者が挨拶もろくにできない。40歳過ぎの企業経営者なのに、人のことを気遣えない。おそらく、大学にいってから、親と全然接触がないのではないか。多分、家には寝に帰るだけ。1週間に1,2度は家族が一緒にテーブルを囲んでそれぞれの行動を話す機会を作らなくてはまずいのではないですか。いろんな環境、情報の中でお父さん、お母さんの行動を見せる―そういうことで子供は育つと思います。
―ハンガリーでは違いますか。
パルフィ:だんだんハンガリーもそうなり始めていますね。日本は塾があって、顕著ですけどね。
基本的に今の経済の流れは、「脅し」をかけて人をコントロールする、アメリカ流になってきていると思うのです。一生同じ会社に勤めていたらだめだぞとか、子供は作らない方がいい、とか。政治もそういうアメリカの経済の手法から学んでいる。個人に分断された社会が形成され始めている、と感じます。
「安心して暮らす」ということについて自分なりの考えがあって、人生の「優先順位」を自分で持っている人は、宣伝なんかに心を動かされない。18000円でどうしようもないスニーカーを買うくらいなら、3000円で十分だと子供に納得させて、ほかに必要なものをきちんと説明できる大人がどれだけいるでしょうか。
―耳が痛いお話ですね。5年前にハンガリーにも事務所を開設されて、これからも日本とヨーロッパを行き来するお仕事が増えそうですね。
本日はどうもありがとうございました。
1952年        ハンガリーエゲル市生まれ
1976年        ブダペスト工科大学建築学科 修士課程修了     ハンガリー政府建設省 建築研究所住宅研究研究員
1983年   東京大学工学系建築学科研究科博士課程修了
1983年   一級建築士事務所アーチ・スタジオを設立
1985年~  専門学校桑沢デザイン研究所非常勤講師(至現在)
1985年   ㈱アーチ・ストラクチャー設立
1989年   ㈱パルフィ総合建築計画と改名
主要な作品
山梨学院大学キャンパスセンター
山梨学院大学付属小学校
三井病院
Jean-Paul Hevin 新宿伊勢丹店
ANDERSEN 上野店