58-3 建築家紹介09 内海智行/ミリグラムスタジオ

2004年12月5日 at 4:41 AM

「コラボレーションの醍醐味」

  今月は、ミリグラムスタジオの内海智行氏です。
弊社では、2001年「inner skin house」を施工させていただいており、現在渋谷区にSOHO住宅、品川区に共同住宅を施工中です。
―「inner skin house」では、建て主のK様が時間をかけて、ご自身でどんどん内装に手を加えられていく過程が楽しみでした。内海さんは、そのような 「作ること」にこだわりのあるお客様の住宅を、多く設計されているように見えます。
内海:室内に関しては、Kさんのように、ご自分もデザイナーであるような強い主体性を持った建て主に限らず、ほとんどの人はきっかけさえ与えてあげれば、それぞれが持っているイメージの可能性を広げていけるはずです。したがって、建築は、そのきっかけを継続的に与えられる器であればよいと思っています。仕上げと構造体を分離しやすい鉄骨造などは、器の有り様がオープンなのでインターフェイスがいいですね。室内のしつらえは住宅にとって大切な要素ですから、建築の計画とは、ある部分で切り離し、その人それぞれの感性をうまく引き出してあげるプロセスを提供できるように心がけています。
―コミュニケーションの力ですね。
内海:住まいかたについて、私の方から従来のイメージを押し付けることは決してありません。ユーザーとそれに関わる人たちの生き方に適した形で空間がそこにある、そうした固有値となることが大切だと思っていますね。
―大手施工会社の設計部出身でいらっしゃいますが、現場の知識も豊富なのではありませんか。
内海:知識に関して他と比較することはできませんが、ただ、アトリエにありがちな新規性ゆえの設計図面の精度の問題などは、現場からすれば不信感以外のなにものでもないという自覚はあります(笑)。
ゼネコンでは現場監督が会社上での立場が上ですから、設計の意志を貫くためにはいろいろと気を遣います。もちろん、そうした中で養われた知識もありますが、それは、技術的なことよりむしろ姿勢みたいなものかもしれません。でもそれは、現場との信頼関係がいい施工結果を生むという、あたりまえの事が、結局建て主の利益につながるということにつきると思います。
―話はさかのぼりますが、内海さんはイギリスの芸術大学を出ていらっしゃいますね。弊社で今施工中のC-ONE新築工事の建て主、フランス人デザイナーのグエナエル・ニコラさんともそこで一緒だったそうですが、ニコラさんは今、日本のさまざまなデザインの分野で活躍されています。「au」のロゴとか、SANYOの液晶テレビとか、「SONY GINZA」、「ISSEI MIYAKE」などの多くの店舗のインテリア、その世界に境界がないので驚きました。
内海:そうですね。彼はプロダクトやインテリアデザイン等幅広い分野で活躍しています。僕自身は確かにそうした他業種のクリエイターとの交流が多い方だと思いますが、そうした他者の創造的な固有値を自らの建築の中で収斂することにあまり抵抗がありません。むしろ、そうしたコラボレーションから刺激されることの方が面白い。もちろん、人文や史学な過去の蓄積を尊重しつつ、建築として守るべきところ、主体性を持ち合わせてはいますが、いい意味で、新しい出会いが自分に新しい刺激を与えてくれると思っています。

―C-ONEについては、工事現場を定点撮影されたりするようですが、ニコラさんが内装を担当されるとのことですね。
内海:そうです。室内は完全に施主が主導し、我々がタッチしないところです(笑)。でも、もともと建築は周辺環境という絶対的に自分達が関与できないものの中に存在するので、このケースでは、さらに内部も自分が関わらないものとして、その狭間としての外殻が建築としておもしろい(笑)。
今、働きながら住むSOHO系が増えて、「住宅」の概念は変わりつつあります。それらはかつてのように、家族という単位を一つ屋根の下に、明日の労働力を回復する場として機能することだけに主眼を置いた住環境ではありません。C-ONEも「住む」という機能を持ち合わせながらも、おそらくはまったく異質な空間になると思います。でもそれは、ニコラさんの「住む」という目的が、一般と極端に異なっているわけではなく、ユーザーの空間への価値観が社会生活そのものをそこにおいて、そこで生まれてくるものに注目しているのだから、それはそれで意味があると思います。
 技術的な産物としての建築は日々進歩していると思います。しかし、いわゆる建設によって社会的な産物として付随してくる部分、つまり感性や文化の成熟は日進月歩とはいかないようです。ほんとにゆっくりなんです。時間がかかる。だから、わかりあえないことを嫌がらずに、いろいろな人に関わって理解を深めていきたいですね。
―どうもありがとうございました。
内海さんがC-ONEの地鎮祭で、「これからみんなで楽しく協働作業を始めていきましょう」とわれわれ施工会社にも現場の人にも挨拶されたのが印象的でした。「皆で作るのだ」という意識を一つにしようという心づかいが感じられました。「現場では英語が飛び交っていて困る」という辰の担当者の、愚痴とも自慢ともつかない一言も記しておきます。
1963年 茨城県生まれ
英国王立芸術大学院修了後、筑波大学大学院修士課程修了
大成建設設計本部勤務を経て
1998年 milligram studio 設立、同代表
主な作品
中野坂上の住宅
柿の木坂の住宅
旧大隈邸、弧状の増築
Towered Flat
Inner skin house