69-3 建築家紹介20 関根祐司/ARBOS(アルボス)

2004年10月5日 at 2:52 PM

「クリニック」

関根祐司氏

 

―今月は、「南砂町クリニック」の設計者、㈲アルボスの関根裕司氏にお話をうかがいました。
―HPを拝見しましたが、クリニックの設計を多く手がけていらっしゃいますね。項目が別に設けられていました。
関根:クリニックの建築は、専門的な知識がないと難しいものなんです。私の場合、大学卒業後、すぐ千葉大医学部の先輩方がクリニックの設計を依頼してきましてね。先輩も気軽に頼めるということなんでしょうか、何件か手がけたんです。医療現場の資料なども教えてくれて、それが今の仕事のベースになっていますね。
―その後、桑田建築設計事務所にお入りになっています。
関根:千葉では大きい方でした。官庁の仕事が主で当時は実務ばかり。設計監理だとか、今でも実務は自信ありますよ(笑)。そのうち、先輩の産婦人科の仕事が来て、27のとき、いったん独立しました。武者修行に出るつもりだったんですけど、周囲の皆さんから独立すると思われ、またクリニックの設計の依頼が来たんですね。結局3件ほど設計してから、ワークショップ(北山、谷内田、木下3氏の設計事務所)に入りました。
―なぜワークショップに?
関根:目指しているデザインが、ワークショップさんのものに近かったんですね。学生時代に大学院の先輩の仕事を手伝っていたのですが、流行っていたのが、ラショナリズム(合理主義)。自分が読む本もちょっと年代が上の人のものが多くて、北山さんには「関根君って、俺たちと同じ年代の人みたいだね」と言われましたよ(笑)。
デザインワークはそこで教わりました。当時事務所内では、大きな物件をやってきた人間が結構少なかったので、桑田事務所でも経験があったし、2件ほど担当しました。約5年いましたが、ノリが良い雰囲気でしたね。「いいところに来たな」と今だに感謝しています。
―ワークショップからの独立が35歳くらいですね。
関根:基本的には専門はクリニック。だから仕事はある、いう感じでした。
―クリニックの設計というと、具体的にどのように大変なんですか?
関根:お医者さんにはお医者さんの文化があるんです。それが具体的にわかるまでは経験が必要ですね。ライバルは、設計屋さんでなく、薬屋さんの連れてくる内装業者です。仕事は、設計プランが採用されるというものではなく、ドクターの話相手になれるかどうかが決め手。
―話のレベルについて来られるかどうか、なんですね。
関根:そうなんです。お医者さんは、医者であると同時に経営者。大病院にいたときは雑用としか思っていなかったことも独立と同時にやらなくてはならないでしょう。例えば、「レセプト」と呼ばれる、保険請求の書類の精査も、大病院にいたときは職員がやっていた。それを自分でやらなくてはならないですし、そういう細かい仕事を全部自分でやるとなると、お医者さんにもいろいろ不安が出てきます。そんなとき「他の医者はどうやっているのか」という情報がほしいんです。
それなのに、20代の頃は、依頼のあった仕事をそのまま素直に設計していたんですね。30件くらいプレゼンテーションをやって、受注できるのが、せいぜい1件でした。「競合している医院建築専門の設計者や内装業者より、プランが悪いとも思えないのに、何故だろう」と当時は思っていました。30代になってきて、やっと「なるほど」と理解しましたね(笑)。
―若いということだけでもハンディでしょうからね。
関根:それから、お医者さんでも甘い考えで独立を考えられていて、いざと言うときに融資が下りないという方については、計画自体が成立しないので、今は話が来た場合、まず「事業計画」を立てることから始めています。スケジュール(今の病院を辞めるタイミングも含めて)や、事業資金など、ある程度の時間を見計らってから、雑談の中で本気かどうか確かめる。何よりも人間関係の形成が必要、あうんの呼吸です。薬問屋さんは、この気の使い方がうまいですね。
ところが最近は、医者と医薬業界の癒着を防ぐため、医薬分業がすすみ、診療は医院で、薬は院外処方で調剤薬局が受け持つようになってきましたから、お医者さんは相談相手がいなくなっちゃったんです。それで私のような設計者が話を聞く機会が増えてきたんですね。
―蓄積されたノウハウが発揮できる、ということですね。
関根:薬問屋で昔から付き合っていた社員が、今社内では部長だとか役員になって偉くなっていますが、そういう人たちから私は教えてもらいましたから、今も情報交換をしています。むしろ最近のプロパーの若い人のほうが常識がない場合も多く、逆に私たちから「そういうことをやっていたら、ダメだと思うよ」と教えてあげることがあります。
 クリニックの設計をやってきて、面白くなってきたのは、各先生の診療方法をじっくり伺って、「それまでの医院建築のプロトタイプが、必ずしもベストではない」ということに気が付いてから。それぞれ先生の治療にマッチした独自の空間があるはずで、こちらもそういうデザインを提案するようになってからです。今回の「南砂町プロジェクト」のO先生のように新しい医療方法を進めている先生の仕事もくるようになりました。
―お医者さんも競争激しいですからね。
関根:そうです。何か目玉診療を持っていないと、生き残れない。診療点数も、法改正でどんどん変わってくる。診療報酬の金額が大きく変わります。今まで金のなる木だった診療が、とたんに経営の圧迫材料になる。MRIやCTの機械もものすごく進歩していて、昔は高額だった機械が今では安くなっている。保険点数が下がる直前に高額の機械を買った先生は返済計画が大変になります。だから、情報収集は怠りないようにしなくてはならない。医療コンサルティングの方たちの勉強会に出ています。この先どうなるか、見通しを立てていかないと、お医者さんの不安に応えられませんから。
―そうですね。ゲノムが解析され、診療内容そのものが大きく変わってくることが予想されると聞きました。
関根:お医者さんは、脳神経外科、整形外科、神経科、内科、外科など、科によって診療テリトリーもあるので、どういう治療を自分がしていくのか、細かい部分まで的確な判断が要求されています。 私自身は、ほとんどの科のクリニックの設計経験があるので、今後もお医者さんの立場になって一緒に考えてあげていきたいですね。

―どうもありがとうございました。





関根 祐司(せきねゆうじ)



1958年 東京都生まれ

1980年 千葉大学工学部建築学科卒
桑田建築設計事務所勤務

1985年     同事務所退所
1987年  ワークショップ勤務
1993年     同 退所
1997年  ARBOS(アルボス)設立 現在に至る

主な作品
クリニック、集合住宅、専用住宅、店舗など多数