70-3 建築家紹介21 グエナエル・ニコラ/キュリオシティ

2006年1月5日 at 3:12 PM

「プライベート」

グエナエル・ニコラ氏

―今月は、C-ONEのオーナーであり、デザイナーでもある、グエナエル・ニコラさんにお話を伺います。
―建物のコンセプトをまずお聞かせください。
ニコラ:(共同設計者の)内海さんとは「どこまで建物の存在感をなくすことができるのか」を一番話し合いましたし、大事にしたかったですね。素材やプロセス、スケールが極力表に出ないようにしたかった。そういうものがわからないほうが面白いでしょう。普通の建築はいろんな要素、例えば、水道、電気などのエレメントが出てくる。私はその情報をなくしたかった。
そもそも最初のデザインで、細部までデザインし、「いいですね、これで行きましょう」と決まったわけですが、その後、いろいろな理由で建築では変更が出てくる。私は長年プロダクトデザインの仕事をやっていますが、プロダクトでは、そんなことはありえない。最初決めたイメージに近づくまでやり通す。モノの機能をきちんと決めてからやっていくんです。だからすごく辛かった。
―なぜですか。
ニコラ:最初は私も建築のことわからないでしょう。途中から「これは必要」「あれもできない」といろんな変更を求められましたが、でもそれは、私の中ではあり得ないこと。「今までそうだったから」とか「普通はこうだから」と、建築はその「当たり前」ということが多すぎるのではないだろうか。でも僕はそれをストップさせたかった。プロセスを僕自身、勉強したかったしね。
―現場でいろいろ変更することで、最初のものからどんどんかけ離れていく。そういう、デザインに対する妥協はいやだったということですね。
ニコラ:3年前に土地を買ったとき、既に作りたいシナリオがあった。どういう敷地かは基本的に関係ないのです。「こういう生活をしたい」という前提があるのです。
ですから、2年前に作った模型からはほとんど変更がない。まず、3Dで空間を作りたいと思いました。普通、建物は扉を開けると、次のビュー(視界)が見えるでしょう。階段もそう。でもこれは、斜めの回廊で建物を上下し、上からでも下の階が見える、シームレス(継ぎ目なし)なものを作りたかったのです。徐々に景色が変わるような、そういう建物です。
―具体的に言うと、どういう点がシームレスですか。
ニコラ:第1に形。今、言ったように建物内を移動するには、回廊を使って、次第に景色が変わっていくスパイラルな構成になっています。シフトしていくのではないのです。
第2に素材。外のファサードは線が見えないでしょう。全部シームレスで鉄板を溶接したものです。壁も外と中が同じテクスチャーになるよう、オリジナルのメラミン素材を作り、統一しました。
第3に、インテリアと建築。建物の形とインテリアやプロダクト、例えば水栓設備がリンクしているのです。オリジナルデザインの水栓は、水道に見えないでしょう。それから、ソファの寸法とインテリアの寸法を、全部合わせて完成させています。今までの建築は、分けているでしょう。「スケルトンにしました、オープンにしました、はいどうぞ」という感じ。そうではなくて、最初から全部考えてデザインしています。
―それは、デザイナーとしてのニコラさんの真骨頂というか、ある意味、完結した建物を作ろうとなさったということですね。
ニコラ:そう。僕は一つのプロジェクトで、全てをデザインするのが好きです。インテリアデザインをするときも、看板のロゴやショッピングバッグまで、全部決めたい。そうすることで、全体のストーリーの中に強弱を付けられるから。ばらばらにデザインすると全部が頑張りすぎてしまうのです。
 昔から建築をやってきた人の仕事は、とても卓越しています。プロフェッショナルです。では、これから建築を始める僕は、どういうアプローチをするか、自分なりに考えるわけです。言葉で説明をするにはむずかしい。ではポイントは何か。それはプロダクトと同じようなプロセスを取るということ。
建築ではなく、「どういう生活がしたいか」というところから、コンセプトが生まれる。だから極端に言えば、建物の形はどうでもいい。もちろんコンセプトによる必然的な形状というのはあるけれど、コンセプトのある箱を作って、中は住み手の自由ということには僕は興味がないんです。
―人間の動線そのもの、生活の方法を大事にする建築家はいらっしゃいますが・・・。
ニコラ:そのことは、ディスカッションしたね。でも、デザインのプロセスが、建築家とプロダクトデザイナーは根本的に違うの。
建築家はサービスをする。ユーザーが何を欲しいのか、コミュニケートして変えていくでしょ。プロダクトデザイナーは、基本的にそれはできない。だって不特定多数の皆が何をほしいか、なんてわからないじゃない。だから常に新しいものを考え出さなければならない。プロダクトデザイナーは、皆が気づいていないことを考える。そういうプロセスを建築でやりたかった、ということです。
―いわゆる、プロトタイプを消費者全体に向けて作ろうというのではないのですね。
ニコラ:全然違う。自分たちがどういう生活をしたいか、何を見たいかを考えてデザインしたもの。別の人たちのためには、また違ったデザインがふさわしいということもある。
―そこまでオリジナリティにこだわるには、どんな理由がありますか?
ニコラ:僕はずっとコマーシャルの仕事をしてきました。コマーシャルはパブリックスペース。プライベートとは、エクスペリエンス(経験)が違うでしょう。モノを使うときは、一人一人皆違う。そのモーメント(瞬間)のデザインが大事なんです。そのデザインこそが僕のテイストなんですよ。
―本日はどうもありがとうございました。

 

1966年 フランス生まれ
パリのESAGでインテリアデザイン学士取得1991年 ロンドンのRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)でインダストリアルデザイン修士取得。来日
1998年  キュリオシティ設立。
現在、インダストリアルからインテリア、家具、建築まで幅広く活躍している。
主な作品
第39回東京モーターショー「日産ブース」、ソニーショールーム、
タグ・ホイヤーショップ、 プリーツプリーズ(イッセイ・ミヤケ )NY,
Paris,青山店、カッシーナ・イクスシー「ブーメラン」シリーズ、
「au」のロゴデザインなど。