72-3 建築家紹介22 長田直之/ICU⁺

2005年1月5日 at 3:24 PM

「多元的な空間が豊かな全体像を再現する」

長田直之氏

 

―今月は、「blocco(王子集合住宅)」「kh」の設計者、長田直之氏にお話をうかがいました。
―建築家になりたいと思われたのはいつごろですか。
長田:小学校6年生の修学旅行で、京都国際会議場(設計:大谷幸夫)を見たときです。でも中学校時代は卓球に明け暮れて、全国大会にも出ました。高校では普通に勉強してましたね。それで大学で建築学科に入って、1年生から安藤事務所でバイトしていました。
―どういう経緯でそういうことになったんですか。
長田:高松伸の事務所でバイトしていた先輩が「福井でただ勉強だけしてたらだめだ」というものですから。「オープンデスク」といって、見習い学生のための机が用意されてるんです。薄給ですけど。いつも4、5人学生がいました。関西の学生は週1回通えますが、僕は福井だったんで、夏休みとか春休みのたびに行って、模型作りとか、ドローイングを描かせてもらいました。10mの絵を延々と描いたこともあります。―でも、有名な先生の事務所で学生の頃からすごい仕事を目の当たりにされて・・・・。長田:いや、もちろん有名でいらしたけど、まだ仕事の規模は今ほどではありませんでした。僕が入った頃は、大阪ではガレリア・アッカなどの商業施設が主でした。大学を卒業してスタッフとして入所したときには、公共建築を手がけられ始めていて、建物の規模も数十倍になってました。建坪1000㎡の規模から、いっきに何万㎡の仕事になっていった7年間を経験させてもらいました。時代もバブルでしたし・・・・。

―そして独立されたんですね。
長田:規模が大きいので、ひとたび仕事につくと4、5年かかります。ちょっと早いかな、もう少し何年かいようかなとは思ったけど、仕事に入るとやめられませんからね。次のチャンスは5年先になると思って。独立してからは、SDレビューなどのプロジェクトに入れていただけたりして、何とかやっています。

-そして、TPOのレコメで東京に進出されたわけですね。関西と関東での違いというのはありますか。
長田:関西では情報が仕事に直結しないんです。東京では建築ジャーナリズムなど、メディアの情報の評価が関西と違う。―情報が直結というと、具体的にはどういうことですか?
長田:雑誌などに作品が掲載されても関西では反応が鈍い。東京では、仕事に直結しなくても、とりあえず「見ましたよ」という声をかけられる。リアクションが早いですね。
―独立されて10年過ぎて、今回東京にも事務所を開かれましたね。
長田:去年からです。ほとんど連絡事務所ですが、ちょっと打ち合わせをする場所も必要になってきたし、今回のTPOレコメの「blocco」のあと、いくつか住宅をやることにもなっていますから。
―設計で個人的に心がけていることはありますか。
長田:シンプルでミニマルが一方にあるとすると、僕がやらなければならないと感じているのは、経験が多様で重層的な空間をつくることです。
「blocco」の十字プランにしても、全体をいっぺんに見られるわけではなく、全体の印象は、個々の住居を見て廻って、最後に組み立てられるものになっていると思います。
 見学していた人が内覧会で、「最初見た部屋を忘れてしまったので、また戻ったよ」とおっしゃっていましたが、基本的にはちょっと見ただけですぐに空間全体を把握できないように作ってあるんです(笑)。意図的にそう作っています。
見てすぐわかるような建築は作りたくないと思っています。建築の経験というのは、基本的には時間をともなって、ある程度の長いスパンをかけて行われるもの。実際、その部屋で生活するとか、住宅なら何年にもわたって住み続ける中でわかってくることがある。「シンプルな部屋の中でもいろんな経験は起こる」というのは片方ではわかるんだけど、僕はいかに飽きないように居住空間を作るかを心がけています。いい絵って、飽きないし簡単に再現できない。ディテールがどうなっていたかなど思い出せない。見てすぐまねできるなんてあまりいい絵じゃない。建築も再現性は遅れてやってくるものです。できるだけ咀嚼しながら、反芻しながら、自分がした経験を呼び戻していくような建築、ジワーと効いてくるような建築がいいな、と思います。
―これまで建物をひとくくりにして「コンセプトは?」とただ単純に質問を発してしまいがちな自分があったなと、改めて反省させられました。
長田:基本的には「コンセプトは何ですか」と聞いて、「コンセプトはこうです」という答えを聞いたら、実際の建築にそのコンセプトをいかにわかりやすく実現しているかという判断をしがちでしょう。でもコンセプトのために設計しているのではないし、建築のためにコンセプトがあるのであって、僕らを含めて、今の建築ジャーナリズムは逆転しているという危機感が僕にはあり、それはまずいなと感じています。逆にちゃんとやりたい。じーっとそこで空間を経験し、後から良さが湧き出てくるような建築を作りたい。建築というメディアは、言葉にできない、ある種の複雑さを引き受けて作っているものです。「kh」も狭小でありながら、流動的であるよう、きちんと考えて作っています。リーズナブルだけどリッチで、ある種の豊かさを感じてもらえると思っています。
本来僕は優柔不断で、ひとつのことに決めていくのはいやです。なんかの都合でつまづいたら、終わりというのでは困る。ある種の幅、多様さがないと、建築は長持ちしない。10年たって自分の建物を見に行って、それなりにそのときに考えたこと、味が染み出ているのがいい。建てたときが一番良くてあとはだめ、というのではしょうがないのではないでしょうか。
―今、そういう意味では時間を大切にする風潮は出てきていますよね。
長田:住宅の空間をモード化しているのが、気になります。ファッションのように短いサイクルだし。ある程度、流行に遅れていてもかまわないと思いますね。今回の「blocco」のように、左官を今頃やるというのもある意味遅れてる。コンクリートのラワン仕上げにしても既に遅れてる。今の先端は鉄板使いですから。僕は、周回遅れでいい。わかってやっていますから、何を言われても結構です。(笑)
―どうもありがとうございました。
長田 直之(ながたなおゆき)
1968年      愛知県生まれ
1990年      福井大学工学部建築学科卒業
1990-1994年  安藤忠雄建築研究所勤務
1994年      ICU共同設立
2002-2003年   文化庁新進芸術家海外留学制度研修によりフィレンツェ大学へ留学
主な作品
「邯鄲ハウス」、「Nishino Anex」、「Ig」、「Na」、「yh」、「Ca」、「TO」、「Sg」、「CUR」、「SHG」、「otto」。
受賞
1995,96,99年  SDレビュー入選
1999年     JCDデザイン賞優秀賞
2001年     北陸建築文化賞受賞
2004年     TPOレコメ2004 最優秀賞