75-3 建築家紹介25 多田脩二

2005年4月10日 at 6:53 PM

フェイル・セーフ

多田脩二氏

 今月は、練馬集合住宅、T&K邸の構造設計を担当されている多田脩二氏にお話をうかがいました。
―多田さんは、2005年、優れた構造設計者に贈られる「松井源吾賞」を受賞されました(松井源吾賞は今回で終了)。同じくJSCA賞も受賞されていますが、受賞作品はどんな建物ですか。
多田:「中国木材 名古屋事業所」という木材会社の事務所です。プロジェクトそのものはコンペでした。120mm x 150mm x 3000mm の木材を一面に敷き並べ、それらにケーブルを通してプレストレスを導入することにより一体化するという新しい構法で、ばらばらのものを圧縮して、あたかも1枚の板のようにしているものです。仕上げ材、断熱材としても機能するものです。とても技術的に難しいものであるにも関わらず、工期も非常にタイトでしたが、施工会社、職人、設計者が一体となってさまざまな検証を得て竣工することが出来ました。
―構造設計を目指されたのはいつ頃からですか。
多田:学生のときは意匠デザインに興味がありましたが、ある本との出会いがあって、構造をやりたくなったのです。1990.11月号の建築文化の「建築の構造デザイン」という構造特集号です。その雑誌に日本を代表する怱々たる構造家、例えば木村俊彦先生とか川口衞先生、齋藤公男先生などが紹介されていました。構造の考え方によって大胆な建築を成立させていることを知って感銘を受けました。いずれの先生方も構造設計に対する思想を持っているのです。将来デザインを手がけるにしても、「構造を知っていると強いな」と感じてこの世界に飛び込みました。中に入ったら、どっぷりと構造の世界につかってしまいましたが(笑)。
―卒業後は、佐々木睦朗事務所に入所されました。
多田:スタッフは当初自分ひとりでした。先輩でいらした池田(昌弘)さんはスタッフというよりパートナーとして既に独立されていました。今思えば、本当に良かったのは、難易度の高い建築を担当させてもらい、佐々木先生にマンツ-マンで指導してもらったことです。ただし、怖いんですよ・・(笑)。人間としての生き方もですが、建築に対する設計の姿勢が厳しい。「構造設計というより建築そのものをどう考えるか」という根本的なことを実務を通して徹底的に教わりました。共に設計される意匠の方は伊東豊雄さんとか妹島和世さんとかでしょう。建築家がいろいろと考えることに対して、どのように向き合うかという姿勢がすごい。
―チャレンジ精神が旺盛な建築家の方ばかりですよね。
多田:むしろ建築家に対して佐々木先生の方がどんどん入り込んで提案していく。通常のように建築家が「こういうことは構造的にできますか?」と訊ねる問いにただ答えるだけでなく、さらに一歩踏み込んでいく感じです。もちろん建築家の考えを尊重しながらも、構造の合理性と独自の美学によって成立させます。言うのは簡単、でも実際にはとても難しい事です。
―スタッフは、ほんとに気が抜けないのでしょうね。
多田:当然毎日深夜まで働いていますし、休日もあまりない状態でした。せっかくの年末の休みも1年の疲れがどっとでて毎年よく高熱で倒れていました。佐々木事務所は5年制。毎年1人やめたら1人入る、というペースでしたが、結局9年おりました。
―そして2004年、事務所を設立なさったのですね。
多田:最初は仕事もほとんどなく、少し前まで大学の先輩でもある大塚眞吾さんの事務所を間借りさせてもらっていましたが、やっと最近、仕事がコンスタントにある状況になってきました。主なところで竣工したものは、一つの敷地に4人の建築家がコラボレートした玉川台のプロジェクトで、そのうちの若松均さんとみかんぐみの住宅、そして練馬集合住宅(施工:辰、Shin Club74掲載)などをやらせていただきました。
―練馬集合住宅は面白いピロティですね。
多田:基本的には中央のコアで水平力に抵抗する構造でSRC造としています。一見普通のピロティのように見えますが、周囲の鋼管柱は、160Φの外形に板厚16mmの厚いものをつかっています。基本的にこの鋼管柱は鉛直力のみの支持で良いのですが、万一予期しない規模の地震が起き、中央部のコアのコンクリートにひび割れなどが入り始めても、そのときに廻りの柱が曲げ抵抗して効き始めるという設計としています。
ちょっとした構造の提案をしつつも、クライアントに対しては何よりも安全が大事です。ただし、「絶対に壊れないものを作る」というのはある意味不可能です。建築基準法を満たす事は最低限の当然の事ですが、その法規もある仮定のもとで成立しています。少々予期しないことが起きても、「フェイル・セーフ」、二重の意味での安全性を確保ができればよいかと思います。余力をさらに持たせるとかそういうこともしていかないと―。
―住宅でも、大胆なデザインで構造設計の先生がアドバイスされる場面が多くなっていると聞きますが、最近ではどのような住宅が多いですか?
多田:基本的にローコスト住宅が大半で、その中でも木造とRCの壁式構造が多いです。今、RCの壁式といえども、建築家の提案される案は壁が少ないものや、立体的に複雑なもの、あきらかに地震時に建物がねじれ変形するような建物が多いです。それを成立させるためにはいろいろと工夫がいるし、それなりにコストがかかります。また基本的に、2階建ての木造住宅は意匠の設計者だけで設計は可能ですが、なるべく壁や柱をなくすようなデザインや、床・梁を薄くしたいような仕事がきます。ただし壁が少なくなると、構造的に建物を成立させるために行うことがいろいろと出てきますし、手間もかかります。接合部が特に難しく、金物を使い始めると途端にコストがはね上がります。
―コストがあがることをご理解いただかないと大変ですね。
多田:構造躯体にコストがかかりすぎて再設計を行ったり、またコストばかり言って、陳腐な建物になってもつまらないですし・・・。
―先日着工したT&K邸では密実なコンクリートを打つため、工事部全体で総合コンクリートサービスの岩瀬氏を招き、改めて勉強会を開きました。
多田:前述したようなRCの壁式の設計を行う場合は、壁をある程度厚くする必要があります。しかし住宅には住宅のスケールがありますから、あまり逸脱しすぎるのも考えものです。そうなるとコンクリートそのものの強さを引き出す必要性が出てきます。
またRCの設計を行って現場を訪れる度に、いつもフラストレーションがたまります。鉄筋の配筋のひどさやかぶりのとれてないもの、設備配管の多さ、ジャブジャブのスランプによる打設。それにもかかわらずジャンカやヘアクラックなどなど・・・。今一度ひび割れない、しっかりとしたコンクリートをどうやったら打てるかを追求してもらいたいですね。そういうニーズにしっかりと応えてくれれば、コストも理解されてくる。また、職人さんたちのレベルを再び引き上げるいい機会になるのではないかと思いますね。
―どうもありがとうございました。
1969年  愛媛県生まれ
1992年  日本大学理工学部建築学科卒業
1995年  日本大学大学院修士課程修了
1995年  佐々木睦朗構造計画研究所入社
2004年  多田脩二構造設計事務所設立
主な作品
中国木材 名古屋事業所(設計:福島加津也+冨永祥子建築設計事務所)
主な受賞
2005年  第15回松井源吾賞受賞
                      第16回 JSCA賞受賞