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42-2 TRIO

(撮影:編集部)

世田谷の閑静な住宅街に、まるで一軒家のような集合住宅が出来上がりました。スリット状のテラスと形の異なる窓が入った四角い箱―その中にそれぞれ個性的な3つの空間が組み合わさって収められています。

 

設計の千葉学氏は「建物は街のスケールに合わせてつくることが非常に重要」と考えています。
小さな家々が並ぶ下町、超高層もそびえる新宿などの副都心。建物という街の「粒子」はその街の性格を決定づけるものとして無視することはできません。
庭付の一軒家が並ぶ、世田谷のゆったりとした街並に合わないものは、まず避けたかったそうです。

「これまでの集合住宅のように、まったく同じ部屋を3つ並べ、単に壁で仕切っているだけの建物だと、外から見て『ここからここまではAさんの家』と想像がついてしまう。
中に住んでいる人間にしても、同じ間取りで隣の生活が想像できるというのは決して面白いことではない。
狭いところだからこそ、隣の人との距離感をうまくデザインしようと試みました。
断面の組み合わせも入り組んでどこからどこまでが自分の家かわからないようにしたかったのはそのためです。」と話してくださいました。

また、開口部が少ないように見えて、実は一日の移ろいの中で、窓やスリット状のテラスから差し込む光が室内にいろいろな表情を与えています。

千葉「日本人は南向きにこだわり過ぎですね。建物の採光は、窓から入る直射光だけでなく、壁、床、天井に反射する光など、もっと多様であっていい。大きな窓から直接的に大量の光を取り込み、カーテンでプライバシーを保つというのではいかにも貧しいと思いませんか。
外の景色はその土地ならではのものを切り取ればいい。こちらが外からの視線を気にしないで、街の風景を楽しめるくらいがいいと思うのです」

と語ってくださいました。

 

構造:RC造
規模:地上2階、地下1階
用途:共同住宅(全3戸)
設計:千葉学建築計画事務所

竣工:2003年8月
撮影(編集部)

41-3 Zephyr<ゼフィール> (平町の集合住宅)

東急東横線都立大学駅近くに賃貸集合住宅が完成しました。南北両面にバルコニーを持つ階段室型プランで、1,2階は30㎡前後のスタジオタイプのものが8ユニット、3,4階は46~66㎡のメゾネットタイプのものが4ニット入りました。均等なファサードをしていますが、傾斜のある敷地のため、通常の形式とバルコニーアクセスが半々となり、プランもスパンごとに異なっています。建て主の㈲チェリーコーポレーションの櫻田くみ子社長にもお話をうかがいました。

「最初は、近くの建築家に直接設計をお願いしたのですが、あまり賃貸マンションの実績がある方ではなかったのです。そこで、4,5年ほど前からTVや雑誌『BRUTUS』などで評判  の『タカギプランニングオフィス』さんにお願いして、設計の方もご紹介してもらいました。

建築費用はかかりましたが、長い目でみてコンクリート打ち放しはメンテナンスに費用がかからないし、入居率が高いのであればいいだろうと思いました。
施工も、近隣などによく対応していただき、良かったと思います」

構造:RC・壁式ラーメン構造
規模:地上4階
用途:共同住宅(全12戸)
設計・監理:谷内田章夫/ワークショップ

(撮影:斎部功)

41-2 六本木FS ビル

(撮影:藤戸充)

6月に竣工した「六本木FSビル」は、六本木の交差点から一本内側の通りに建つ地上3階地下1階の建物です。施主・藤野豊氏は、武蔵村山市に本社のある不動産会社を経営されています。藤野社長にお話をうかがいました。
藤野:「郊外にある会社なのに、都心になぜ賃貸ビルを持ちたいのか」とは、よく訊かれますね。今回の六本木の土地は、国有地の一般競争入札で落札できた故、当社都心第一号のビルとして建設できただけです。都心の立地条件の良い地域に賃貸ビルを保有することは、当社の念願でした。しかし、ただビルを建設して賃貸するだけでは駄目です。私はビルのデザインにこだわりたい。

「六本木ヒルズ」や「丸ビル」等は例外ですが、良い立地にあるほとんどのビルは、そこに入居するテナントの知名度の方が高く、ビルそのものが人をひきつけているのではありません。小規模、中規模のビルであっても、駅に近く、街づくりに貢献できる意匠、さらに明快なコンセプトを主張しているビル、そんなビルを造っていきたい。そして、テナントには、自分で独立して価値観をつくっていく意欲のある方を望んでいます。
―「六本木FSビル」は鉄筋コンクリート造でガラスのリブを用い、特に夜間の景観の美しいビルです。赤坂にもすでにビルを取得し、郊外ですが学園都市国立にもFSビルを建築中です。設計は、武蔵村山の本社ビルに続いて六本木も手がけた白旗定幸氏(マナ建築設計室)です。時にぶつかることもあるけれど、そのセンスには信頼をおいていらっしゃるとのことですね。

藤野:郊外である武蔵村山市周辺地域においても、地域に住む人々の利便性を向上させ、街の景観にも配慮したビル建設を心がけています。武蔵村山市は築30年以上経つマンモス団地を抱えていて、老齢化がどんどん進んでいる現実があるけれど、すでに団地の高層化への建替えも始まり、今後は若い世代の入居が期待できそうです。ビルを建てるとき、そのビルが地域の活性化に役立てば、何よりです。ビル建設にあたっては、単体のビルだけを見ず、周辺もよく調べ、点で考えず面で捉えるようにしています。

―藤野商事本社は、村山団地のすぐ近く。周りの建物に比べ、そのデザインは際立っています(日経AC 2003.04.28号 p.71に掲載)
地域の賃貸ビル名は「藤ビル」とし、地元との関連性を意識した作り方で建てていらっしゃいますね。
藤野:建物は設計が命だと思っています。図面をつくり、仕様を決めれば一応のビルは建ちますが、それは仮免許のレベル。街の周辺を見て、その建物の存在理由や価値、地域の反応など様々な検討を経て、設計にかからねばなりません。そのためには、設計に携わるスタッフに、経験と感性を求めます。施工については、メンテナンスの件もあるので、「長いおつきあいのできるところ」をとの考えから、意識はしていませんが、結局大手より中小の「顔の見える業者の方」に決めることが多いです。

―藤野商事では、賃貸ビル事業のほかにも別の分野への進出を始めています。本社の1階は、DPEショップがあり、国立FSビルには宅配ピザの全国展開のフランチャイズ店「ストロベリーコーンズ」が入ります。スタッフを20名増員する予定です。
藤野:DPEショップは、まず基本的に私が写真好きだということです。スタッフも写真好きが多い。それから、売り場面積も小さくて済み、初期投資も抑えられる。

―本社にはミニチュアカメラのコレクションやオリジナルプリントの作品が飾られており、社長の写真好きが窺えます。

藤野:ピザ宅配事業は、飲食事業の新たな開始の1ページで、両事業とも当社のスタッフのための、言わば「のれん分け」のようなものです。独立できる業態をやることで、目標ができ、目標に向かって努力することができます。給料をもらいながら、技術も知識も身についていく。定年まで漫然といようなんて思う根性では駄目ですよ。スタッフには、常日頃「45歳までいられると思うな」と言っています。また、スタッフには感性を磨いてほしい。やはり郊外勤務ですから情報不足になりがちです。休みには、「都心に行け、遊びに買い物、いろんな経験を通じて感性を養え」とも。そういうことには、時間を惜しまないでほしい。

―郊外での経営の難しさは、人材面では「バイトはいる」、でも「正社員は限られる」というのが現実だと藤野氏は言います。厳しい中にも、社員への愛情が感じられるお話でした。

構造:RC造
規模:地上3階、地下1階
用途:店舗
設計:白旗定幸/マナ建築設計

 

40-3 Quattro Porte(上馬の重層長屋)

今月は、5月に竣工した2つの共同住宅のご紹介です。2つとも賃貸住宅で、共通しているのが「長屋」という形式をとっていることです。
建築基準法上、集合住宅は「長屋」と「共同住宅」との2種類に大きく分類されます。違いは、各住戸の玄関へのアプローチ形式にあり、共用スペースを持つか否かにあります。「タウンハウス」や「テラスハウス」と呼ばれる低層集合住宅は、現代の長屋であり、欧米ではよく見かける形式ですが、日本ではあまり人気がなくほとんど分譲されていません。しかし、最近のデザイン性が求められる賃貸集合住宅では収益性を高める上からもこの形式に注目が集まっています。
1つ目の「m-house(レントハウス茂手木)」は、基準法上は「共同住宅」ですが、「長屋」の形式で共用スペースを排除し、収益性を高める設計を行いました。2つ目の「Quattro Porte(上馬重層長屋)」は敷地形状による建築制限があり、東京都の安全条例をクリアするために「長屋」の形式を取り、問題解決を図りました。「m-house」の設計者、鈴木孝紀氏(ハル建築研究所)と、「Quattro Porte」の佐藤万芳氏(空間計画研究所)にそれぞれお話をうかがいました。
鈴木「まず40㎡以上の住戸が8戸必要というオーナーの要望がありました。また第1種低層住居専用地域のため、日影規制に掛からないよう建物の高さを7m以下で計画し、また北側斜線もクリアしなくてはならないという制限がありました。そこで容積の地下緩和を利用して必要床面積を確保し、共用部分を最小にして、賃貸面積を最大限に確保しました。」
―中に8戸もの部屋が納まっているとは思えない、ごく普通の建物なのですが、傾斜地を利用した重層構造の部屋は、それぞれいろいろな表情を見せています。
鈴木「南に3mほど下がっているでしょう。地下1階、地上2階のRC造でいけると思いましたね。費用も工期も無いので擁壁を作ると大変です。それよりも建築そのものをコンクリートの塊と考えれば十分対応できます。地形を生かし、快適でのんびりした空間を考えました。いかにも共同住宅という顔つきの住宅よりも、一軒家のように見えて、各戸の住人がそれぞれのアクセス方法で部屋に入っていく感じがほしかった。」
-鈴木氏は、設計段階で開口部の組み合わせをパズルのように楽しんだそうです。敷地が高台なので、各方角のいろいろな景色をどう取り込むか工夫し、更に外から見たときは、奇抜なデザインはこの閑静な住宅街には適切ではないと配慮しました。
鈴木「このような四角い箱に重層で部屋を入れていくには、構造的な制約はあります。しかし、内部から外がどう見えるのか、変化がある方が住宅として面白いですから、そのあたりをだいぶ意識しました。」
一方、上馬の重層長屋「Quattro Porte」の佐藤氏は、路地状敷地が特殊建築物である共同住宅の条件を満たさないため、「長屋」の形式をとりました。それが、逆に建物の可能性を広げ、正解だったと言います。さらにオーナーの友人ということもあって、オーナーの自由な発想をがっちり受け止めた設計を心がけました。
佐藤「ここは、都会でありながら、路地には昔ながらの魚屋さん、八百屋さん、氷屋さんまである商店街。一般的なマンションにありがちな、エントランスを通って共用廊下からアプローチするよそよそしさはないんです。」
―各住戸はそれぞれ独立した1軒の住宅であり、オーナーの、「4戸全てを住んでみたい家に」という要望を満たすのは苦労でしたが、家族のあり方を考えさせてくれるいい機会になったそうです。
佐藤「僕は住まい手にとても興味があります。プランニングの上でのプロトタイプはありません。力のある住まい手が住んでくれて、こちらがびっくりするようなライフスタイルを見せてもらいたい。とかく水廻りは、スペースとして求心力が働いてしまいがち、視覚的にもスケルトンインフィルの明快さを出すことで、ユニバーサルな使い方が出来ると思います。共同住宅=共用部をもつ、よくあるマンションではなく、所有しなくてもその時々の住まい方をすればいいんです。中身の箱はもっと自由であるべきだと思います。」
設計をする立場として、お二人とも竣工後の賃貸の借り手の動向にも注目しています。経済効率を考えた設計がデザインに反映され、賃貸住宅の選択肢をさらに広げているのです。

構造:RC造
規模:地上4階
用途:共同住宅
設計・監理:佐藤万芳
竣工:2003年5月
撮影:斎部功

「Quattro Porte(上馬重層長屋)」Plan ①南側全景②B-type1階。エントランスと居室は床の仕様で区別している。③D-type 4階。広々としたリビングダイニングの上にロフトが設けられている。④A-type 2階。左奥は和室になっている。⑤A-typeの1階。バスルームはガラス張り。⑥らせん階段でアクセスするC-typeの3階リビング。窓は下半分がガラスブロックになっている。(撮影:ナカサアンドパートナーズ)