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212-1 ないものを創る

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「TIERS(荒川技研工業ショールーム) 」  撮影:平賀哲

 写真は、先日オープンした、表参道の「TIERS(荒川技研工業ショールーム)」です。10月16日から22日まで開催された、「DESIGNART 2017」では、4グループのアーティストの作品を、荒川技研工業のワイヤーシステムを用いて、新しい建築空間に展示しました。
期間中は、台風21号の影響で天気がすぐれなかったにも関わらず1000人以上の人が会場を訪れ、予想以上だったという社長の荒川創様にお話を伺いました。「今回は、ショールームを間借りしていた荒川クリニックの建物が老朽化したため、新たに独立したものを建てることにしたのですが、製品を単に展示するだけでなく、さまざまな使い方を提示して、ご覧いただける機会としました。(p4参照)

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荒川創 荒川技研工業株式会社代表取締役社長

もともと研究者だった父、荒川秀夫が『ないものを創る』を理念に立ち上げた会社です。今で言うベンチャー企業ですね。1975年に世界に先駆けてワイヤー金具の調整機構『ARAKAWAGRIP』を開発し、その後この技術を核とした用途製品を次々と生み出して販売事業を展開してきました」

 荒川技研工業のワイヤーシステム「ARAKAWAGRIP」は、展示物が1kg未満のごく軽量なものから100kg以上ある展示物まで、用途に合わせた幅広いラインナップがあります。ボールベアリングを利用していて、ワンタッチでレベル調整ができ、確実に安全にワイヤーを固定できる金具です。様々なパーツの中から適切な金具を選択し、応用することにより、世界に一つだけの空間演出が可能になります。売り上げの15-20%は輸出関連で、アメリカ、ヨーロッパ、アジアにも拠点を広げています。
アメリカのワシントン・ナショナルギャラリーや、ロシアのトレチャコフ美術館などの海外の美術館でも採用され、美術作品の展示だけでなく、ショップのディスプレイや大阪道頓堀のリバーウォーク、鹿児島空港展望デッキなど、 土木・建築の分野でもその利用の可能性を広げています。
「ないものを創るという点ではこれまでも自分達だけでなく、一緒に使う事を考えてくれるクリエーター、デザイナー、建築家といった人々と協働作業を行ってきました。新しく出来たものを提示すると、新たにそれを使いたいというお客様が現れる、という繰り返しで、今日まで来ました。ですから、そういうクリエーターの方たちと一緒に仕事をし続ける空間として、単なるショールーム、ギャラリーを超えた、ものづくりのベースを作りたいという思いがありました」と語る創氏。
長男ということで「親から会社を継ぐようにと言われたことは一切ない」とのことですが、もともと土木・河川の設計を5年ほど経験してからの入社です。さらに次男の均さんは機械メーカーで製品設計の経験の後、入社。そして1番下の真さんも、工作機械メーカーに勤められていましたが、2年前にやはり入社しました。「3人とも、5,6年、外の世界を見てきて、やっぱり会社の可能性を考えるとこちらがいいということになってしまいましたね」と笑顔の創氏。 クリエーター達のデザイン・発想力に応える、ご兄弟3人のさらなるものづくりの力が発揮されそうです。

212-2  TIERS (荒川技研工業ショールーム)

ワイヤーシステムが織りなす、街にひらかれた新たな建築空間

表参道裏通りに面したショールーム機能を有する店舗の計画である。
以前、この計画の両隣をあわせた敷地にクリニックがあり、その一部をショールームとして使用していた。そのクリニックの建物が老朽化したため、クリニックの建て替えに伴い、荒川技研工業の店舗として独立した建築を建てることとなった。
この計画では、建築やデザインの専門の人だけが訪れるショールームとしてだけではなく、表参道を通る人々が自由に訪れることができる街に開いた建築をつくる、というのがテーマであった。同時に機能的な面で1層目を一番広いフラットな空間にしたいという要望があった。
まず、道路に面するボリュームを両隣の壁面線とあわせるように斜めの形状とし、道とつながるオープンスペースをつくり出した。
そして、道路から最上階まで連続するウッドデッキの大階段を挿入し、途中階にカルバート状のテラスを配置することで、内部と外部、階段上と階段下の空間をつないでいる。南側のバルコニーにはワイヤーの幾何学的なパターンを用いたファサードを設置することで半外部的な場所をつくり、緩やかに街と連続する空間を生み出している。
このような空間を内包するために、RC造の壁床ラーメン構造として3層のカルバート状の構造形式を採用している。壁の部分には壁柱との段差を利用してニッチをつくり、カウンターやショールームの製品を展示する棚としている。
10月のオープニングイベントで行われた様々なアーティスト、デザイナーによる展示がきっかけとなり、街に開けた、新たな試みを発信する場所となることを願っている。

(田邊 曜)

構造:RC造
規模:地下1階、地上2階
用途:物販店舗
設計・監理: 田邊曜建築設計事務所
設計協力:四方謙一、木下道郎/ワークショップ
構造:構造計画プラス・ワン
設備:ZO設計室
ファサードアートワーク・サインデザイン:野老朝雄
照明デザイン:岡安泉照明設計事務所
2F:グラフィックデザイン:三星安澄
施工担当:鄭
撮影:平賀哲

212-3 自由が丘の家 T邸

受け継いだ家を、確実に次の世代へ残したい

4月に建ち上がった「自由が丘の家」は、1階にテナント6戸を擁する2世帯住宅です。建設計画がスタートしたのが約1年半前。ところが建設途中に、ご主人が急逝され、奥様はご自身と次男様ご一家の住まいのために奮闘されることになりました。
いろいろな変更を乗り越えて4月15日に建物は完成。テナントの入居もほぼ終わり、次男様ご家族の引越しも落ち着いたところで、奥様にこれまでの家づくりのお話を聞かせていただきました。

 45年前、主人に嫁いだときに最初に住んだ家は、空襲を免れた古い木造住宅でした。広いお庭があり、麻布から越してきた私には、踏切の音がずいぶん大きく感じられたものです。子供が幼稚園に通っていた頃、姪を預かることになり、建増し工事を行いました。
その後、隣の家に住んでいた主人の両親が亡くなって、1階がテナント、2、3階が賃貸住宅の建物を建てることにしました。そちらには今、長男が住んでおります。
 まもなく、今度は我が家も新しい建物に建て替えました。建物は木造2階建て、外壁は赤いレンガにし、1階にテナントを入れて、2階に家族で暮らすことにしました。テナント業ではいろいろトラブルも経験しましたが、テナントの出入りがなかったので、大変助かりました。
 子供たちも独立して、転機となったのは、2011年3月11日の東日本大震災のとき。木造の家はグラグラと揺れて、観音開きの扉は全部開き、戸棚の食器がすべて床に落ちて割れ、主人と二人で家の片づけに何日もかかってしまいました。隣の長男の家も、他のお宅も何でもなかったので、さすがに主人も「ものにつぶされて死ぬのはいやだね」と建替えを考えてくれるようになりました。
耐震性のあるものに建替えて3階建てにし、テナントを入れる事業計画にするまで、主人と二人で下調べにずいぶん時間をかけました。
 そして、計画が始まって地鎮祭の後、主人が病に倒れてしまいました。関西にいた次男がちょうど東京に転勤になり、亡くなるまで一緒に看病できたことは本当に良かったのですが、思いもかけないことでした。
建物が無事完成し、嫁や孫たちも完成を待って引っ越してきてくれました。掃除する気力もないくらい疲れることも多いのですが、孫の顔を見ているとまだまだ頑張れます。そして、やっぱり「主人が生きていてくれたらな」と思うのです。
「自由が丘の家」建て主 T様談

構造:S造
規模:地上3階
施工担当:村田、能田
竣工:2017年4月
撮影:アック東京

212-4 「TIERS(荒川技研工業ショールーム)」オープニングイベント

先月お知らせしたとおり、10月16日から22日まで、「DESIGNART2017」に合わせて「TIERS」のオープニングイベントが開催されました。
野老朝雄、A.A.O今北仁、四方謙一、Experimental Creatinos2017 の若手クリエーター達の作品が、ARAKAWAGRIPを利用した様々な展示方法で飾られました。
初日のオープニングレセプションでは、野老氏や設計の田邊氏のトークショーがあり、会場には大勢の人が詰めかけ、熱気にあふれていました。
会場には、荒川技研工業会長夫妻も訪れ、お祝いにかけつけた方々に、新しい建物の中を楽しそうにご案内されていました。
(写真★印は撮影:平賀哲、他は編集部)