228-1 静かさを求めて

2019年3月14日 at 9:58 AM
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SHINKA HALL  撮影:黒住直臣

写真は昨年春竣工した、中央区新川の賃貸マンション「SHINKA」の地下ホールです。この2月に三期工事を終了したばかりです。近くには「髙橋(たかばし)」という橋があり、その河岸には船着桟橋もあり、往時の「運河」の雰囲気を感じさせてくれます。

建て主はこの地で賃貸オフィスビルを経営されていました。賃貸マンションに関しては初の事業です。
「建物が年を経るにつれ色あせていく事は宿命なのかもしれないが、ただ年月とともに賃料が下がっていく―それは何とかできないか」という思いを持っておられたのです。そんな建て主のつぶやきともいえる言葉に、この都心で長く事務所を営み、且つこの地に暮らしてきた建築家の長谷川順持氏は、新しく建てるマンションに新たな価値として古びない価値と性能を盛り込みたいと考えました。

例えば、東日本大震災以後、まず求められるのは耐震性です。一方、耐震性のある躯体がそのまま表現される打ち放しのRC造の建物も、都心では10年位で灰色に汚れて、見回してみると味になっているとはいいがたい。メンテナンスが必ず必要ならば、全面打ち放しはいかがなものか。打ち放しの良さを見せるなら、ガラスの内側で経年変化の影響を受けない形にして、外装はタイル貼りにし、ハイドロテクトで埃が付きにくいものはどうだろうか。長谷川氏は建て主と対話を重ねたそうです。

さらに、都心のマンションで問題なのは騒音です。窓を開けると、鍛冶橋通りの車の騒音がかなり部屋の内側に入ってきます。夜中も救急車が通り、換気扇の吸気口も音を取り込みます。サッシの遮音性能は、4つの等級がありますが、一番遮音性能が高いT4は二重サッシでないとならない。内部の広さを考え、T3を狙うことにした方がコスト的にもいい。そして吸気口は天井裏で蛇のように回らせると音が侵入しづらい。開口部の問題はかなり解決されました。
さらに防音性能を高めたのは、壁のALCの遮音性能をアップした事でした。ALCは外側にコーキングをして複数の枚数をついでいます。メーカーでは防水性能だけでなく、防音性能の数値比較も出しているのですが、その数値は複数のALCにシールを打って実験していることがわかりました。そこで、長谷川氏はALCの厚みを厚くするより、むしろシールを裏からも打った方がいいと思いつきます。法律が変り、柱と梁に壁を直接鉄筋で結び付けられないので、ラーメン構造に対して、スリットで乾式壁を立て込んでいくALCは、合理的であるものの音性能が不安です。その目地の音漏れを内外にシールを打つことで解決できると考えたのです。

もう一つは、採光の問題。特にお風呂です。全住戸の共通な印象として自然光の入る浴室としています。建て主も明るいお風呂に大共感。そこで一番北側にあって表から見えない、本来売れない部屋になりそうなところを一番日の光があたりそうなお風呂のあるプランにし、さらに光が当たらない2-7階には、防音性能の高い防音室を設けました。お金をかけることになった分、家賃も上がります。もともと音楽大学が近くにあるわけではないところに、「都心でありながら静けさが手に入り、一人の時間を楽しめる防音空間も持てる」という新たなマーケットを開拓したことになったのです。
オーナーの夢でもあったホールを地下に設けることになり、屋上に気兼ねなく自由に使えるスカイテラスも作りました。
結果的に、防音室のある北側の大きな家賃の高いスペースから入居者は埋まっていきました。マンションには、新たな価値が生まれたのです。