233-1 変化は住宅から

2019年8月13日 at 11:14 PM

今月は、神宮前に立ったコンクリート打ち放しの2件のビルのご紹介です。

「NC BUILDING」は表参道の東側の小道で、長年飲食店を営まれていたご一家のビルへの建替え工事です。お住まいを上層階に、テナントを下層階に設け、ご自身の経営されるお店も2階に入りました。

「シンシア表参道」は以前近隣で弊社が施工させていただいたビルの建て主様が、今回も新たなビルの工事をご依頼くださった物件です。こちらは、青山通りから西側に少し入ったところ、デザインをこだわった小さな店舗ビルが住宅街への道に並んでいます。

「シンシア表参道」の設計者、松崎峻氏(スーパービジョン)は渋谷桜丘町で30年以上、設計事務所を主宰されていました。神宮前では今回の現場近くのガレリアアーツビルやCROCSビルを手掛けられました。しかし、2年ほど前、息子さんのお嫁さんの実家が女所帯になって物騒だというので、息子さんの誘いもあって、さいたま市見沼区に多世帯住宅を建てることになり、今は息子さん世帯、お嫁さんのお母様世帯、そして松崎さんの思いが詰まったアトリエ兼住居にお住まいです。野菜が植えられている家庭菜園があり、高台のため他所から視線もはいらず、2階建てのアトリエは北と南の2つの庭に挟まれてとても過ごしやすそうです。70歳も超えられ、今回を機に桜丘町の事務所から完全に大宮の自宅事務所に拠点を移されました。

「大学卒業後戸田建設に入社、31歳のときに日大の同期で黒川紀章建築都市設計事務所に勤めていた北村昌三と独立しました。住まいも同じ中央線沿線で、渋谷でずっと一緒に仕事をしてきました」と松崎さん。
住宅は基本だということですが、最近の若い人の仕事で気になることがあるとおっしゃいます。コンピュータの弊害か、手描きができない人が多いと感じるそう。それに設計の最初の段階でCADで詳細まで描き過ぎ、「もっと大まかに全体を捉えてから詳細図に下りていけと、我々は習ったものです」とおっしゃいます。坪や尺の単位も実感としてわかっていない人もよく見かけるので、何とかしたいと感じられています。「家を建てるということは、ロマンでしょう。作家の林芙美子は、『放浪記』などで知られていますが、女学校を出ているけど、建築の学校で学んだわけではない。でも落合に自分の家を建てようと勉強して、本を250冊読んだそうです。山口文象に設計を依頼しましたが、本人もその辺の設計者には負けないくらいに詳しくなり、素晴らしい邸宅を建てました。その後10年しか住めなかったけれども、幸せだったと言っています。だから僕なりに建築史などをまとめて、若い人に伝えたいことがたくさんあるんですよね」

「それからこの地域には『見沼田んぼ』という大きな緑地があってとても魅力的なところなんですよ」と松崎さん。『見沼田んぼ』とは、徳川時代からの治水事業で開拓されたもので、農地を守るために「三原則」が定められ、開発が抑えられてきましたが、農業後継者不足が進み、現実にそぐわなくなってきました。今は「農」の多面的・公益的な機能が再評価されているため、さいたま市では、独自の『百万人の「農」-さいたま市農業振興ビジョン-』を打ち出しています。

「僕は、老人の街なんかがいいかな、と考えています。一人暮らしの老人が集まって暮らす。元気な人はそこで農業支援などの仕事もできます。そんなことをいろいろ考えさせてくれるのもここに引っ越してきてから。考えたら、住まいを変えるってとてもいいことだと思うんですよ。
アメリカ人なんかは移動に抵抗ない人が多いでしょう。仕事を変える、お金との付き合い方・人との付き合い方を変える。そんなことも、まず住宅から変えるっていうのもいいかと感じます。夏目漱石は80回、家を変えたそうですからね」と新たな意欲を刺激されているようです。