152-1 本と建築

2013年4月15日 at 11:43 PM

電車で隣に座った男性が、A5版ほどのタブレット端末を取り出し、WEB版経済新聞を読み始めました。少し離れた私にも簡単に読めるような鮮やかな画面です。小さなトランクとビジネスバッグを持って、これから出張にでも行かれるのでしょうか。「朝の情報収集は、端末で」というスタイルは、もはや普通のものとなってきました。
スマートフォンやiPadの登場で、紙とインクの印刷物ではない、電子書籍が身近な存在になってきました。今年に入って、楽天が電子書籍端末「kobo」を発売、米国の大手オンライン書籍販売サイト「Amazon」も、11月より日本版の電子書籍端末「キンドル」を8000円台から発売開始し、利用者は無料で電子書店「キンドルストア」に接続して電子書籍を購入できるようになりました。書籍のデジタル化は、印刷・製本・流通コストを削減し、低価格化、省スペースを実現します。また絶版による販売機会の損失も避けることができるようになります。国内の電子書籍市場規模(ユーザーの購入金額の合計)は電子書籍元年と呼ばれた2010年(650億円)から、2016年度には2,000億円程度に達することが見込まれています。(MM総研調べ)
しかし電子機器の操作は、高齢者や不器用な人には面倒なものです。出版物全体に占める電子書籍の割合も、2015年で1,2割にとどまるという見方もあります。「本」が本来持つ魅力は、人の五感を刺激するところでもあり、紙や印刷の文化は当分消えることはないでしょう。

11月6日、代官山ヒルサイドフォーラムで開催される「日中韓共同プロジェクト『書・築』展」のオープニング・シンポジウムに行ってきました。
「言葉の建築である本」と「空間の言語である建築」は、共に人類の歴史に大きな影響を与えてきましたが、デジタル技術の発達により本来の意味が大きく問われています。この2つの分野のコラボレーションが新たな可能性を示すというものです。最近の3国間の政治問題で、多くの民間交流イベントが中止を余儀なくされている中、この展覧会が送るメッセージは貴重です。
特に個人的に興味深かったのは、韓国の「坡州(パジュ)出版都市」の紹介でした。パジュはソウルから車で約30分。48万坪という広大な面積を持ち、本の企画・編集から、印刷、製本、流通という機能を備える都市です。1989年からスタートした計画は現在も進行中。有名建築家が設計した数々の会社はユニークなデザインで、なおかつ周辺の生態系にも配慮した都市計画が、働く人々、訪れる人々にとって心地よい街となることを目指しています。

今月ご紹介する竣工物件、「神宮前の家」の設計者「みかんぐみ」が事務所を置く横浜もまた、アートを通したまちづくり「創造都市・横浜」を推進しています。街の空き物件にアーティストやクリエーター、設計事務所を誘致し、地域に活力を与えるプロジェクトを展開しています。入居者たちが事務所を一斉に公開する「関内外OPEN!」という催しは今年で4回目、過去最大規模の170社が参加しました。

新しい建物が次から次に建つ時代ではなくなりましたが、だからこそ質の良い建物が作られ、活用されるようにと願います。