160-1 時間をかけること

2013年7月15日 at 4:00 PM

「MARKS&WEB 本社ビル」

 撮影 :Shinsaku Kato

 今月の写真は、昨年、目黒区東山に建ちあがった、マークスアンドウェブの本社ビルです。
通りからは木々の緑を通して、ショールームの木製の棚に陳列された商品が顔をのぞかせています。日が暮れると、ライトアップされた木々が、昼間とはまた違った雰囲気を建物に与えています。枕木のアプローチが訪れる人を誘い、オープンなスペースが町並みになじんでいます。さらに緑が成長することで、特別な空間となることでしょう。

今月の「Frontline」には、宮大工の菊池恭二氏をお迎えしました。「法隆寺の鬼」と呼ばれた、故西岡常一棟梁の元で修行、薬師寺の金堂、西塔などに携わりながら、社寺建築を学び、今、全国各地の神社仏閣の建立や文化財建造物の保存修理を指揮し、弟子の育成にも余念がありません。2007年NHKの「プロフェッショナル 『仕事の流儀』」にご出演されたので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。その修行の道は著書『宮大工の人育て』(祥伝社新書)で詳しく語られています。なかでも人を育てるポイントは「教えない」ことだ、とおっしゃっています。大工の修行では手取り足取り教えるのではなく、「なぜ、こうなるのだろう?」と弟子がうずうずしてくるのを待つということが大事なのだと言います。また大工は木の「癖」を読むことも大事な仕事で、覚えの早い子、遅い子がいるように、人にも木と同じく、「癖」があり、その癖を活かしながら、人を育て、使うことが名棟梁の条件だということです。
ダイナミックな社寺建築の大工の世界の魅力、その技術は一朝一夕に身につくものではない、と改めて感服させられます。そして、時間をかけて一途にひとつの仕事に打ち込まれてきたことで「他の分野のプロの方たちとも相通じるものが生まれる」と菊池さんは言います。
今、日本の山林も貴重な建築木材が不足しているそうです。薬師寺金堂、西塔の再建を支えたのは台湾の檜です。樹齢2000年、2500年のものを西岡棟梁が調達したとのことですが、今ではもう台湾政府が森林保護のために伐採を禁止していますので、それもかなわなくなりました。
社寺建築は、日本の木の文化を象徴するものであり、それを育てていくには、樹齢数百年の檜は欠かせないそうです。日本の文化財を維持していくには、なんとしても国産材を確保していかなければならないということです。

目先の数年、数十年ではなく、数百年を見越した建物の修復、そのような時間の流れを捉えていた先人たちの心を、私たちはもう一度思い返してみる必要があるのではないでしょうか。