174-1 土

2014年9月16日 at 2:32 PM

「kotoriku(コトリク)」 撮影:坂下智弘

写真は今月ご紹介する、「kotoriku(コトリク)」という集合住宅です。土でできた洞窟のような建物は遊び心にあふれています。設計の平田晃久さんは有機的な建物をデザインされることで知られていますが、今回は建て主の方から、最初に「アメリカ西部のアドビ(日干し煉瓦)のような建物を建てたい」というご要望を聞き、そのままというわけにはいかないけれども、その土のイメージは面白いと感じられたそうです。ニューメキシコ、サンタフェの赤茶けたアドビの建物は、中はひんやりと心地よく、昨今の亜熱帯気候になってしまったかのような日本の夏には、むしろぴったりなのかもしれません。
もちろん日本でも、木造家屋ではもともと土壁、漆喰などを用いる文化があります。原初、人間は岸壁に横穴を掘ったり、洞窟に入ったりして雨露をしのいだわけですから、我々の記憶に動物として土に安らぎをおぼえる本能が残っていても不思議ではありません。しかし今の住宅で土をそのまま使う建物を建てるということは、経済効率の面から大変難しくなりました。また地面そのものも土が見えるところは、都会ではほとんどなくなりました。街はアスファルトで覆われ、川というより下水管が完備されて、本来の地形や川などの土地のありようを感じることができません。

そしてこの夏、土の性質を忘れてしまうということがどういうことに繋がるのか、思い知らされる災害が起きました。本州を襲った雨で異常な量の雨水を含んだ広島市安佐南区の山で崖崩れが起き、多くの死傷者が出たのです。突然降った雨の量が異常だったことがありますが、昔は家が建っていなかった山の際、沢のある場所まで住宅開発してしまったことも一因でした。また、真砂土という土の性質も関係していました。土地の形状はひとたび地面を覆ってしまうと、後から来た人にはわからなくなってしまいます。ハザードマップも出されていたそうですが、存在自体を知らない人が多かったということもわかりました。

この夏休み、福井県の美浜地方を訪れました。若狭湾を含む国定公園に三方五湖という気水湖(淡水湖も含む)があります。近くの山からその景色を一望したところ、日本海側から陸地に向かって広がる山々のいたるところで地滑りの跡が見られました。家も建っておらず道路も走っていない山中なので、実質被害はないのでしょうが、「山は崩れるものだ」という思いを強くしました。だからせめてその土地に昔から伝わる言い伝えを大事にしたいものです。地名にも防災の知恵が隠されているといいます。
例えば、河川浸食を受けやすい場所では「カツ」(勝、渇、且、割)、水気の多いところや地崩れが多い所では「シシ」(獅子、宍、鹿、猪)、崖地の斜面では(坂、崖、垂、欠、岸、傾、崩、刈、峡)、砂州や干潟は「サガ、ソガ」(佐賀、嵯峨、曽我)、崖関連では(日向、日陰、裏、腰)、崖や深い谷、絶壁を表す「クラ」(倉、蔵、鞍、暗)、土砂流出のある場所「アズ、アツ」(小豆、厚、熱、篤、安土)、埋め立てたところや地すべりで埋まった場所を意味する「ウメ、ウマ」(梅、埋、宇目、馬)など。「~が丘」「~台」などと、開発で新たな地名を振られたところは、その背景は見る影もなくなってしまいます。古い町名はなるべく残しておいた方がいいということでしょうか。

さてその三方五湖最大の湖「水月湖」は、年縞(長い年月の間湖沼などに堆積した特徴的な縞模様の湖底堆積物)で知られています。流入する大きな川もなく、「深い湖底にほとんど酸素がないことから生物もいない」「湖底が毎年沈降するので湖が埋まらない」という好条件が重なって、水月湖の年縞は現在では「奇跡の堆積物」と呼ばれています。精度の高い年縞は5万年の地球の環境変化の指標となり、2012年世界放射性炭素会議総会で、地質学的年代決定の事実上の世界標準となりました。