187-1 松

2015年10月12日 at 6:33 PM

「目黒M邸」 撮影:アック東京

 

今月の写真の「目黒M邸」では、新しくご自宅を建て替えられることになったお客様が、以前のお庭にあった松を「ぜひ残したい」と希望されました。長く育った木には、何かが宿ると言われます。大きくたわわな幹から伸びた見事な枝や輝く美しい青緑の針葉は、ご家族の記憶の中になくてはならないものとなっていたことでしょう。
どの部屋からもこの松を眺められるように、松を中心に建物が配置されていることからも、この木を愛するお客様の気持ちがわかります。

「松」は、日本人にとって最も身近な樹木の一つです。日本三大景観の松島や天橋立、宮島は、いずれも豊かな松の木々が風景の中心であり、「白砂青松」として、詩歌や絵画にもその風光明媚な光景が描かれてきました。長寿の象徴として、神の下りてくる依所として、特別な意味を持つ木です。「松竹梅」という言葉も示すように、ある意味で位の高い樹種でもあります。正月には門松を玄関に飾り、能や歌舞伎の舞台の背景には必ず描かれる、日本人の生活になくてはならないものです。
文化面だけでなく、松はやせ地、荒地で最初に育つ木であり、海岸の砂防林や、防風林としても役に立っています。松脂はテレピン油の原料となり、「松明(たいまつ)」は大事な明かりでした。マツタケなどほかの植物を育てる共生力も持ち合わせています。固い樹皮はチップにされて、園芸用に利用されています。
常緑針葉樹としてはほぼ北半球全体に分布しており、日本的な景観を形作るものとしては、クロマツ、アカマツ、ゴヨウマツが代表的なものです。人工林の樹種としてスギ・ヒノキに次ぐカラマツは、土質を選ばず、耐寒性があり、生長も早い木です。北海道や本州山岳部に多いのですが、実は同じマツでも、マツ属ではなくカラマツ属で、日本の針葉樹で唯一落葉する木です。他にもマツという名前が付きながら、トドマツ(モミ属)、エゾマツ(トウヒ属)、ベイマツ(トガサワラ属;米国原産)のように、種類は違うものがあります。また、建材としては、北米などからの輸入材のパイン材がいわゆる松ですが、家具に使われていることが多いようです。

景色として忘れられないのは、東北大震災の後、岩手県陸前高田市に残った「奇跡の一本松」でしょう。震災復興の願いを象徴するものとして、保護の声が高かったのですが、結局根が腐ってしまい、その後、モニュメントとして保存されることになりました。
細い葉、曲がりくねった幹、武骨な幹の木肌、簡単には触らせてくれない、荒々しくそして繊細な木の魅力。曲がりくねった木を、思う形に作り上げるには、それなりのテクニックが必要です。盆栽にはその究極の技が活かされています。その複雑さが日本人に合っているのではないかと感じます。

東北では害虫被害が増えていると聞きますが、日本の景観を作る観光資源でもある「松」、これからも大切にしていきたいものですね。