144-2  NHビル

用途: 竣工年月: 場所: 設計: 構造: 規模:

撮影:阿野太一

時間を経たヴィンテージの味わいを持つ、アパレルブランドのオフィス

モーターサイクルやミリタリーのエッセンスを反映したアパレルブランドのオフィスビルである。
大きな倉庫のようなざっくりとしたスペースをイメージされていたクライアントに対して、ラフなコンクリート打放し、フレキシブルボート、黒くペイントしたスチール、ラーチ合板など、どこにでもある普通の素材を使いながら、新築の感じを限りなく排除し、ブランドイメージを加味しながら、独特の空気感を生み出している。
経年変化による劣化を感じさせない、むしろ時間の経過がますますその魅力を大きくするような、未来のヴィンテージとなりうる建築を目指している。
そんなに大勢ではないスタッフたちのワークスペースなので、通常のオフィス空間の構成のように、各階で縁が切れた同じ平面を縦に重ねて、隅に縦の動線を配置するのではなく、上部にトップライトを設けて、レベルをずらしたスラブの各所にワークスペースを配置し、中央に緩やかな階段を設けて、それらをつないでいる。
各部署の機能によって、高さ関係や開き具合、閉じ具合を検討し、スタッフ全体の親密感を損なうこと無く、その距離感を調節している。

(大堀伸氏 談)

所在地:渋谷区
構造:RC 造
規模:地下2階、 地上2階
用途:事務所
設計:大堀伸/ジェネラルデザイン
竣工:2011 年 12 月
施工担当:鯨津、若井
撮影:阿野太一

コーディネートについて
D.BRAIN .CO.,LTD 岩田拓氏に聞く

建物の設計に先立ち、NH ビルでは、建築コーディネーターとして、株式会社ディー・ブレーンが建主、設計者、施工者間の調整を行いました。もともと、商業施設などの内装工事を得意とされている会社ですが、今では周辺業務全体も行っています。コーディネーターという仕事について、代表の岩田拓氏にお話を伺いました。

一口に「建築工事」と言いますが、最終的な仕上がりのどこに重きを置くかは、設計者、施工会社、インテリアデザイナー、インテリア施工会社の間に、大きな違いがあるものです。僕は、建主が誰に設計を頼むかのサポートを依頼されるところから入ることが多いのですが、まずは建主要望の全容を伺い紹介するデザイナーや建築家を絞り込みます。
その際に特に注意しなくてはならないのはデザイン面です。シンプルな空間を得意とする設計者にデコラティブな空間を求めてもうまくいきません。設計する側も苦痛ですし、建主も最後まで違和感を持ったまま進めなくてはならないからです。
また、工事を進める過程において、建主が疑心暗鬼に陥るポイントがあります。要望と予算と規模が、かけ離れている時です。大抵は進捗の過程で周りのプロたちは気が付いているものですが、建主には非常に言いづらいことなので、そのまま進めてしまう。そしてプロジェクトは進んでいくうちに引き返せないポイントまで来てしまい、これによって建主が痛みを伴う場面が出てきます。経済的な痛みや、時間的な痛み、精神的な痛みだったりするのですが、建主はプロフェッショナルではないので、当然このような問題を察知できません。引き返さなければならない道を進む前に、危険信号をアナウンスする道案内が必要となります。
と言ってもそう難しい話ではなく、大切にしているのは、「僕が建主だったら」と考え、素人の人にもわかりやすく伝えることです。あとは、ひたすら建主の気持ちを聞いてあげることです。建築のプロたちが、打合わせで、建主の言うことをわりと流してしまう瞬間が出てきます。すると建主は不完全燃焼を起こします。建築の話をしているのに、インテリアの話を始めたりする。プロが進めるプロセスとは違う、でも建主とはそういうものです。建主には建主の理論があり、話したい理由があるのです。

きちんと話を聞いて整理して保存しておき、あとで必要なときにそれを取り出してくるようにしています。
逆に、建主が設計者や施工者とスムーズに話が進んでいる場合は、むしろ前へ出ないようにします。ともすると、プロジェクト自体が僕を中心に進むケースも出てくるし、ミスリードしてしまう可能性も出てくるのです。それだけは避けなければなりません。
また、建主に近い立場なので、建主そのものに勘違いされたりします。確かに、基本的に軸足は建主においていますが、それでも公平性を保ち、物事の判断は常に公正を心がけております。例えば、建主が建築物に対して、工業製品と同様の製品精度を求めた場合、中立な立場で、それが出来ないことを伝えるのも必要と考えています。厳しい言い方かもしれませんが、「建主にも発注責任がある」ということです。
特に辰さんが受注するような建物は、工業製品と比べると 80%くらいの完成度だと思わないとならないでしょう。ベンツを買ってきたのではなく、「一緒に造るもの」を買ったのだから考えないといけないのです。引渡しの際の建主の期待と実際のギャップを埋めるのも僕の仕事かもしれません。
建物はある意味プロトタイプ(原型・試作品)です。それを施工側が「しょうがない」と切り捨てては問題は残ります。しかし、建主にもある程度事前に特性を理解してもらい、理解の範囲で選択肢を与える必要があるのです。
私の仕事は施工の立場も理解してこそ、出来る仕事だと思います。

 

2013年4月7日 at 2:00 PM