94-1 砂場厨房 & I 邸

用途: 竣工年月: 場所: 設計: 構造: 規模:

由緒ある木造店舗とともに伝統的な空間を形成する、都心のオーナーズビル

 新築のビルではあるが、表側の店舗と別ものというより、この一画が「砂場」というコンセプトで成立するよう、由緒ある木造建造物と並ぶ「蔵」というイメージを持たせることにした。だが地上4階の建物に、大きな軒を載せて、漆喰塗りというわけにはいかない。むしろ東京に昔から見られたような小さな屋根と軒の、石積の堅牢でシンプルな蔵がいいということで、外壁は石貼りを模したサイディングを施し、丸瓦棒葺きの屋根を載せて蔵の形を創出した。
建物の間口は2間という非常に限られたものだ。店舗のような木造建築の雰囲気を好まれるご主人と、これまでお住まいの建物が合理的な洋風デザインの住宅である奥様の双方にご満足いただけるよう、木を多用した折衷形式の内装でご希望に沿う形をめざした。使用した木は米ツガが基本である。居住環境である室内は極力間仕切りを減らし、視覚を遮
断して狭くしないように心がけた。内装の仕上げは左官材を使いたいところだったが、厚みが出るので、ボードとクロスを採用した。
1階が店舗の厨房。2階以上が居住スペースとして、水廻り、各居室を効率よく配置している。

(降幡建築設計事務所東京事務所 部長 田中良孝氏談)

 

所在地:港区
用途:店舗 住宅
構造:鉄骨造
規模:地上4階
設計: 降幡建築設計事務所東京事務所
竣工:2007年12月
撮影:間瀬憲隆/スタジオ・ミュー

 

復元と再生

虎ノ門 「砂場」 は、 明治より続く由緒ある老舗蕎麦店。 都心にあるお店は立地条件も良く、 売却などの提案が各方面から寄せられていました。 しかし大きなビルの立ち並ぶオフィス街にありながら、 築 84 年の木造家屋を愛するお客様も多く、 5 代目店主の I さんは新しくビルを建替えるより、 建物の現況を生かした耐震補強 ・ 補修を望まれ、 木造建築物の曳家 ・ 施工で有名な恩田組が工事を手がけることになりました。 また、今回 6 代目のご自宅ビルの新築工事(店舗の厨房を含む)を隣接して行うこととなり、 弊社がその施工を請け負うことになりました。
双方の設計を担当した、 降幡建築設計事務所 (本社松本市) 東京事務所所長小坂進氏によると、 今回、 店舗の改修では木組みの接続部分以外にはまったく金具を使わずに、 建築当初の形に戻すように復元したということです。 建物は、 44 年前と 13 年前に2度ほど改修工事を行っていますが、 13 年前の工事では鉄骨を入れたり、 副柱を入れ
たりして補強していました。 しかし周辺は車の往来も激しく、 近くの解体工事現場の振動も地震の震度3~4になるほどの場所。 木と鉄骨では却って振動が増幅されることもあると、 今回の工事で単一素材に戻して創建時と同じように木材だけを使うことになったのです。
改修工事は、 まず建物全体を 1.5mほど上に引き上げて、 地盤改良を行いました。 新しく土台を作り直し、 店内の基礎、 1 階部分は鉄骨などを取り除き、 何もない状態にして根太組を交換し柱や梁を新しくしました。 内装設計を担当した中村未希子部長によると、 2 階はほとんどそのままに、 1 階はお店側から要望のあった一部の柱の再利用以
外は、 3 階など建物の別の場所にあったものを転用したり新しく作り直したりしたとのこと。 改修というよりむしろ建築当初の姿に戻すようにしたのです。
また、 東京オリンピック (昭和 39 年) の時に計画され、 未だ実施されていない道路拡張計画があるため、 三尺つまり 90cm 分建物の大きさを縮めています。 将来的には表側が4m後退する可能性があり、店舗部分は裏の駐車場部分に下げることで対応可能にしました。 新築のビルの方も前面の 3 階部分を減築可能な構造にしてあります。
引渡し後、 昨年末 12 月 24 日から新しく営業が開始されました。 お店の方のお話では、 古くから馴染みのお客さんは、 新しい店舗を訪れると、 「昔に返ったみたいだね」 と喜んでくださるとのこと。 日本酒を傾けながらゆっくりとお食事をされている中高年の方々に混じって、 若い人たちのグループも目立ちます。
建物の耐震工事で、 「今後 80 年は大丈夫」 と所長の小坂氏。 今回の建築費用は、 新築工事の場合とほとんど同じくらいだったそうです。
木造家屋の復元は意匠だけでなく、 構造、 エコロジーの点でも有益な再生となりました。

 

 

2013年2月16日 at 2:00 PM