89-1 松涛TH

用途: 竣工年月: 場所: 設計: 構造: 規模:

自然素材とスリットによる快適空間

 

建物は4m×4mの正方形が集まった長方形の箱に、45度の壁や梁、建具を重ね合わせたプランであ
る。庭とその植栽を生かす採光を考慮し、開口部を斜めにした作業のプロセスで生まれたこのアイディ
アが、建物の外観や内部のいたるところにスリットを生み出し、空間に表情を与えている。今回、特にそ
の効果が生かせたのが正面の開口部分である。以前から、周りの環境に対して、視覚的に開かれたフ
ァサードを用意したものの、生活が始まるとプライバシーの保護や近隣との関係から開口部を閉ざしてし
まう建物を数多く見てきた。だが、朝夕窓を開き、風や光を取り込む行為は、毎日の暮らしに必要不可
欠なものである。それが45度に振られた開口部を持たせることで、個室だけでなく、トイレ、バスルーム、
洗面所など、いろいろなところにプライバシーを維持しつつ光や風を呼び込む機能的な場をつくること
ができた。地下1階のガレージに続くエントランスも斜めの線に沿ってスリット状に三角形の柱を点在させ
ることで、直接的な視線をさえぎりながら気配を感じられるように、建具もデザインしている。現場では躯
体の型枠や建具など細かく対応していただいたが、これからもいろいろと展開できるアイディアだと思っ
ている。
建て主の母上のスペースは、高齢者向けのグループホームなどの設計を手がけてきた経験を生かし、
極力自立性をサポートしながら、家族とのコミュニケーションを取りやすいプランとした。小さいながら水
周りも専用とし、引き戸でフレキシブルに空間を仕切ることができるようにした。
内装にはこれまでも無垢の木や土壁など自然素材を好んで採用している。1階の寝室や書斎の床に
は鳥取の智頭杉、厚さ3センチの無垢板、1階の居間の床は淡路の敷瓦、2階の床にはライミックス、そ
の他コルクなどを用い、壁は珪藻土や漆喰塗りで仕上げている。木部や造作家具の塗装はドイツの健
康塗料を採用している。暮らしてみると、これらの自然素材は吸放湿性に優れているため、室内の空気
や温熱環境がとてもよい。化学建材との違いは歴然としている。しかし、施工作業は養生にも時間がとら
れ、今の日本の施工システムから敬遠されているのも事実である。1,2ヶ月の工期の差とその後の環境
を考えれば、現場で「つくる」という行為がもっと見直されていいのではないか、と思っている。

(齊藤祐子氏 談)

所在地:渋谷区
用途:専用住宅
構造:RC造
規模:地下1階 地上2階
設計:齋藤祐子/SITE
構造設計:建築構造企画
竣工:2007年4月(第1期)
撮影:北田英治

2013年2月11日 at 4:00 PM