86-2 ペットサウンズビル

変貌する武蔵小山駅前に一品物の個性的なビルが誕生

武蔵小山は現在、東急目黒線の駅前再開発が進行中である。この商店街で長年レコード店を営んできた建て主は、再開発移転に伴い、駅前に新しくビルを建て、1階にご自身の店舗を置くことになった。
駅前広場に面した最適のロケーションに建つビルとして、駅前広場にいかにアピールするかがこの建物に与えられた第一の条件である。しかし広場をイメージしながら特別な位置をどう生かすか、現在の広場は雑多な工事現場でしかない。品川区の計画のパースを見せてもらったが、広場が描かれているだけで、駅ビルについても正式な計画の発表はまだなされていない。ただ、目黒線は地下化され、駅前広場完成を機に周辺環境が視覚的・動線的に開放されることが予想された。その関係をできる限り建築が遮断しないように、駅前広場と内部空間との視覚境界を少なくすることで駅前広場からも各階の人の動きが見える、個性的なビルとしてアピールできればいいのではと考えた。
規模や構造については、いくつかの案を経て地下1階地上6階(6階は屋上スペース)となり、コンクリート打ち放しを提案した。コンクリートはタイルにはない、経年変化を見せてくれる素材である。コンクリートの汚れやクラックは長期的に見れば必然的に起こるもの、焼き物のように一品物という考え方ができる。他にはない、個性を持つビルとして、武蔵小山に残る存在感を示してほしいと考えた。
1階の建て主の店舗を除く、地下1階から4階まではテナントが入る。ファサードとして、開口部をどう見せるか、建て主といくつかの案を検討した。鉄骨造で全面ガラスのプランや足元からの全面開放の是非など模型も数点作成し、結局「できるだけ大きな窓」という提案に対し決定要素となったのは、看板であった。以前も店舗ビルを所有されていた建て主は、看板はなるべくメンテナンスフリーにし、テナントの入れ替わりに際しても手間がかからず費用がかさまないものを要望された。そこでこの建物の壁構造を生かし、各階の店舗の看板を開口部の向かって右側の内部壁面に取り込み、店舗が変わっても外側からの作業が必要のない解決を行った。ファサードは広場に面した東側に大きな開口部を作り、本来明るい南側道路の方には対面に雑居ビルが多くアピール性も駅側からはそれほど期待できないので、そちらに鉄骨の外階段と店舗入口を設けることにした。外階段はファインフロアの囲いで採光と通風を確保しつつ、視線を遮る効果を持たせている。
一方、設備面では、この地上6階というビルの規模はちょうどキュービクル(変圧装置収納箱)を入れるか入れないかという選択に迷う大きさである。通常屋上に置くことが多いが、建て主が「飲食店をテナントに入れない」という明確な方針をお持ちで、将来的にもテナントと良好なコミュニケーションを持ち続けられるであろうことから、ビルの利用者全体で設備利用について分け合う可能性を信じ、電気は低圧でいけるのではないかと判断した。結果、屋上テラスにキュービクルを置かない、広々とした空間を確保することができた。
住居部分は、5階と6階(屋上)の2層。5階住居部の開口は、外部の気配を繊細に感じるように限定し、5階のエントランスから屋上にかけてはむしろパブリックな感覚のスペースとした。屋上テラスはパーティスペースとして、建て主親子の音楽を通じた様々な交流の場として、機能していくことであろう。

( Atelier S+ アトリエエスタス建築設計事務所 清孝英氏 中川佐保子氏 談)

所在地:品川区
用途:専用住宅+店舗
構造:RC造+一部鉄骨造
規模:地下1階 地上6階
設計:清孝英・中川佐保子/Atelier S+ アトリエエスタス建築設計事務所
竣工:2007年2月
撮影:平井広行

2013年2月8日 at 2:00 PM