246-1 ソーシャル・ディスタンス

「ESCENARIO MINAMI-AZABU(エスセナ―リオ南麻布)」 撮影:バウハウスネオ

写真は3月に竣工した、低層型の高級賃貸マンションです。場所は「麻布十番駅」と「広尾」駅の間、両駅まで徒歩10分ほどの閑静な住宅街。いろんな国の大使館も点在しており、気になるお店もたくさんある地域です。

設計は、「エスセナーリオ表参道」(2019年8月竣工)など弊社が数多くの物件施工させていただいている木下道郎先生。メゾネットやダイレクトインできる長屋、ペントハウスなど、それぞれ持ち味のあるプランが豊富に用意されています。

今月のフロントラインでは事業主の秀光建設株式会社大橋伸光社長にインタビューさせていただきました。コロナ感染予防のため、ソーシャルディスタンスに配慮して、机の間に衝立を立て、マスク装着で取材です。写真撮影の時は、さすがにマスクを外していただきました。

お盆前には「Go Toトラベルキャンペーン」を導入したにもかかわらず、「東京除外」措置がとられて、東京の人はどこにも旅行に行けない、地方の人からは迎え入れられない夏でした。自粛生活を送られた方々も多かったと思います。地方でもお盆だけど、都心で仕事をし、生活している若い息子・娘たちには「どうか帰ってくるな」と厳しく伝えてくる親も少なくなかったようです。仕事で地方に行った折、「観光客の方、お断り」という張紙を貼っている食堂を見て、寂しい気持ちになりました。
そもそも、「ソーシャルディスタンス=社会的距離」とは、家族との関係を、社会への参加を断たなければならないという意味ではありません。ほんとに物理的な距離を意味しているのだから、「フィジカルディスタンス」と言い換えるべきだという意見もあります。感染のリスクを避けるために、あえて物理的距離をとるのであり、家族や友人、人と人とのつながりは引き続き保っていきたいですね。

LINEやFACEBOOK、TwitterやInstagram、と距離をおいても情報交換できる豊富なアイテムがそろっていますが、顔も見ず、声も出さない短い言葉でのわずかなやり取りはそれだけのもの。
ZOOMやTeamsも音声や動画は見られたとしても足らないことだらけです。知り合いの大学生は、せっかく入学した大学にまだ一度も行っていません。オンライン授業のみだそうです。バイトもできず、学費や生活費を払えないので大学をやめるかもしれない学生もいるそうです。政府や学校は何とかそんなことだけにはならないよう、配慮してほしいものです。若い人たちが感染防止策をとりすぎて、孤立の道へ進むことだけは避けてほしいと感じます。

「この40年、思いもしなかったことが起きて、毎年のように新たな経験をしている」と、取材で伺った大橋社長の言葉が響きます。この変化に対応するために、新しいことに挑戦し問題を解決する気持ちを持ち続けたいものです。

245-1 厄介なこと

「TREES(鵜の木集合住宅)」 撮影:Satoshi Asakawa

ここは多摩川の河川敷にほど近い、大田区鵜の木。このたび、RC壁と木々に囲まれた外観が特長的な集合住宅が完成しました。周辺はほとんどのマンションがワンルームの地域です。しかし、建築家の伊藤潤一氏は、敷地の斜め向かいに小学校があり、子どもたちの通学路となっている様子をみて、子どもたちに何かを訴えかけるファミリータイプの建築を提案しました。

「オーナーとは家族について語り合いました。家族はファミリーツリー、小枝が広がるように増えていく。集合住宅は余計なものをそぎ落として建てられるの普通ですが、ここでは、一つ厄介なものを引き受けてもらうのはどうでしょう」と持ち掛けました。

「例えばペットは、毎日散歩させて、食べさせてと世話が大変だが、それが人の心の癒しとなっている。それと同じように、この集合住宅に入居される家族には厄介だけれども、1本の木を新たな家族の一員として迎え入れてもらう。つまり、1本の木を育ててもらうという条件で入居いただくということにしたのです。育てるという厄介さを引き受けることで、それ以上の豊かさを手に入れることができる。自然とともに暮らす、木を育てる喜びがついてくる―そういうコンセプトはどうですか」とオーナーに提案されたそうです。

「このプロジェクトに携わることになった頃、フィンランドに行く機会がありました。そこでバルコニーを上手に室内化している家のあり方に触れることになりました。
ヘルシンキに1週間ほどアパートを借りたのですが、違う空間が豊かさを生み出していると感じました。バルコニーに新たな価値を見出せないかと感じたのです。
そこで、このプロジェクトでは、『木』というアイテムを用いて、生活に厄介なことをバルコニーに設えました。それは、部屋の延長線上として、積極的に利用できる場所としたのです。例えば上階に伸びていく木が入居者の間のコミュニケーションツールにもなる。そんな風にも考えました。1本の木を介して、上下階がつながっている訳です」

外観は矢板の型枠を使っています。木枠の粗々しさをストレートに感じることができます。育っていく木々を受け止める自然な土、石のような対比で、経年劣化をものともしないよう、建物としての将来を見据えています。
「工事が始まってから、『これ何?』と通学する子どもたちの話題になっていたみたいで、行きかう大人たちも『一体何が建つんだろう』と興味津々のようでした」
建築自身がもつ美しさと同時に、そこで何か新しい状況が起きることも同じくらい重要であると感じるようになったという伊藤氏は、子どもたちの反応を完成まで楽しんでいたとのことです。

244-01 人の手が織りなす建物の魅力

「LANAI GRACE KITA AOYAMA(ラナイグレース北青山)」 撮影:エスエス東京

写真は東京メトロ銀座線「外苑前」から徒歩5分、高徳寺境内に接する閑静な住宅街に竣工した共同住宅です。以前、芝公園でも施工させていただいた㈱ランドビジネス様の企画で、「北青山」の場所の特性を考えた、住宅兼事務所・SOHO の高級賃貸マンションです。周辺はハイグレードの大きなマンションやコンクリート打ち放しのミニマルな共同住宅など、デザイン性の高い建物の建設があちこちで進められています。そんな中、この建物は細部にわたり、きめ細かいデザインや色遣いが感じられる上質な趣をたたえています。
今回は、3-5月のコロナ自粛の中、リモートワークでお仕事をされている㈱ランドビジネス建築設計部部長矢野茂様に寄稿いただきました。まず、この建物の企画のお話から。

「街並みの中での魅力ある佇まい、風情」
建物の在り方としては新奇性を求めず、街並みの中での魅力ある佇まい、風情が 50 年、100 年保たれるような懐の深い建物を目指しています。
魅力のある佇まい、風情を造り上げるには設計図も重要ですが、それ以上に現場での造り込みが重要になります。 精魂込めて造られた「物」に人は魅力を感じ、感動しますが、「建物」も同じです。
音楽に例えれば、設計図は楽譜であり、優れた指揮者、演奏者がいて初めて感動的な音楽になります。建物も同様に設計図を読み込み、街並みの中でどのような佇まい、風情が可能かを深く考え、具体的に様々な材料を厳選しそれぞれの材料を生かし、匠の技を用いて調和のある全体を造る事で初めて人に感動を与える魅力のある建物になります。

「継続している時間の感覚」
ヨーロッパには風情のある街並みが多くあります。人々が共通意識を持ち長い時間と多くのエネルギーを掛けて造り上げられて来た街並みです。
仕事で行った時に泊まったイタリアの地方都市の小さなホテル、レストランは「新しい物」と「古い物」が互いにインスパイアされた豊かな空間があり、日常生活の中に「新しい物」、「古い物」単独では得られない豊かな空間が造られていました。 そして街全体に継続している数百年の時間の中にいるような豊かな感覚がありました。(矢野様のテキストから。建物詳細についてはp2へ)

今回の工事では、前面道路、そしてお寺の境内へ延びる道と、参道へと続く小さな私道の整備も行いました。赤いレンガを敷き詰めた歩道は、この先の周辺の変貌も見据えて、近隣の人々に優しい暮らしやすい環境を整えています。

 

243-1 快適工場

「㈱洋菓子舗ウエスト日野工場/配送センター」 撮影:齋部功

写真は、3月にオープンした、㈱洋菓子舗ウエストの新しい工場です。
弊社は、2008年にウエストの「青山ガーデン」の施工をさせていただきました。(ShinClub104 )豊かな緑の庭を持つレトロな雰囲気の喫茶店では、上階の工場で作ったばかりの温かいデザートもお客様にご提供できるということでいつ訪れてもたくさんのお客様でにぎわっています。

もともと日野には木造で築55年の工場がありましたが、社長の依田龍一様によると、事業とともに手狭になり、近隣の一般の住宅をさらに2件買い取って、そこを従業員の食堂にしたり更衣室にしたりしてこれまで凌いでいらしたとのこと。大きな地震が来たらということもあり、耐震性に優れた建物に建替えたいというお気持ちが以前からあったそうです。

「うちの場合、工場といってもほとんど職人さんによる手作りの仕事です。大きな機械でつくっているものだったら、どこに移動してもかまわないでしょうが、新しく開発しているものも手作り。大事なのは職人さんです。職人さんが通える範囲の中で新しい土地が必要でした。でもそんな都合のいい場所はないだろうと言っていたのです」と依田様。
創業以来、「人工の香料・色素等をできるかぎり使用せず、材料本来の風味を生かすべく、ひとつひとつ職人の手作業による成形」をモットーとしてこられたウエストさん。職人さんの手仕事が、あのおいしいリーフパイやクッキー、ドライケーキを生み出していたのです。

ところが、日野市が行っている土地区画整理事業で、たまたま良い広さの土地が出て、建物の移転が可能となりました。これまで山梨の工場と日野工場の二つの工場で作ったものは、国立の配送センターに集積することになっていましたが、今回の土地は、その国立の配送センターとも近い場所です。
「ここだったら両方の人たちが通える。まさに運命的な出会い。ここ以外ないという土地でした。迷わず手に入れました」と依田様。
2,165㎡、工場としての広さはもちろん、配送センターも合併することになり、あちこちばらばらに借り上げていたスタッフの駐車場も敷地の向かい側に確保、さらに2台しかなかった直売店の駐車場も今度は目の前にある程度の台数が停められるようになりました。

オープンの日を迎えました。しかし予定されていたパーティなどは残念なことにコロナ感染症流行の気配が出て、依田社長は2月早々には中止を決定されました。食べ物を扱う会社が万一の事態を起こしてはとのことです。ゲストの方々を工場見学にご案内することにとどまりました。

その後、東京都が3月25日に外出自粛要請をし、4月7日、国は緊急事態宣言を発令。人々は外出を控え、会社も極力テレワークを行い、経済の流れは途絶えました。しかし5月25日、直近1週間の10万人当たりの新規感染者数が0.5人程度以下という目安を受けて、緊急事態宣言はやっと全域解除へと動き出しました。

感染症流行が言われ始めてほぼ4か月、まだ安全と手放しでは喜ぶことはできませんが、もはや、私たちは新しい暮らし方に進まないといけないフェーズに入っています。工場は働く人のために作業しやすい動線などいろいろな工夫が施されています。新たな環境での皆様のスタ-トを心よりお祝い申し上げます。