266-1 みんなが、みんなの子どもを育てる

写真は、東京都清瀬市に竣工した児童養護施設と地域の子どもたちのための地域センターです。西武池袋線「清瀬」駅は池袋駅からおよそ電車で3,40 分のところにあり、駅前から南西にのびた商店街は昭和時代を思い出させる肉屋や八百屋、飲食店が並び 地元住民が行き交います。商店街を通り抜け、そこからのどかな住宅街を5 分ほど歩いたところが今回の計画地です。

社会福祉法人「子供の家」は1949 年に戦災孤児の受け入れのため、ここ清瀬市松山に設立されました。その役割を終えた後も「子どもの貧困」や「子どもへの虐待」など現代社会に絶えない問題により、今まで多くの子どもたちがここで生活し、巣立ち、ときにはふらっと帰る場として受け入れ続け現在に至ります。ホール・事務所・会議室などがある建物の先にはグループごとに生活する2階建ての生活棟が建ち並びます。2013 年に現早川悟司施設長が副施設長に着任したのを機に同じ敷地内に地域の子どもたちに開けた地域センターの建築計画がスタートしました。そして8 年ほどの月日を経て2022 年2 月にショートステイの受け入れがスタートし、4 月には「そだちのシェアステーション・つぼみ」が開所いたしました。

児童養護施設として、また子どもたちにとってどのような建物が理想なのか、加藤前理事長の作成したプランを基に江川修己現理事長が練り直したものが今回の計画の道しるべとなりました。これまでは長期滞在と短期滞在の子どもたちが同じ建物で生活していましたが、今では清瀬市・東久留米市・豊島区からショートステイの受け入れをしていることもあり子どもたちの人数が増え、今回の計画の建物2 階に移転・拡充されることとなりました。

「そだちのシェアステーション・つぼみ」は日本財団の「子ども第三の居場所」の助成事業です。この事業は家庭の抱える困難が複雑になり、地域のつながりが希薄になるなか、すべての子どもたちが安心して過ごせる環境で将来の自立に向けて生き抜く力を育む「子ども第三の居場所」を全国に広げ、「みんなが、みんなの子どもを育てる社会」を目指しています。一昔前までは当たり前だった、地域の人たちとのつながりや「お互いさま」の関係が核家族化や少子化、はたまた社会経済状況により変化してきました。それと同時に児童養護施設のあり方も見直され、効率重視の大舎制から中舎制、そして家庭環境により近くなるようにと変化してきました。

「そだちのシェアステーション・つぼみ」という施設名からは、子どもたちとの関わりかたもこれまでの「サポート」から「シェア」へ、これがニュースタンダードとなるようにという未来への希望を感じます。また、オリンピックのエンブレムをデザインした野老朝雄氏の手がけた施設のロゴマークは、広がり・つぼみ・未来を表しています。子どもたちにとって安心して過ごせる居場所とはどのような環境で、どのように地域とのつながりが生まれる計画になったのかをご紹介します。

265-1 デメリットこそ付加価値に

写真は、今年1 月に竣工いたしました「WHARF 神田三崎町」です。

土地の特徴を最大限に活かし、デメリットをプラスにとらえて随所に工夫を施しているその建物は、東京都千代田区神田三崎町に位置し、JR「水道橋」駅・「九段下」駅から共に徒歩6分と利便性に優れた場所に建つ地上9階・鉄骨造のテナントビルです。

事業主である株式会社サンウッド様はおよそ25 年ほど前に創業し、分譲マンション開発・計画・販売をされてこられましたが、現在は「東京に感動を。人生に輝きを。」をビジョンに、住宅にとどまらずより多くの感動を届けたいという想いから一棟販売の事務所や商業ビルなど多方面での事業も手掛けられています。今回の「WHARF神田三崎町」はその6棟目となります。

「我々は設立当時から東京都心で事業を展開していきたいという想いを持った会社で、同業他社様や大手企業様が手を出しづらい狭小地を積極的に工夫することで、付加価値を付けて事業を成功させていこうという考えがあります。今回も狭小地でしたが、チャレンジしてみようと計画がスタートしました」と株式会社サンウッドの建築本部建築管理グループ課長 後藤信様。

特殊加工を施した鉄板の無機質な雰囲気と四角形が複雑に織りなすシャープな印象の外観は、周囲の建物に馴染みながらも洗礼されたワンランク上の雰囲気を醸し出しています。設計は、住宅や商業ビル、図書館など数多くの実績を誇るSALHAUS が手掛けられました。

「今まではお付き合いのある設計事務所さんに依頼していたのですが、新たな試みとして『建築家』と呼ばれる方々に相談してみるのはどうだろうという声が社内で上がったこともあり、同じような狭小地でのビル設計をされた事例をいろいろ調べました。その中で、大阪にあるSALHAUS さん設計の『カドマルビル』を見つけて、それで一度事務所へお話を伺いに行ったんです。『カドマルビル』以外にも実績は十分でしたし、弊社と同じ千代田区に事務所を構えられていることから親近感もあり、お願いすることになりました」と後藤様。

内装・外装とも基本的にお任せだったそうですが、建物計画上デメリットとなってしまう部分についても、上手く活かしてプラスにする工夫を随所にしていただいたそうです。

「狭小地ということもそうですが、建物裏手に首都高速道路が通っていたり、間口が狭いなど難題がありましたが、建物完成後改めて見てみると、とてもうまく活かしてくれたなと思いました。建物の付加価値をいくつも付けてくれたSALHAUS さんにとても感謝しています」と後藤様。

より良いモノにしていく工夫とその思いやりを忘れない。「WHARF神田三崎町」はそういったことを感じさせてくれる建物です。

264-1 時代の流れと地域によって求められるもの

写真は、昨年11 月に竣工いたしました「ESCENARIO ICHIGAYA︓エスセナーリオ市ヶ谷」です。

こちらは、多くの鉄道路線が乗り入れる「市ヶ谷」駅のほど近く、交通量の多い外堀通りより「左内坂」を登った高台に位置しています。当設計者であるワークショップ木下道郎氏とは、SHINCLUB1号でご紹介させていただきました「BALCON」をはじめ、弊社では数多くのお仕事をさせていただいております。
また、SHINCLUB246 号でご紹介の「エスセナーリオ南麻布」や「エスセナーリオ表参道」と同じ企画会社様・事業主様・設計者様ということもあり、再度ご依頼をいただけたことは弊社にとってこの上ない喜びです。

「モデリアさんからのご依頼のときはある程度の設計の方向性というモノがあるのですが、やはり時代の流れやその地域によって求められるものは少しずつ違うんですよね。それは共同住宅の計画をおこなう上でとても重要なことだと思います。なのでご依頼をいただいた時点で必ず自分で現地を見に行くんです。今の時代ネットで現地の写真などは確認できますが、それだと街の雰囲気や人々の多さ、車の交通量など細かいところまでは分かりません。建築条件も大事ですが、実際建物に住む人やその地域にとってどれだけ寄り添った計画ができるかをいつも意識しています」と設計の木下道郎氏。

斜線規制が厳しいなかでの計画であった「エスセナーリオ市ヶ谷」。
特徴的な屋根の形状をはじめ、そのために生まれた空間を活かすようにプラン別で14 パターンもの貸室が複雑な立体構成で設計されています。

「巷にありふれた間取りや、広さを間仕切っている部屋も良いと思いますが、あえてそれをしていません。万人が良いと思うようなモノではないですが、こういうモノを探している人たちに『おっ』と思われる空間。他にない『唯一無二』だから人は求めてくれるので建物として成り立っているのだと思います」と木下氏。

今回の計画で一番の難題だったのが、土地の形状上接道の反対側にあった大きな擁壁。しかも擁壁に面する「道路」に見えるところは都の「所有地」だったため、弊社としても容易な工事ではありませんでした。

「企画段階で現地を拝見しに行ったとき、あまりの崖の高さに驚きました。それに加え隣接する道路は都の『所有地』。その『所有地』側から工事することはできないので、これはとても難しい工事になるなと。幾つかの施工会社さんへご相談しましたが、現地を見た瞬間皆がそろって渋い顔をされるんですよ。でも辰さんだけはその大きなリスクと難題に挑戦してくれたんです。あの技術と情熱は誇りに思っていいと思います。本当に助かりました」と木下氏。

お客様・設計者様の「こだわり」や「想い」をカタチにしていく建築会社でありたい。「情熱・挑戦・進化」を理念に掲げ、これからも皆様に寄り添った建築屋を目指してまいります。

263-1 和モダンを感じられる賃貸・店舗併用住宅

写真は、昨年9月に竣工いたしました賃貸・店舗併用の「T 邸」です。

建て主のT 様は、お子さまも独立された今、今後のご夫妻の生活を考えられたときに「より快適に、過ごしやすい住まいにしたい」という想いから、今回の計画がスタートしました。T 様夫妻にお話を伺いました。

「もともとこの地に10 年ほど住んでいました。以前の自宅もとても素敵でしたが、私たちの今後の人生を考えたとき、「もっと住みやすくて居心地のいい暮らしができるのではないかと思ったんです。また、店舗を構えたいという想いもありましたので、こういった機会は人生一度きりですし、夫婦のこだわりが詰まった住みやすい建物にしようと思いました」とT 様。

ご夫妻のこだわりを実現させるため、設計事務所選びにはとても時間をかけていろいろな先生とお話されたそうです。T 様と奥様、お互いにこだわりがある中、最終的にはそれらを上手く取り入れ、素敵なプランをご提案していただいた後藤正史アトリエの後藤氏に依頼することになりました。

「2人のこだわりを上手く取り入れていただき、『あ、これ素敵だね』と夫婦で思えたプランを最初にいただいたのが後藤先生だったんです。その後3、4か月ほどいろいろな先生とお話させていただいたので正式に依頼させていただくまでお時間は掛かってしまいましたが、その後のプラン変更なども親身に計画していただき、その結果とても素敵な住まいができて非常に感謝しています」とT 様。

渋谷区の高台に位置するその建物は、鹿児島の「白洲(シラス)そとん壁」を外壁に施し、黒のファサードとのコントラストが青空に映える立体的な造りになっています。夕景には照明が灯り、キャンドルに火を灯したかのような暖かなライトが植栽を映し出すその様子は、その立体感を更に際立たせています。

「外観は基本的には後藤先生にお任せでしたが、ファサードなどは『和』のテイストを入れていただきました。数年間海外で暮らしていたこともあり、内装はそのときに住んでいた『シノワズリ』のイメージを取り入れていただいています。2 階から3階へ上がる螺旋階段と床との調和・コントラストがとても綺麗に仕上がって、こだわってよかったなと思いました」と語る奥様はとても嬉しそうでした。

3階に位置するキッチンには大きな窓を設置し、高台から望める都心の景色と、近所にある大きな公園の緑を眺めながらお料理ができるそうです。四季折々の風景の移り変わりとともに、より快適に、この地に長く住まいたくなるような建物がまた一つ、ここに完成いたしました。