250-1 年頭のご挨拶_2021 ㈱辰社長 岩本健寿

「千駄ヶ谷駅前公衆便所」 撮影:アック東京

 

新年、明けましておめでとうございます。

皆様方におかれましては、健やかに新たな年をお迎えのことと、お慶び申し上げます。
本紙はこの度、節目である250号の発行となりました。
2016年11月、渋谷ヒカリエにて200号記念の「SHIN CLUB展」を開催させていただきましたが、現在まで継続発行できているのも皆様方のご支援ご指導の賜物と改めて感謝申し上げます。次の節目300号までご愛読いただけるために進化させていく所存です。

昨年、世の中は未曾有の災禍となりました。元々建設業界は景気の後退局面に突入しており、追い討ちを掛けられた状況になった訳です。弊社は幸い全作業所において、工事を完全休止することはありませんでしたが、リモート打合せによる効率低下・一部資材納入の遅れ・作業内容の自粛縮小などにより、少なからず影響を受けました。新規案件の進捗停滞による受注機会の喪失があったことも否めません。
今年も当面は変わらぬコロナ禍であり、アフターコロナの建設業界はより厳しさが増すでしょう。そのような状況下、建設会社としては付加価値があったり、差別化されたオリジナリティのある会社が生き残ると考えております。弊社は引続き建築屋という施工の専門店を維持し、愚直に建物づくりに取り組んでまいります。 「辰に頼んでよかった」そんなお言葉をいただくことが何よりの喜びです。社員一同、情熱をもって精進してまいります。
今後とも何卒変わらぬご愛顧賜りますよう、謹んでお願い申し上げます。

2021年元旦   株式会社辰 代表取締役   岩本 健寿

249-1 法改正による有効活用

「Barbizon 23 ANNEX」(左手前) 撮影:アック東京

写真は、表参道のスパイラルビルのすぐ裏手に建った2階建てのテナントビルです。
幅員4mの小路の正面には、「Barbizon23」ビルが建っています。弊社が世田谷で共同住宅を施工させていただいたことのある、松家克氏/アークス建築研究所の設計により1994年竣工した、㈱バルビゾンの旧本社です(施工は別会社)。地下1階、地上5階、敷地面積約533㎡、延床面積約888㎡の堂々たるコンクリート打ち放しの建物で、当時の基準容積率は160%でした。

㈱バルビゾンは1967年の創立時より、古い建物に付加価値をつけた生活空間づくりをモットーに、渋谷区、目黒区、港区などを中心に賃貸ビル業を展開されています。デザイン性のあるコンクリート打ち放しの個性的なビルが多く、それらはどこかで皆様のお目に留まっているのではないでしょうか。

関連企業には、賃貸事業などの不動産事業を手掛ける㈱ビージーアイプランニングなどがあり、そのほか国内だけでなく海外でのリゾート事業も手掛けられています。

今回の計画は、港区の容積率緩和の法改正を受けて、緩和された部分を有効活用しようということから、スタートしました。ご存じの通り 容積率(%)=延床面積/敷地面積✕100(%)
ですが、敷地の前面道路が幅員12m未満の場合には、その幅員に応じて容積率が低減されます。港区の場合はその低減率が緩和されたのです。

(例)前面道路が4mの場合
・第1種住居地域、第2種住居地域で指定容積率が下記の場合
【300%以下】 4(m)× 0.4 × 100(%)= 容積率 160(%)
【400%以上】 4(m)× 0.6 × 100(%)= 容積率 240(%)
・商業地域で指定容積率が下記の場合
【400%以下】 4(m)× 0.6 × 100(%)= 容積率 240(%)
【500%以上】 4(m)× 0.8 × 100(%)= 容積率 320(%)

道路幅員による低減率の見直し(0.4→0.6)により、結果的にかなり容積率が増加し(160%→240%)、旧本社の遵法性を保ちつつ、駐車場の敷地部分に新しく建物を建てられることになりました。

さてどのような計画になったのでしょうか。

248-1 大きな家

「はつせ三田」 撮影:稲継泰介

写真は、昨年末竣工した「はつせ三田」です。地上7階、地下1階で、外観は開口部がアットランダムに開かれ、他のマンションのように、どのくらいの階高の部屋がいくつ中に収められているのかよくわかりません。想像すると楽しくなります。建物の内部には、心地よい風が吹き抜けていくように見えます。

コロナ禍を経て、働き方に対する見方が大きく変わってくる中で、集合住宅の在り方も変化しています。リモートワークに配慮して、家族間でも一定の距離感が求められ、SOHOは当たり前のようになり、各住戸はいろいろな用途を備えてフレキシブルな使い方ができる場所が必要になりました。共用部分やその外側の地域につながる部分についても、長い時間の変化に耐えられ、地域にとっても有用な存在になる要素を備えていると、どんなに好意的に受け止められることでしょう。

この建物を設計した、井原正揮氏と井原佳代氏は、オーナー一家のために、多彩なプランを用意し、賃貸部分と合わせながら、家族構成、年月の変遷に耐えて、家族が住戸内の転居も可能なように「大きな家」を作りました。メゾネット、トリプレットもある建物は、中央の吹き抜けの階段室で各住戸をつないで、外からのセキュリティを守りながら、内側では専用部のインナーテラスを使った光や空気の抜ける空間を作り上げています。
コロナを迎える前の計画でしたが、図らずもそのコンセプトは、今、働く若い世代が、まさに求めている住まいに合致したものとなっています。

桜田通りの鰻のお店を入ったところ、周辺には高級マンションが建ち並びます。さすがにこの白金・三田地域の賃貸料は高額になってしまいますが、取材に訪れた時に小さなお子様連れの親子にたくさんすれ違いました。近くに豊岡町児童館もあるからでしょうか。共働きで頑張っておられることでしょう。

仕事も子育ても行うには、都心は大変かもしれませんが、この地域で暮らすということであるならば、人と人のつながりを抜きにしては考えられません。私たちは、プライベート重視から、少し外に出て人と何かを共有できるスペースがあることで「STAY HOME」していた人々が心のよりどころを取り戻しているシーンをSNSで何度も見ることができました。家から1歩も出るなと言われた時に、マンションの中庭で体操をするインストラクターとともにベランダで身体を動かしていたお年寄りたち。コロナと戦う医療関係者を屋上からバイオリンの演奏でたたえたアーティスト。人との絆を大事にする開かれた空間が、この建物にも見えます。「一住戸=一家族」ではない柔軟な繋がり。アウトドアキッチンがあり、1階にはカフェも入るということで、街に新たな明るさを与えてくれることでしょう。

247-1 RC造で

写真は、6月に竣工した恵比寿のテナントビルです。東京メトロ日比谷線の恵比寿駅からは徒歩2分、JR山手線・埼京線・湘南新宿ライン恵比寿駅西口からも徒歩4分の好アクセスです。敷地はヒューマンスケールの道路に面しており、賑わいのなかにも洗練された落ち着きが感じられるエリアです。
幅広く事業を手掛ける事業主様から見ると小さな規模のビルですが、今回敷地の特殊性から、少しデザイン性のあるビルを自社所有として利用されたいというご希望で、「ハル・アーキテクツ」の竹内巌氏に設計を依頼されました。

当初はコスト面から鉄骨造という方針でしたが、なるべくファサード側に柱がない空間にしたいというリクエストが出て、敷地と構造の形状が複雑になるにつれ、鉄骨も斜材が多く、接合など手間が予想されるようになってきました。施工は古くからお付き合いのある方を通して弊社をご紹介いただいていたのですが、辰の当時の社長、現森村会長が、「オリンピック需要で鉄骨の価格の値上がりが予想され、鉄骨造は外壁の選定など決してコストが低いわけではないので、形も複雑になるなら最終的にRC造の方がいいのでは」と提案しました。またその後の検討で8階建てにすることができ、より立ち姿を美しくデザインする方向で話はまとまり、RC造に変更されました。
「恵比寿も中規模のものは同じような形のビルが並んでいますが、ちょっとデザイン性のある建物が入ると小さくても刺激的ですね」と竹内氏。施工面では辰の地味な部分の頑張りも評価しています。
「コンクリートを薄くして収まりをうまくまとめたり、バルコニーのガラス廻りの防水に配慮して立ち上がりをつけて収めてくれたりと、全体として目立たない部分で力を発揮してくれました」

道路から見あげると、バルコニーの軒裏の木を貼っている部分が目を引きます。
「見あげたところもファサードの一つと捉えて、デザインしています。マンションなどでも、通常は外側にタイルを張るのが普通かもしれませんが、逆転させて、内部の小壁にタイル、外は打ち放しにということもよくやりますよ」と竹内氏。全てをセオリーだけでまとめるよりも、やはり少し余裕がある方がデザインはいいと言います。

「一般に商業施設はガラスファサードで中を大きく見せるのが普通です。私が以前渋谷で建てた5階建てのビルのように、中に仕込まれている階段、奥のエレベータまで表から見えるものもあります。しかし、今回はRC造で独特な敷地に合ったものを作ることができました。当初、四角ではない土地を購入されるとき、お施主様はまだ完成形のイメージは整っていなかったようですが、このジグザグとした形状の案に、『いいかも』と良いイメージを持ってくださいました」
「一つ隣のビルなど、表通りの新しいビルは緑化を施したりして、自然環境を意識し、街をよくしようという意思が垣間見えます。それに我々も今回、賛同しようという主旨でデザインしました」とお話くださいました。