251-3 阿部信治/「Sunny Letter 弥生」オーナーの父上

2021年2月14日 at 10:26 AM

「建物は長い将来を見据えて建てるもの」

今月は、「Sunny Letter 弥生」の建て主の父上、阿部信治氏にお話を伺いました。
阿部:日本画の筆を作るという仕事をずっと池之端で続けてきました。日本画のプロの方の注文や芸大の授業など移動も多いので、この地を離れるわけには行きません。子どもたちも生まれ育ったこの街を大事に思ってくれていますね。

建築は昔から好きで、このすぐ先に鉄筋コンクリート造で「異人坂館」というマンションを21年前に建てました。
設計はリバックスの計良篤美君です。近隣対策も見事で、ずっと付き合いたいと思いましたね。竣工後も、お世話になった施工会社や設計者の人たちと飲みながら建築の話を聞く会を設けています。そういう日頃の付き合い、信頼関係で建物のメンテナンス、管理がきちんと行われると思います。「今度入居者が退出する」と伝えると、施工会社のメンテナンス部が飛んできてすぐにいろいろとチェックしてくれます。
そんな仲間に計良君の後輩、岡村裕次君がいて、彼が1か月に1回主催する「建築散歩」も大好きで、彼の講釈を聴きながら、街の建築をめぐるという会に参加しています。先日、辰さんが手掛けた千駄ヶ谷の公衆便所も見てきましたよ。

鉄筋コンクリートの外壁には2種類ありますよね。今はつるっとしたきれいな打ち放しの外壁が主流のようですが、僕は本来、コンクリートは自然にゆっくり汚れてどんどん色が黒くなっていくものだと思っています。「異人坂館」ではお化粧をしないで、コンクリートらしいままで良いと、打ち放しコンクリート本来の味わいを優先しました。雨だれも目立たなくなるし、メンテナンスをしなくていい。今回も辰さんに、「同じようにしてください」とお願いしました。つまり、補修を一切しないで、コンクリートにカーボンを入れた撥水剤を塗って、最初から少し黒くして、より質感を出しました。監督さんは半信半疑だったようでしたが。

今は設備などが飛躍的な進歩をしていますが、「鉄筋コンクリートの施工方法は基本的に変わりません。でも減水材を入れるのが普通になりました」と監督さんから聞きました。20年前は減水材を入れることについて、設計と施工がもみ合っていましたがね。今はもう当たり前みたいになっているらしいです。
土木の堤防や橋梁の基礎は、スランプ10以下と聞きます。今でも減水剤無しの施工で明治時代の建物がちゃんと残っているところもあります。私はコンクリートは質感が大事だと思っています。塗り重ねると本来の質感、重量感がなくなるのです。クラックやジャンカもそういうものだと思えばいい。そういうのが嫌な人はタイル張りにすればいいんです。
だから、最初に打つ時には祈るような気持ちでいます。地鎮祭はそういう意味でもどんな宗教も関係なく、きちんとするべきことなんです。工事の成功を祈るという気持ちが大事なんです。

当初、辰という会社をあまりよく知らなかったんですが、計良君に勧められました。表参道の画廊に行ったとき、地下鉄の出口の前に大きく「表参道けやきビル(通称:BOSSビル)」が目の前に現れてびっくりしましたね。「型枠どうやったんだろう」と建築好きなら誰でもすぐ思います。「こんなねじれた柱を建てられるんだから、技術力ある会社だろう」とね。

建物は建てたら終わりじゃなくて、メンテナンスがほんとに大事。竣工後半年くらいは、いろいろな不具合がでるものです。辰さんはこれからもっとメンテナンスに力をいれたらいいですね。大規模改修は必ずやらなきゃならないものだし、皆で建物を長い目で見ていい状態に維持していくことが大切です。
今回「異人坂館」に1戸空きが出たので、現場事務所として利用してもらいました。施工する人に現場が近くてやりやすい環境を提供できたと思います。大好きなこの場所で新たな建物づくりを楽しませてもらって、ほんとに感謝しています。

―本日はどうもありがとうございました。

 

阿部 信治(あべ しんじ)

1952年宮城県生まれ
元・清晨堂店主。40年以上日本画筆製作に従事。東京藝術大学・武蔵野美術大学等でも非常勤講師を務め、一昨年、家業を次男阿部悠季氏に譲る。
「清晨堂」 https://seishindoabe.com/
(工房のため、直接のお問合せはご遠慮ください)
以下の画材店は創業以来清晨堂の筆を取り扱っている日本画材店です。筆を手にとれて、絵具等各種画材も充実しているとのことです。
■㈲ 得應軒 台東区谷中1-1-22 TEL:03-3823-4116
■絵具屋三吉 横浜市中区不老町1-4-12 TEL:045-641-9318
■ウエマツ 渋谷区渋谷2-20-8 宮益坂下 TEL:03-3400-5556

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