86-3 株式会社 ペット・サウンズ

2013年2月8日 at 3:00 PM

今月は、ペットサウンズビルの建て主であり、1階のレコード・CD店 “PET SOUNDS RECORD” の社長、森勉氏にお話を伺いました。

森様は洋楽に対する知識の深さや、お客様に対する心遣いの細やかさでお得意様も多く、専門雑誌への寄稿やラジオ番組への出演など、その活動は多岐にわたります。
ご子息も現在はご一緒にお店の仕事をなさっています。地域でご商売を続けていく上で、日頃感じられていることなどを新しい店舗で取材しました。

<店の名前の由来になったビーチボーイズのアルバム“Pet Sounds” は、森氏も寄稿する音楽専門雑誌の企画で『60年代ロックアルバムベスト100』のNo.1に輝いた名盤。アメリカ西海岸音楽の代表バンド、ビーチボーイズのブライアン・ウイルソンが、時代性を超えたサウンドを発表した名盤として今では評価されている。森氏の音楽に対する憧憬の深さ、心意気をここに感じることができる>

―ビルの工事についてはどのような感想をお持ちになりましたか。
森:一番良かったのは設備や電気のことまで細かく配慮してもらえたことですね。店舗のスピーカーコードなど、表に出てくるものの配線が現しで繋ぐだけというのがありがたかったですね。
デザインについてもしつこいくらい設計の清さんと検討しました。コンクリート打ち放しはもともと好きです。
こだわったのは駅前広場に向けてのアピール性。どうしたらいいか、何案もきちんと出していただけました。
テナントにはチェーン店展開しているようなお店には出来れば入ってほしくなくて、仕事そのものに熱意がある方を希望していました。地下1階のイベントカフェ、4階の整骨院は旧知の方です。地下1階のカフェは、昔のレコードをかけたり、落語を打ったりと面白いお店ですよ。
結局2、3階もリラクゼーションスタジオ、美容院とすべて「癒し系」の業種の方が入りました。

―武蔵小山で長年ご商売されていらっしゃいますが・・。
森:26年間、この地でレコード店を営んでまいりました。品物はCD、DVDなどどこにでもあるものですが、商売の基本は「お客様を大切にしたい」ということにあります。お得意様はもちろん、新しいお客様の開拓もしなくてはなりません。
「お客様ありき」の姿勢で、単にマニュアルに沿った通りいっぺんの接客ではなくて、個々のご要望に応えられるように知識をいつでも蓄えていたいと考えています。
時にはうちにないCDのお問い合わせもありますが、「ここに聞けばわかる」「あの店にありそうですよ」という情報までお伝えしていくことで、次に繋がる信頼関係を作ることができると思っています。自分自身がお店の人にやってもらってうれしい、と思うことをするだけです。

―地方だけでなく、駅前商店街の活性化は、都会でも今大きな問題になっています。
森:武蔵小山でも、ここ10年で商売をおやめになってしまった老舗が多いです。
アーケード(「パルム商店街」全長750mを誇る)は昭和30年代に出来たもので、そろそろ店主の方たちがリタイヤに入る世代。自分も商品としては流行りのあるレコード、CDを扱う仕事を続けてきて、50歳過ぎても一人でやっていくことの辛さを感じた時期もありました。辛い商売を続けるよりも、賃貸住宅にして貸した方が得ですよと言ってくる人もいますしね。
しかし息子が小さい頃からの環境もあるのでしょうが、一緒に商売を継いでいきたいと言ってくれましてね。レコード店などでアルバイトや社員をして修業し、5、6年前に店に戻ってきてくれました。この新しい店はすっかり彼に任せていますよ。
(お店のホームページでも息子さんの陽馬氏の読み応えのある文章を見ることができる。)

―最近の音楽環境についてはどのように見ていらっしゃいますか。
森:僕自身は、ジャンルへのこだわりはなく、音楽そのものをずっと愛してきました。僕らがまだ若い60年代は音楽業界がまだ成熟していなかったから、皆で1つのものをいろいろなメディアで共有できた時代でしたよ。
ポールモーリアが流行ったら、ラジオでもレコードでもいろいろな場所で皆が耳にして楽しんだものです。ビートルズももちろんそう。
ミュージックライフとかFMレコパルとか総合音楽雑誌も音楽好きの若者は皆で読んでいました。今は何が好きかでジャンル分けしてしまって、却ってお互いにコミュニケーションがとりにくくなっていると思いませんか。ヒップホップの人、ジャズの人、クラシックの人、皆マニア化してしまうんです。昔もマニアと呼ばれるオタクのような人はいたけれど、全体で見れば10%ぐらいだったのではないですか。今は95%そんな感じですね。足かせを作っている気がします。放送局もレコード会社とのタイアップ優先で、少数派のリクエストなんてほとんど受け付けなくなっていますね。

皆で普通に聞ける音楽番組なんかあるといいんですよね。小学生や中学生が初めて何かの音楽に触れて感動する瞬間、そんな出会いの場面が減っていると感じます。
ケーブルテレビにしても専門チャンネル化して、最初からマニア向けを意図してしまっている。やっぱり地上波のテレビ番組で、子供が偶然出会った音楽に惹かれる自分を発見する—そういうことがないと、音楽ファンが育ちません。簡単に入れる道筋が必要だと感じています。

―森さんは、レコード雑誌などにも文章を寄せていらっしゃいますね。店内のPOPも熱のこもった、思わず品物を手にとって聴きたくなるコピーがたくさんあります。

森:いろいろなお客様とお付き合いする中で、「文章を書いてみないか」というお声がかかることもあって「ファンの代表」という立場で好きなものだけ書かせてもらっています。
店での日々の仕事は楽しんでいますが、原稿を書くというのは大変な仕事ですね(笑)プレッシャーを感じるときもあります。

ラジオのお話が来たこともあります。今、FMラジオ局として若い人に人気のある「J-WAVE」が80年代の開局当時に「モア・ミュージック・レス・トーク」という音楽専門局としてのコンセプトを前面に出した『ノンストップ・パワープレイ』という番組を始め、私も選曲者の一人として参加させてもらいました。
極力トークを減らして、CMも挟まず、選曲した人のテイストで構成した30分番組で、選曲を依頼されたのは僕のようなアマチュアの音楽愛好家や、ミュージシャンなど4、50人ほど。日に6回のプログラムで4年間、これは開局当時、ライブラリが少なかった「J-WAVE」にとっていいソースになったはずです。番組の最初と最後にだけ僕の名前が英語で紹介される、楽しい仕事でした。

20代の時に店を持つ夢を見て、10年後また決断の時期があって、物事はいっぺんに実現するものではなくて、段階的に現実になるものだと振り返って思います。若い人にもそういうことを伝えたい。
仕事はやはり周りの方との巡り合わせが良かったと感謝しています。仕事以外にも楽しみがあって、またそこからいろんな話が繋がっていくんですね。

―本日はありがとうございました。

PET SOUNDS RECORD
品川区小山3-27-3-1F TEL:03-3787-0818 FAX:03-3482-1691
http://www.petsounds.co.jp

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