266-3 対談 「ニュースタンダード」 早川悟司/社会福祉法人子供の家 施設長 × 伊藤潤一/伊藤潤一建築都市設計事務所

2022年5月13日 at 4:01 PM

今月はp1・2 でご紹介した「そだちのシェアステーション・つぼみ」の事業主である社会福祉法人「子供の家」施設長の早川悟司氏と設計・監理された伊藤潤一建築都市設計事務所の伊藤潤一氏にお話を伺いました。

ー245 号で共同住宅「TREES」のインタビューで伊藤さんに伺った児童養護施設が今回の計画のお隣にある「子供の家」改修計画ですね。

早川︓私は10 年以上前に都心の違う施設にいたのですが、そこはいわゆる大舎制で廊下にそれぞれ部屋が並んでいて、食事のときにとても大きな食堂にみんなが集まりご飯を食べる学生寮のような施設でした。大勢を効率的に生活させるため、いたるところに表が貼ってあり、TV も時間や何を観るかが決められている不自由な生活であったため、幼児、女子、男子の3つのユニットに分け、それぞれバストイレをつけてどれも家庭的なケアができるよう全面リノベーションをしました。そのときに主に海外で住居支援をしているとある方に施設の生活環境を改善したいと相談し伊藤さんを紹介していただきました。伊藤さんとお話した時に風の流れがどうとか、光の入り方がどうとか生活する人の立場に立ってお話されたのが新鮮でお願いすることにしました。

その後「子供の家」に着任した当時、小規模単位にはなっていたものの、20 年経ち老朽化が激しくて不安定な子どもも多く、大人は疲弊してる状況でした。色々と立て直しを図るなか、建物を子どもの生活の場として安らげる場所にするため改修を計画しました。

伊藤︓その頃早川さんにお声がけいただいて、修繕計画に参画させてもらいました。その過程で子どもたちにはワークショップに参加してもらいました。完成は2015 年。限られた予算の中どのようにすれば子どもたちの安らぐ家になるのか検討し、三角屋根の駐輪場や、家の形の本棚、掲示板やTV ボードなど楽しく生活できるよう考えました。

早川︓子どもたちからの評判も良かったです。その当時から、児童養護施設の子どもたちだけでなく、地域の子どもたちが通って来られるような計画を考えていました。とはいえ、予算もなく、日本財団に相談していましたが、当時の財団は里親を増やすことに力を入れていて話は進みませんでした。子供の貧困などがクローズアップされ第3 の居場所事業が2015 年頃からTV コマーシャルされて、今までやりたいと訴えていたことがようやくスタートしました。途中計画が滞っていた時期もありましたが、3 年ほど前に現江川理事長が着任し地域の子どもたちにもひらけた施設という計画に賛同し、また進み出しました。

伊藤︓早川さんからはちょうど2 年前にお声がかかりました。前理事長の作成したプランを基に江川理事長の練り直したものをいただき、そちらを道しるべに打合せが始まりました。

早川︓ショートステイの規模も大きくなり、こちらの計画の2 階部分に移すことになりました。

伊藤︓子どもたちを監視するのではなく、管理する側が危険の度合いを把握できる多様なスペースをちりばめることを考えました。打ち合わせでは、ドラえもんの広場や押し入れなども話題になりましたね。あちらこちらに作っています。

早川︓目線をどこにもっていくかなんですよね。これまでの児童養護施設は管理者側の利便性を考えていて作られてきたと思います。でもそれは子どもからしてみたら、こんなにつまらないものはない。発想をシフトするという意味で、モデルになると思います。今後いつかカフェや駄菓子屋さんを1 階に開けたら、なども考えていますが、コロナ禍でいろいろと出来なくなったこともあります。
慎重にスタートしなさいということなのかもしれません。まずは地域の人たちとの関係を我々が作っていくのが大事だと思っています。ただ、地域住民とつながることがメリットばかりではなく、ここに同じ小学校の子どもたちが出入りしていると地域で孤立した不登校の子どもが来づらいこともあるので、その辺りは丁寧な調整が必要かと思います。

伊藤︓コロナによって世の中全体が第3、第4 の居場所を必要なことに気付き、考え方がシフトするきっかけになりました。大人だけでなく、子どもの多様な居場所づくりは社会的な喫緊の課題です。

ー本日はありがとうございました。

 

早川 悟司(はやかわ さとし)

1969 年 千葉県生まれ
1996 年 日本福祉大学社会福祉Ⅰ部卒業
社会福祉法人 共生会 入職
1997 年 社会福祉法人 愛隣会 入職
2008 年 日本福祉大学大学院博士前期課程修了
2013 年 社会福祉法人 子供の家 副施設長
2014 年 同・施設長
2017 年 立教大学大学院博士後期課程満期退学
共著『子どもの未来をあきらめない ―施設で育った子どもの自立支援―』明石書店、他

 

伊藤 潤一(いとう じゅんいち)

1971 年 北海道生まれ
1996 年 工学院大学卒業
1999 年 東京藝術大学大学院修了
1999 年 Cesar Pelli & Associates Japan 入所
2002 年 伊藤潤一建築都市設計事務所 設立
2008 年 東京大学大学院博士課程 単位取得満期退学
2017 年 博士(工学)東京大学
■受賞歴
2016 年 JCD デザインアワード金賞 (東小松川デイサービス)
2017 年 JIA ゴールデンキューブ賞特別賞(子供の家)
2021 年 JIA 優秀作品選 グッドデザイン賞(TREES)
2022 年 千葉県建築文化賞 優秀賞(クレパスノイエ)