191-3加藤正三/加藤正三建築設計事務所

2016年2月12日 at 3:40 PM

もっとコミュニケーション

今月は、「YON-KAビル」の設計者、加藤正三氏にお話を伺いました。
加藤:若松均先生には大学院を卒業してから9年半もお世話になりました。何度かそろそろ独立すべきかと思う事もありましたが、長きにわたりとても貴重な経験を沢山させて頂きました。感謝しています。私が入所した時、先輩方は実務経験のある方が多く、先輩の手伝いをしながら、別荘の設計を担当していました。私自身は大学院の研究室で設計の実務経験はありましたが、まだまだでしたね。数年経つと、新卒の後輩が増えるようになりました。新卒でも担当を持つ事になっていました。ただ完全に任せるまでにはなかなかならず、私は自分の担当をやりながら後輩のサポートをする役目で、作業や現場の状況を見ながら何をしたら良いか、現場に対してどう対応したらよいか、アドバイスしていました。施工定例では、担当者として責任感をもって貰いたく、私は殆ど座っているだけにして、本当に困って定例が進まない時ぐらいしかしゃべりませんでした。そのような経験をして、自分の仕事を俯瞰してみる事が出来たのはいい経験でした。
 自分の担当物件だけでなく、後輩のサポートを任せられている物件についても若松さんの作品である以上、先生とのコミュニケーションはとても大切です。双方で押さえ処を確認したり、なにかしらの判断基準を明確にしておくように意識をしていました。報告や意匠的な部分の変更は当然ですが、どこをこだわるか、どこを現場優先で進めるかなども大事な点です。判断基準などを明確にしておけば、現場監督や職人さんとのやりとりもスムーズですし、打合せに掛ける時間も減り、時間をかけるべき事に時間を費やせるからです。
特に現場では、その場で結論を迫られる場面が多いので、それは常に心掛けていました。とにかくしっかりと「意思疎通」をして、出戻りや取り返しのつかない事がないようにする事はとても大切ですね。
建物のプランからディテールまで自分でいくつも考えたり、いろんな方と議論を重ねたりして、自分の考えが形になっていくことはとてもやりがいがありました。今は携帯電話やメールが当然のように使われてとても便利ですが、時々、疑問に思うこともあります。以前、後輩が重要な指示をメールだけで済ませ、叱った事があります。「メール送信=相手に伝わっている」と思っていたようです。大切な事はしっかりと相手と話をしないとダメですね。メールが記録として残る面もありますが、なんでも当たり前に思ったりせず、そればかりに頼ってはいけません。臨機応変に対応をしないといけませんね。
—若松事務所時代の思い出はありますか。失敗談とか。
加藤:いろいろあるので言えません。入所して2年目ぐらいにちょっと気むずかしい大工さんから直に電話があり「どうしたいのかわからない!!作って欲しいなら今すぐに現場に来い!」と言われ、急いで行った記憶があります。現場に着くと「よく来たな」とニッコリされましたが、恐怖を感じました。図面に対して少しお説教をされましたが、意匠をこうしたいと話すと、こうしたらもっと格好が良いと大工さんに教えてもらいました。あのときに現場に行った「行動」とトコトン2人で「会話」をした事、良い物を作る「同じ目的」があったからこそ、大工さんも動いてくれたのだと思っています。後に同じ大工さんと何回か仕事をしましたが、少しの確認作業をするだけで仕事をしてくれるようになりました。
そんな経験もあり、現場の人に対しても意匠はこうしたい、それにはこう作って欲しいと話します。そこから、現場の方ともどうしたらよいかいろいろなアイディアを出し合うようにしています。一人で出来る事って限られていますからね。設計の仕事の面白さは、お施主様や現場の方とコミュニケーションをとりながら、数字ではなく、何年も何十年も使われ続けて形として残るものをつくることなのです。
—こちらの中目黒の事務所は、都心なのにゆとりあるお庭があっていい雰囲気ですね。ちょっとアメリカの住宅のような感じです。
加藤:ありがとうございます。両親と祖父に感謝です。もともとは父親の実家がありました。30年程前に父親の海外赴任を終えて帰国した時に、二世帯住居と借家に建替えました。我々3人の息子が独立し、祖母が亡くなり、4年ぐらい前には両親だけになったので、祖母が住んでいた部分に私が住むことになり、辰さんにリフォームをして頂きました。今は自宅兼事務所として快適に使わせて頂いています。少し前までは兄貴が隣の借家に住んでいました。
—いろいろフレキシブルに使われているのですね。家族の仲がよいですね。
加藤:よく言われます。週末になると母親からメールが来て、家族全員が集まって実家で食事をする事が多いです。今は小さな甥や姪も来るので、みんなで集まるとハチャメチャといった感じです。
「なんでそんなに仲がいいの?秘訣は?」と言われます。両親とも「みんなで集まる事が大切」という感覚があるからだと思います。その現れなのか、リビングにテレビがありません。母親がリビングにテレビを置くのを嫌っているそうです。食事のときやみんなが集まっているときは、たわいもないことでも会話でのコミュニケーションが大切なのです。テレビを見ながら会話をするってなんだか悲しいですよね。今は、私と両親で住んでいますが、そろそろ集合住宅に建て替えてはどうかとか話も出ています。今の家に愛着はあるのですが・・・。建て替えたとしても、家族全員で集まれる場所は残したいですね。
―本日は、ありがとうございました。
加藤正三
1978年 ニューヨーク生まれ
2004年 東海大学大学院工学研究科 建築学専攻 修士課程 修了
2004年 若松均建築設計事務所 勤務
2013年 加藤正三建築設計事務所 設立

主な作品
美容外科クリニック、Yonkaビル、宮坂の家、TS社本社移転PJ,K信用金庫PJ (以上加藤正三建築設計事務所)
Gridie、南麻布の家、明大前/線路際の長屋  (以上若松均建築設計事務所で担当)