252-1 コロナと現場

2021年3月11日 at 12:07 AM

 

 

「猿楽町ハウス」 撮影:阿野太一

おしゃれなブティックやレストランが点在し、裏通りに入ると高級住宅街が広がる、住みたい街ランキングで常に上位の「代官山」。「猿楽町」は、もともとこの地域にあった大小2基の円墳のうち、大きい円墳「猿楽塚」からその名が由来します。塚は現在「代官山ヒルサイドテラス」の敷地内に残っています。

その「猿楽町」で、2019年冬からテナントビルの施工を承ることになりました。設計は、北山恒氏の architecture WORKSHOP(以下 AWS)です。年が明け、2020年、ちょうど中間検査が終わり、現場が2階スラブの躯体コンクリート打設が終わって間もなくのことでした。新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年の4月7日に1回目の緊急事態宣言が発令されました。設計のAWSの工藤徹氏に当時を振り返っていただきました。

「都からの要請があったようで、翌日には事業活動の自粛が始まり、この現場でも当面の間は定例会議と土曜日の現場作業を中止するといった知らせを受けました。現場の皆さんとはすぐに定例会議をどうしようかという話になったのですが、まだサッシも入っていない躯体だけの現場は外のようなものだから、『そこで注意して定例会議をしてはどうか』ということになりました。
こうしてコロナ禍で自粛の雰囲気が高まっていく中、現場で定例会議を始めたわけですが、緊急事態宣言下でもすぐに話がまとまったのは、定例会議でわざわざ集まって納まりを一緒に協議するという手順を踏んでおかないとうまく建築がつくれないのではないか、という感覚を共有していたからではないかと思います。結局は竣工間際まで現場で定例会議を続けました」とのことです。

どこの職場でもオンライン会議が推奨されるようになったコロナ禍での働き方ですが、
「建築をつくる行為は、やはり直接現場をみて、広げた図面に納まりを描いて議論をしないと多くのことに気が付けないように思います。頭で理解することと、身体でわかることは別のことで、現場で逡巡しながら全員が同じ空間で身体に納まりを定着させるような行為を行うかどうかで、人の手がつくる建築の仕上がりは変わってくるように思います」と工藤氏。

「今後、先進技術の優勢性や時間と空間を効率的に管理運営する思想は、社会的により強化され加速していくと思うのですが、現場の思想とでも言ったらよいのか、身体を現場や定例の空間に持っていくという原始的で一見過剰とも思える行為は、共同してものづくりを行う上で省いてはいけないことではないかと改めて感じました」
現場の一体感もあって、土曜日の作業中止日数分をそのまま延期した以外は、予定通りの工期で残工事なく竣工を迎えました。

「建て主の誠意と寛容さに支えられて、最後まで丁寧な仕事を続けることができた現場です」と工藤氏は、何時にも増して現場への強い思いを感じられたようでした。