159-1 絵

2013年6月18日 at 3:47 AM

撮影:中村 絵

写真は今月ご紹介する「TN-house」の1階リビングです。中庭に向って大きく斜めに窓が開かれ、コンクリート打ち放しの仕上げの室内に、建て主のN様の描かれた絵やアートが配置されています。生活感を極力出さない、アトリエのような空間は、無駄なものがほとんどありません。椅子やテーブルなどインテリアの一つ一つが、N様の洗練された感覚に応えているものばかりと感じられます(※写真のカウンターの椅子は、現在注文品が届くのを待っているもの)

例えば、リビングの開口部を演出するカーテンは、普通の住宅ではきっと負けてしまうような大胆な柄。しかしそれらは、実に良く空間とマッチしています。ベッドルームのチェストや、水周りの床のタイルの色づかい、ファブリックなど、細かいところにもN様の個性的な感覚が見られます。
白と黒の水墨画のようなタッチで樹木や自然の景色を力強く描かれたN様の作品を見て、設計の安藤毅氏は、ミニマムで強さがある空間、しかも作品の良さを損なわないような空間を用意することが必要だと感じました。そうすることで、作品とともに新たな建築の方向性が生み出されると思ったそうです。

絵は、人柄を物語ります。
安藤氏の「打ち合わせはとてもスムーズに進みました」という言葉に、建て主N様への理解と尊敬の念を感じました。
建築の勉強をされた方は、たいていは絵が上手なのでしょうが、「絵心がなくて・・」と謙遜しつつ、本当に描けなくなってしまった普通の大人達はいったいどうしたものでしょう。子供の頃は、誰もが自由に絵を描いて、親に褒められ、饒舌に自分を語っていただろうに、小学校に入り、図工の時間で他人と比較されたり、中学校に入って、主要科目と関係ないと点数を意識しだしたりすると、もういけません。途端に楽しくなくなり、絵を描く行為は苦痛になってしまいます。

しかし、絵で話が出来るようにすることは、決して無駄ではありません。自分の頭の中を伝えるルールと思って、簡単な絵から描いていくことで、表現力は高まり、何か問題を整理するときにも、図解すれば、解決の糸口はさらにわかりやすく伝えられます。
絵心が育ってくると、何かをデザインする表現力もさらに増すでしょうし、そのデザインは、単に紙の上だけでなく、自分の生活全般について反映されることでしょう。自分なりの絵が描けるようになったら、悩みも減って、他人からも尊重されるような気がします。

テレビのクイズ番組で、よく回答者が絵を描かなくてはならないときがあったりしますが、情けないくらいの描写力で、犬か猫かわからないような動物の絵を描いたりしている人を見ると、同情してしまいます。
逆に、単なるお笑い芸人だと思っていた人が、感動的なアニメーションを描いて、海外でも有名になり、朝のNHKドラマにもその絵が登場するようになると、絵が描けることで広がった人生の可能性を感じずにはいられません。

先日、久しぶりに高校の同級生と会う機会があり、話をしているうちに質問をした私に、彼女はさらさらと絵を描いて説明をしてくれました。「ああ、そういえばこの人は漫画が得意だった。成績が優秀なだけでなかった」と、彼女の才能をまた一つ発見したのでした。