169-1 都心のビルディングの防災

2014年4月16日 at 4:00 PM

PLAZA EST 新宿3丁目 撮影:齊部功

写真のビルは、昨年末建ち上がった「PLAZA EST 新宿3丁目」です。建て主は、この地で昭和36年よりご商売を続けられてきた会社の2代目女性社長のN様。父上は、始めは焼き鳥屋さんから、次第にディスコや喫茶店などにもご商売を広げられ、一時は歌舞伎町まで進出されたとのこと。現在は不動産事業を手がけられています。この建物は、「震災に備えた備蓄倉庫のあるビル」と伺い、N社長にお会いしてお話を聞かせていただくことにしました。

「私は、新宿で生まれ育って50年です。新宿というと、まず歌舞伎町が取り上げられることが多いのですが、3丁目界隈は昔から安全で良心的なお店が多い場所。2代目が増えて、顔見知りががんばっています。そんな中で地下鉄副都心線も完成して、活気が戻ってきましたね」とN様。
でも「女性企業家」と肩に力を入れることなく、普通の感覚でできることをいろいろとやっていきたいそうです。
「私は、娘2人の母親であり、主婦でもあります。3年前の『東日本大震災』を経て、人々の意識は確実に変わったと思います。
その日は次女の大学の卒業パーティが予定されており、私は娘2人と新宿南口のルミネにいました。大きな揺れの後、店員さんたちはヘルメットをかぶり、お客さんに避難指示を出して的確に誘導していました。その後、娘のスマホのツィッターでやっとパーティ中止の連絡がきました」
「しかし外に出てみたら、駅のシャッターは下ろされていて、駅に入れなくなった多勢の人々が道路に溢れ出してきました。暗くなってくるし、新宿高校では、帰宅できない人たちの受け入れを開始したという情報も入ってきました。
そこで、私自身の問題として『この先災害に遭遇したときに、私たちに何ができるのだろう』と考えたのです。うちの会社も皆さんに助けられて、この街とともに発展してきました。だから少しでもお役に立てることをしなくては、と思ったのです」
N様は、ちょうど創業50周年を迎える自社ビルの建て替えを計画、そこに「備蓄倉庫」を設けることを決意されました。
「防災グッズを扱う卸問屋を紹介してもらい、飲料水やアルファ米、アルミブランケット、エアーベッドのほか、簡易トイレ、エレベーターに閉じ込められた時の緊急キット、怪我をした人を運ぶ簡易タンカなどを用意しました。救急セットは50人分、ほかは100人分です。ビルに入居するテナントの皆さんと防災訓練も行いたいと考えています」
建物は耐震に配慮した設計となり、エレベーターの脇にはAEDを設置することになりました。エントランスも外に向けて開かれたデザインとなっています。
「この4月、1階に自社のカフェをオープンさせます。名前は『092カフェ』。父の名前をどこかに残そうとずっと昔から決めていました」というN様。まだまだプランがありそうです。

2020年、東京オリンピックを迎える都では、緊急輸送道路の沿道建築物の耐震化推進条例を施行しました。実際に、この2年間で耐震化の計画が急速に進められています。都心の民間建築物では、再投資が事業継承に対してどういう影響を与えるか、所有者にとっては悩むところです。都では耐震化アドバイザー制度を拡充し、無料で相談にのっています。建物の所有者の責任が重くなるということもありますので、所有者は建物の安全を十分認識しなくてはならないのです。
さらにせっかく性能のいい建物を建てたのなら、それが公開されて、その情報を共有できるようなシステムをつくることで、ものづくりに対しての現場の意欲が高まっていくことだろうと感じました。