173-1 壁

2014年8月7日 at 5:00 PM

①全景

写真は、杉並区の住宅街に完成したデザイナーズマンション。ワンルームの室内空間を、数種類の可動パーテーションで自在に作ることができる、新しいスタイルの集合住宅です。
ここ数年、賃貸入居者の自由な暮らし方にこたえるマンションとして、室内のフレキシビリティを充実させたマンションが増えてきました。移動家具を置いたり、引き戸で好きな時に閉じたり開けたりして、部屋の広さをコントロールする方法がありますが、今回、設計の長田直之氏は、可動パーテーションで壁そのものを移動させて、部屋の大きさを作りこんでいく楽しさを提案しました。
壁には、開口部が設けられていたり、半透明のポリカーボネートを2枚重ねにして採光をコントロールしたり、とこれまでにはない実験的な試みが見られます。
都心の単身者向けの集合住宅では、どうしても広さは制限を受けますが、そんな中でも壁面が少ない、というのは、ある意味悩みではなかったでしょうか。開口部を大きく取って、外の環境を大きく取り込めば、内部を見せることになってしまう。プライバシーの確保を家具やカーテンで行うこともできますが、壁となるとボリュームや素材に何か一工夫が必要でした。
オフィス空間では、すでに文房具や机・椅子などの什器と同じように、パーテーションがシステム化されて、会議室や執務室の可動間仕切りとして活躍しています。しかし、一定の広さの空間だからこそできる仕組みであり、人が暮らす小さな部屋では、コストの面でそのシステムを持ち込むのは難しいでしょう。
長田氏は、そのパーテーションを毎日変えるほど簡易なものではなく、ある程度しっかりした形の衝立として設置、「1年あるいは季節ごとにアレンジメントするくらいがちょうどいい」といいます。
入居者の皆様はどんな暮らし方をされているだろう、と興味津々で伺ったところ、「外国人と日本人と決定的に違うのが、ベッドの位置なんです。
日本人は、窓から見えないように奥の方に置かれているのですが、外国人は見られても全然かまわない、という感じで、皆一番窓寄りに置いているんですよ」と長田さん。いずれの部屋も、縁側のようにテラスが張り出していて、開放感が感じられるのかもしれません。
建物は、外の人にもオープンな関係を意識して、塀ではなくスチールネットの引き戸で、中の敷地がよく見えるようになっています。行き止まり道路に面していますが、その圧迫感が少しもありません。心の壁は、少なくとも取り払われてほしいという願いが込められているようです。

住宅の内部は、このように自由で可変性のあるものが便利ですが、建物の外壁は、同じ壁でも堅牢な揺るぎのないものが求められます。雨風に耐え、夏の暑さ、冬の寒さにびくともしない、しっかりとした壁が、人々の生活を守ります。
外壁は、木造、鉄骨造、RC造など、建物の構法によって、大きく変わりますが、建物の性格を決定づけます。揺るぎのない壁には、しかるべき理由や意味が込められていて、おいそれと変えることはできません。植栽で飾る、色を変えてみる、という程度のことはできますが、基本的にはその建物の寿命が終わるまで、変更はありません。だからこそ、最初にどんな構法を選び、開口部や装飾品をどのようにすればいいのか、しっかり納得したいものです。メンテナンスは必要ですが、パネルやレンガなどの装飾品と、住宅の基本性能の区別をきちんと意識して、建物を作っていくことも大切だと思います。