177-1 使い継がれる建物の魅力

2014年12月28日 at 2:12 AM

 

「東大井3丁目住宅」   撮影 :小川重雄

写真は、このたび東大井に竣工した集合住宅です。建て主は、銀座のレトロビルとして有名な「奥野ビル」の3代目のオーナーです。

「奥野ビル」は、関東大震災の際に、復興住宅として耐震性のある建物の建設を目的に作られたもので、同潤会アパートの設計者、川元良一氏の設計によるものです。防火性能の高いタイル(スクラッチタイル)を使用し、各住戸に電話を引くなど、当時としては画期的なアパートメントでした。
初代オーナーは災害後、復興住宅の供給としての社会貢献を果たされました。災害に強い建物をというその思いは、80年建った今も、現在のオーナーに受け継がれています。メンテナンスを重ねながら、最初の建物のデザインの良さを失っていません。最初は住宅だったビルは、後に事務所や画廊、店舗としての入居希望者が増えました。
そして「銀座」という土地の魅力が、さらに建物の存在価値を高めています。「東大井3丁目集合住宅」の設計事務所、エトルデザインさんもこのビルの入居者。東京だけでなく、静岡や軽井沢でも別荘などの設計を行う機会の多いエトルデザインさんですが、銀座にある事務所だとお客様が打ち合わせに快く見えてくれるといいます。打ち合わせ後、ご夫婦で銀座の街にお買い物やお食事に出かけられる方も多く、ビルのデザインと相まって、このロケーションの良さを実感されています。なんといっても日本で一番の商業地。最近は海外からの観光客も増えています。

「日本って、四季があるでしょう。暑い日も寒い日もあり、20年に1度はどこかで災害に見舞われる。でもこういう苦労が、文化を作る。勤勉にならざるを得ない。困難があるから、工夫をしてきた歴史がある。それは変化の歴史でもあります。江戸時代に銀貨鋳造所を置いたのが銀座の始まりですが、徳川家康は武将から政治家というリーダーに変化し、江戸の都市計画を行った先駆者でした。銀座も銀貨鋳造から派生して、いろんな職人が移住し、呉服店から百貨店、金融街からファッションブランドへと変化し続けています。この『奥野ビル』もいろんな入居者がいらっしゃいますが、その時代の変化を受け止められる建物の魅力が人を引き付けているんだと思いますね」とエトルデザインの代表、髙山さんは言います。

先祖から引き継いだ土地、建物を有効活用したいという人は少なくないはず。それが都心ではうまく処理できずに、単に不動産として売却するという道を選ぶしかない、と思われる方は少なくないようです。でも、それを魅力的な場にするかどうかは、工夫次第。そこには、その場所のポテンシャルをよく理解する事業者がいたり、設計者がいたりして、オーナーの本当の気持ちを引き出してくれる手助けをしてくれるはずです。それは、初期投資を多くすると言うことではなく、長い時間の経過の中で、培われていくもので、人を育て、文化を育て、魅力的な建物になったり、場所になることで、新たな価値を作り出します。そこには、変化の担い手として、施工者も参加できることを、私たちは実感しています。