189-1 線路

2015年12月18日 at 3:13 PM
写真は、このたび恵比寿に建ち上がったオフィスビルです。建物は、少し高く盛り土されたJR山手線の線路に面し、ガラスファサードの佇まいが周囲に軽やかな印象を与えています。建物がぎっしりと建ち並んだ都会では、向かい合うビルディングで互いの顔さえ見えるような関係が少なくありません。しかし線路敷の部分では上方の空間が開放され、自然の景色を見ることができます。それも、この場所のように線路敷にある程度の幅が確保されていればということです。もし、幅が確保されておらず、目と鼻の先を毎日朝から夜まで電車が通り過ぎるようであれば、騒音、プライバシーの面などが厳しくなります。
設計者の上西明氏は、この線路空間は都市の中では川のような存在、「第2の自然」と位置付けました。盛土の上の線路、それに続く前面道路は、建物を建てる上で決してマイナスになりませんでした。
 もともと線路そのものは、煙を出す「蒸気機関車」というそのスタートから、居住環境に対してはネガティブな存在でした。エネルギーが石炭から電気に変わって、騒音を出さない電車への改良も進んでいますが、一端敷かれたものをおいそれと移動するわけにはいきません。狭い場所を走り抜ける線路を、新しく変化した環境に合わせて作り直すのは、本当に何年もかかります。芸術的な仕事になるといってもいいですね。渋谷では今、そのような工事が進行しています。最初に線路そのものだけでなく、少し広めに敷地を取って、プラスアルファの変更を加えることで、線路はもっと魅力的な環境になるかもしれません。
 自然の川はどうなのでしょう。都会では交通主要路であった昔から、土手に桜並木やきれいな歩道をつけることで、心地よい環境になっていた場所がたくさんあります。また、飯坂温泉は摺上川沿いに隙間なくぎっしりと並んだ旅館・ホテルの景色が名物です。建物の中の部屋も見えるといえば見えるのですが、川幅があるのでそんなに気になることはありません。障子を閉めればいいのです。建物への出入り口は川と反対側になり、そちらには温泉街の小道が連なり、人々は散歩や買い物を楽しみます。
では、現代の広い幹線道路はどうでしょう。排気ガスに見舞われるので、基本的には歩き回るところではありません。ひとたび大きな幹線道路になってしまえば、駐車場は必要不可欠。総合施設ができたら、大渋滞を引き起こすことも少なくありません。ファストフードの店やレストラン、おなじみの景色だけが広がります。それから、沿道の高い建物は、幹線道路の内側の地域への騒音、排ガス、火災を防ぐバリアとなって機能するとも言われています。でもそのバリアとなっている建物自体も、本当はどうなのでしょう。道路との間にあることで損をしているとしたら残念です。
大動脈から、毛細血管にいたるまで良い場所にする事ができないでしょうか。血液はきれいなもの、つまり車もCO2や有害物質を出さないものにして、ヒトの移動手段も自転車から自動車、バス、電車などの公共機関までいろいろなレベルのものを効率的に利用する仕組みを整えることが大事ですね。道路も緑地帯を作り、それぞれのネットワークをうまくつなげる―「モビリティマネジメント」というそうですが、線路と建物のことを考えていたら、道路に行きついてしまいました。