250-4 「千駄ヶ谷駅前公衆便所新築工事について」 報告:㈱辰会長 森村和男

2021年1月9日 at 10:35 PM

今月号でご紹介した「千駄ヶ谷駅前公衆便所新築工事」で久しぶりに現場監督の一人として工事に臨んだ前社長森村和男会長から工事の感想を報告させていただきます。

2020年、予定されていた東京オリンピック・パラリンピックに向けた渋谷区発注の工事入札が2月7日に行われた。入札に先駆けた概算では、7月完成という工程に対し、こちらの予定は1カ月以上余分にかかる計算である。金額的にも厳しかった。更に6月からは競技場周辺の道路規制が予定されている。その時点で社内に適当な現場監督がいないという事もあり、受注に反対の意見も少なからずあった。
しかし私は、久しぶりにコンクリート造の大胆なデザインの建物の施工を前に、密かに可能な工程表、予算の想定をしており、否定的発言が出尽くした後、「うちの理念は『情熱・挑戦・進化』、誰もやらない仕事に挑戦しなければ存在価値はない」と若手を付ける条件で、自分が現場をやると宣言した。翌日入札が行われ、懸念事項が多いことで他2社は辞退し、当社が落札した。現場代理人はグループ長鯨津、係員は私と鍋島という3人体制。肩書の入っていない名刺を注文して本社を後に現場に赴いた。

工事開始後、いくつかの難関に遭遇する。
・更地が条件であったにも係らず、隣接する駐輪施設の廃止が未終了で契約から約1か月近く工程に大きな影響となる。
・敷地は大江戸線の国立競技場駅出入口から10cmという立地。第三者の安全を優先した仮囲い、遣り方が求められた。
・コロナ渦で監理者との打ち合わせはリモートが常態化。意思疎通が不足し衝突する場面も多々起きる。お互い「より良いものを作る」という「情熱」の塊から真剣勝負だった。
一方、新型コロナウイルスの感染は世界に拡大。3月30日には正式に東京オリンピック・パラリンピックが2021年夏に延期されることが決まった。役所から「延期なので工期が延びてもいいですよ」の暗示。それまで、何が何でも「やる」と言っていた現場の空気が一変した。躯体工事までの順調さとは打って変わり、益々仕様が決まらない。流れを食い止めるべく打ち合わせは更にヒートアップした。

・7月上旬、急に役所の責任者から、「オープンセレモニーを7月24日に行うことになりましたのでまとめて下さい」と連絡が。あと1か月は必要な工事を9日でやらねばならない。押し問答の末何とか目処がついた頃、今度は「コロナを考慮して1カ月延期してください」との通知。正直力が抜けていったが、現場に公表すれば必ず志気が下がると考え、予定は曲げなかった。

・いよいよ8月22日、竣工式典を迎える。名簿を前日に確認して愕然とする。当社社長のみ「㈱辰代表」との記載だけで名前もない。テープカットも挨拶も予定になく且つ末席であった。これには怒りをこえて失望した。施工会社は「棟梁」であり、本来は主役である。すぐに抗議するも大きな変更はなかった。挫折の中、契約上は「対等な立場で」となっていても、発注者は絶対で、設計者が上位であり、施工者は蔑まされている現実を知る。このような状況が続く限り建設業界の発展は先細り、魅力の無い産業となってしまう。建設業協会を巻き込んだ活動が必要であると痛感した。
今回、現場復帰の目的でもあった、本社の課題、現場の課題、ZENとしての課題など20点以上の改善点を発掘したが、最後に遭遇した「業界としての課題」が最大級であった。