258-2 空のある音楽ホール

演奏者・オーディエンスファーストの空間

音楽ホール内の天井と壁は、フラットな面のみで構成された場合特定の音が大きく反響してしまうため、RC の一部を石ノミで細かく叩いて仕上げる「小叩き」とし、表面に凹凸をつけた。これによって共鳴音の集中が抑えられ、かつ音が適度に散ることで楽器の響きがまろやかになり、空間全体の音響性能を向上させている。音響面ではコンサルタントとして永田音響さんに入っていただいたが、このような材料・仕上げ面でのノウハウの他、演奏者に自身の音を聴き取り易くするための反響板の設置など、多くの面でアイディアの提供を頂いた。

今回採用した断熱材は旭化成の「ネオマフォーム」。高い断熱性と環境性能、耐燃焼性能を兼ね備え、その上厚みが従来品より薄い。「空のある音楽ホール」のようなRC 造では、RC 自体の蓄熱量が非常に大きいので、その外に高機能の断熱材を使用することによって「石焼き芋の石をジャンパーで包むような」高い外断熱効果が確保されている。外壁にも様々な配慮があり、躯体・ネオマフォーム・防水層・仕上げの木製サイディングを順に貼り、何重にも各層を重ねることで断熱性・遮音性を高めることが出来た。建物前面はルーバー状のバトンを貼ることでビスが見えないよう工夫されており、意匠面でのこだわりも反映されている。

建物全体の温熱環境については、輻射式冷暖房のPS を採用して対応をおこなった。楽器は、温度・湿度で音色が全く変わってくるため空気調和設備の性能は非常に重要な要素だが、ホールの収容観客数が50 人を超えることもあり、容量的にもかなりの能力が求められることになる。これらの要求を満たし、かつ演奏中に動作音のない空調設備として輻射式冷暖房は最適であり、前述したRC・外断熱の組み合わせとも相乗効果が期待できる。

快適な環境のためには換気設備も同様に重要だが、こちらは動作音自体を無くすことができず、給気管・排気管を通じて屋外とも接続するため、騒音や音漏れの原因となりかねない。ここでは排気設備そのものを屋外に設置して騒音源を室内から遠ざけると共に、永田音響さんのアドバイスに従い、風切り音が発生しないようなダクト製作上の工夫を随所におこなっている。

以上のように性能面でも多くの配慮が積み上げられた建物だが、これらひとつひとつのこだわりは、全て演奏者とそれを聴くオーディエンスが心から楽しめる空間を作ることを目的としている。音楽という共通の経験を参加者全員が分かち合うことができた時、初めて全ての設計意図が意味を持ち、建物として本当の完成を見るだろうと考えている。

(山本卓郎氏 談)

構造︓RC 造+S 造(混構造)
規模︓地上3階
用途︓事務所兼用住宅
設計・監理︓山本卓郎/山本卓郎建築設計事務所
施工担当︓能田・伊藤
竣工︓2020 年11 月
撮影︓鈴木研一・山内紀人

2021年9月13日 at 10:09 AM