48-2 田園調布の家 B邸

用途: 竣工年月: 場所: 設計:

撮影:斎部功

 美白化粧品の研究で有名だった女性社長。彼女の急逝後、田園 調布の邸宅建設予定地跡の一部に、今回ご紹介するB邸が、弊社 施工で竣工しました。  B様は、不動産を中心としたグループ企業のオーナーです。土地 開発から不動産・住宅販売まで総合的に手がけ、北海道のホテル など、一旦スタートさせた事業は部下に任せるという方針で、不況知 らず。次々と事業展開を続けています。現在新たに「食」の分野にも 進出中です。
今回の自宅の建築にあたっては、3社によるコンペを行ない、「宇 野亨/シーラカンス・アソシエイツ」の設計となりました。天井が高く、 ダイナミックな階段のデザインが気に入られたそうです。傾斜地のた め地下を有効活用するプランになっています。ドライエリアにより採 光の行き届いた3人のお子様の部屋、広い廊下が地下を感じさせま せん。1階のリビングは広い吹き抜けを持ち、全面ガラス窓と連続し た南側のウッドデッキが、開放的な空間をつくっています。リビングの 奥はダイニングで、大勢の来客にも対応できる広さです。道路に面し たエントランス部分は、シャッターや塀がスチールルーバーで、外か ら建物内部の雰囲気が窺えます。田園調布にはこのように、道路に 向けて開かれた建物が少なくありません。これには理由があります。
大正時代に渋沢栄一が開発した田園調布は、その後、渋沢の提 唱した「公園的な街づくり」を維持するために「田園調布憲章」や「環 境保全についての申し合わせ」という街づくりの規則が定められまし た。「緑豊なゆとりと潤いのある住宅地として建築物の用途混在及び 敷地の細分化を規制し、良好な住環境の保全・維持を図る」ために 建物の高さや色彩、擁壁、垣根、隣家への配慮などについての規則 が設けられています。施主は建築届出書を町会に提出し、町会の地 区担当者が、その後取り決めが守られているかを調べます。
例えば、原則として垣根は街の伝統的特長である生垣あるいは 植木で、どうしても石、レンガ、コンクリート等の不透明材料を使用する場合は地上1.2mとされ ています。金網塀など透け て見える場合は地上2メー トルとされています。
(社)田園調布会の役員の 方にお話を伺ったところ、 最近は取り決めを守っても らえないことも多いというこ とです。バブル崩壊で古く からいた住人が相続税を払えずにこの街を出てしまい、その後、手 放された敷地が細分化された住宅用地にならざるを得なかった、と いう理由もあるようです。 特に「東京都風致地区条例」で定められた緑化の規則は、接道 距離ごとに1平方メートルの緑化を施すというもので、さまざまな擁壁 の形態も鑑みて算入方法も現状に即した対応がされていますが、な かなか満たされない事もあるそうです。 しかし、最近では物騒な話も多く、「生垣ではセキュリティ面に不 安がありませんか」という質問をしたところ、「いや、却ってオープンな 方が安全なのです。」というご返答でした。「人の目があると泥棒が入 らないんですよ。」 「隣近所のコミュニケーションが多いほうが、災害時に犠牲を出さ ない」という事例もあります。ただ田園調布では、バブル期以前から、 既に、高い壁で囲まれたガードの固い邸宅がいくつも建っており、 「田園調布の邸宅」というと、そのようなイメージがないともいえませ ん。有名人の住人も多く、セキュリティをどのように考えるかは人に よってさまざまです。

きちんとした街づくりのコンセプトを継承していくことが、街の価値 を高めることになります。また田園調布のルールが、ほかの街に当て はまるというわけではありません。街づくりの基本的な考えをゆるぎ ない形でつなげていく―それには忍耐強い姿勢が求められます。 「建物の中は自分のもの、外は街のもの」という気持ちこそが美しい 街並みを作り出すのではないかと思います。

2012年12月30日 at 5:02 PM