30-2 赤坂のマンション改修

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SC30号 トーク 「快適に暮らす」から

世田谷の一軒家にお住まいだったY様ご夫妻は、末のお嬢様の結婚を機に、都心のマンションに引っ越すことにしました。
「これまでの家は部屋数も多く、庭も広かったため、住むのが大変でした」という奥様。実はアレルギーがあり、毎年春になると、せき、くしゃみなどに悩まされていたそうです。今回の工事にあたり、
健康に配慮したリフォームを要望され、辰の担当者も積極的に優秀な左官業者と珪藻土のメーカーを紹介するなどの提案を行いました。本体の改修工事は順調だったのですが、隣接住戸への配慮で解体工事に予想以上の時間がかかり、そのため、方位学に興味のある奥様は、本引越しの数日前に仮入居することになったのです。

そのときは前日に壁・天井の塗料を塗ったばかり。自然の材料で、害はないとはいえ、塗りたては何かしらにおいがするものです。ご自身のアレルギーも心配で、かかりつけのお医者様にも薬をもらい、不安はあったものの転居に臨みました。ところが入居の翌朝起きてみると、心配されたせきやくしゃみはなく、予想以上に目覚めがよかったとのこと。担当者の言ったとおり空気がさわやかだったので珪藻土の効果に驚いたそうです。

以来1ヶ月が経過していますが、「ほんとに気分よく過ごせています」と話してくださいました。奥様のアレルギーは完治したわけではないそうですが、自宅にいるときは快適だそうです。
奥様は、一般のマンションに見られる仕切りをはずし、広いスペースを確保して、インテリアも大人っぽいシックなものにしたかったそう。白が基調のすっきりとした室内に、とても満足しています。
居間には、陶器やガラス器を飾り、季節の室礼を自由に楽しむためのギャラリーコーナーを設けました。黒の天板が凛とした印象を与えています。

設計の樋口氏(ネオタイド建築計画)にも話を伺いました。
「扉は原則として普段は開けておくものとして、引込戸を多用しています。また昼間の生活空間である居間、食堂、厨房周りでの回遊性を重視しています。」と開放性の確保を第一にあげられます。部
屋はすべてが連続したワンルームのようになっており、引込戸も目立たない形で収納されています。必要に応じて扉の横手にある回転引き手を引き出して扉を閉めます。なお、方位の関係で、火、水
場、仏壇、神棚などの配置には注意を払っていますが、スペースに余裕があったために、特に苦労はなかったそうです。

このマンションは、開口部が南側の一方向に限られています。採光、換気に配慮するために、居間と廊下の間の欄間をガラスにしたり、玄関から居間への入口や、書斎と寝室の間にガラススクリーンを設けたりしています。両隣の戸境壁にダクトを集中させて、天井高(2m60cm)を確保し、自然系の水性ペンキを採用しました。また換気については、納戸、食品庫からの排気をタイマーでコントロールし、
居間、寝室は空調換気扇を設置しています。
もちろん建材は奥様が感じられたように、健康に配慮した自然系素材を選択しています。床は純毛カーペット、キッチンやバス、トイレはリノリウムを貼りました。壁は珪藻土を塗り、珪藻土では建具まわ
りの処理が難しい、寝室とリビングの仕切り壁とトイレの壁の一部をアンティコスタッコ塗りにしました。深みのある仕上がりがとても落ち着いた雰囲気を演出します。居間ではプラズマテレビ、オーディ
オ、飾り棚などが埋め込まれ、部屋を広く見せています。その横には、扉の中に仏壇が納められています。南のバルコニーへ出るサッシはもともと防音性能がいい片引きで、網戸はたたみ込めるタイプ
のものを入れました。バルコニーは2年後マンション全体の改修が予定されているので、置床式のウッドパネルを敷きこみました。

<改修設計:樋口誠(ネオタイド建築計画)>
「快適に暮らす」ということは、住まう人の気持ちにそった建物が建ったときに初めて実現するものです。これまで便利で経済的とされてきた、化学製品の負の部分が明らかになるにつれ、それらを使用しないようにしたり、建物のデザインや構造を暮らし方に見合ったものにしたりして、科学的な根拠に基づいた家作りをしていくことはもちろん大切です。

それに加えて、現代人がおろそかにしてきた伝統や神話の世界に代表される、人の内的世界の充足も、個人が選択して自分のものとしていくことが尊重され始めていると感じます。
その際、すべての方法を一から自分で考える人もいるでしょう。しかし、昔から言い伝えられてきた方法も、私たちに安寧の道を与えてくれます。建築の世界では、地鎮祭、上棟式、引渡しなど、すべて日を選ぶ慣習が今でも厳然と生きています。根拠はどこにあるのでしょうか。普段は意識しなくても、私たちは、それによって守られている存在を今一度、自分のものにすることができるのです。

2002年9月12日 at 10:27 PM