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210-1 AI(人工知能)

「MIMOSA PUDICA 」撮影:平井広行

「MIMOSA PUDICA 」撮影:平井広行

 

最近のニュースといえば、ゲリラ豪雨や迷走台風など相変わらず異常気象の話題にこと欠きません。九州北部の豪雨や、アメリカを襲ったハリケーンの被害を見ていると、まるで津波が来たような光景がテレビに映し出され、とても他人事には思えません。こうした災害に対し、天気予報や警報などの予知システムも発達し、雲の動きや雨量の予測もその精度を高めています。そして、その異常さを伝えるための「50年に1度の雨」とか「100年に1度の水位」という言葉が頻繁に使われるのですが、一見わかりやすいようで、実は何のことやらよくわからない表現ではないでしょうか。実は、こうした表現にならざるを得ないのには、それがAI(人工知能)による情報だということに関係しているようです。

ご存知の通り、AIとはコンピュータが膨大なデータから様々な現象の因果関係を分析し、将来予測に役立てる技術のことです。天気予報はその代表的な応用分野で、膨大な過去の天気図データを入力し、気象の変化を予測します。人間をはるかに上回る巨大なスーパーコンピュータの記憶量と分析速度を駆使すれば、従来の予報官の経験と勘よりも精度も確度も高い予測が可能となります。最近では、この技術を応用して、NTTドコモと東京無線などが共同でタクシーが顧客を見つける確度を高める実証実験を開始しました。アメリカではすでに犯罪予測にAIが活用され、日本でも京都府警が昨年から導入しました。

このように、AIというと何か機械が自分の意志で勝手に動き出すようなイメージをしがちですが、現状では、これまで人間の「経験と勘」に頼っていた分野での「AIへの置き換え」が急速に進んでいます。確かに従来の天気予報は、ベテラン予報官の経験や勘に頼っていたわけですし、タクシーの客探しや、警察の巡回パトロールや職務質問なども、まさに職人芸のような分野です。「AIが人の仕事を奪う」と言われているのも、まさにそのためだと思います。

こうして、これまで人間では予測できなかったことをAIが予想してくれるようになったのは良いことなのですが、そこには大きな問題があります。それは、AIの予想はあくまで膨大なデータからの統計的な予測であり、計算の結果です。先ほどの「50年に1度の雨」とは、言葉の通り「50年に1度の頻度で発生する」という意味であり、予報官がメカニズムや原因を詳細に説明してくれるので、私たちも理由がわかったような気になりますが、AIは膨大なデータを元に予測しているだけで、理由や原因を説明してくれているわけではないのです。

今年の5月、人間とAIが将棋で戦う「電王戦」で、AI将棋ソフト「PONANZA」と佐藤天彦名人が対戦し、AIが勝利をおさめ「ついに人間はAIに負けた」と、大騒ぎになりました。淡々と次の手を指す2本の長い手の機械の前で、腕組みしたり天を仰いだりと名人のあがく姿が象徴的でしたが、その傍らでロボットは誇らしげに威張ることも無く、開発者も「うれしいですが、説明はできません」と至って謙虚なのが不思議でした。AI世代と言われる中学生の藤井壮太君の破竹の29連勝に国中が沸きました。
もしも人類の、次の飛躍に役立つならば、AIのこれからはとても楽しみではないでしょうか。

210-2  MIMOSA PUDICA

プレートラーメン構造で、抜け感を活かした共同住宅

 

 

 

 

敷地は京王井の頭線明大前駅より徒歩5分。東の幅員約11mの線路敷と西の4m生活道路に挟まれた、一種低層住居専用地域に属する敷地である。線路敷は前面道路より1m下がったレベルに位置する。
法により絶対高さは10mと制限され、条例により最低居室面積25㎡以上、居室天井高さ2.3m以上の制限を付与される地域である。
その中で収益物件として、いかに最大容量を確保するかを模索した。その結果、1階を半地下とすることで10mの高度制限の中に4層挿入することとした。
(ただし豪雨時の浸水リスク軽減のため、1階住戸の床レベルは線路敷よりも300高い位置に設定し、外構や貯留ピットの採用により冠水時のオーバーフロー機能を盛り込んだ。※ポンプ槽は設けない計画としている。)
周囲には学生向けのアパートが多く立ち並び、周辺マーケットの中で学生をターゲットとする賃貸住宅は飽和状態である。そのため、計画初期段階から明大前という地域性を排除し、ターゲット層を広げ、過当な競争に巻き込まれないセグメントへフォーカスすることとした。
【大切にしたコンセプトは2つ】
1)低層住居地域に対する環境への配慮 2)線路敷に面する立地メリットの最大化
・都心部では得難い線路敷11mによる抜けを全住戸に享受させる
・線路からの騒音対策(RC 二重サッシ)
・低層住居地域への配慮として視覚的ボリュームを小さくする。3棟分棟
・直階段をスリット階段とし4mの生活道路と線路敷をつなぐ。場所性の継承

4階建てではあるが、4階へは3.5層程度の階段であるため、計画としてはエレベーター無しとしている。また分棟の隙間に配された階段は屋根を設けず屋外階段としている。そうすることで階段部分の面積は床面積に算入されず、延べ面積は500㎡以下とすることができ、非常照明や自火報設備設置の要件を外し、かつ97%という高いレンタブル比実現に寄与している。また屋根を設けないことは結果として分棟のコンセプトを強調することにもつながっている。
住戸プランは幅2.4m 奥行き13m のボックスに、線路側に生活空間 生活道路側に寝室、中間に水回りを配する。構造計画は柱梁を設けないプレートラーメン構造を採用。
垂れ壁や袖壁の無い連続した壁天井は 2.4mの幅方向から意識をそらせ、長辺への方向性を強調させ、線路幅員をも内部景観に取り込むことを意図している。防犯上のデメリットとなる上層階は、迷路性を持たせないシンプルな形態とすることで、パブリックなエリア(道路)からの死角も可能な限り排除している。
収益性を最大限に確保しながら、低層住居地域においての集合住宅のあり方を示す。収益物件としての事業性と公器としての社会性について思考を巡らせながら設計を行った。

(堀部 直子)

構造:RC造
規模:地上4階
意匠設計: Horibe Associates architect’s office
構造設計:高橋俊也構造建築研究所
設備設計:グランドファシリティ
施工担当:瀧澤
撮影:平井広行

210-3 堀部直子/株式会社Horibe Associates

人々に愛され、色あせない建築

 

今月は、「MIMOSA PUDICA」の設計者、株式会社Horibe Assoiates  の堀部直子氏に、お話を伺います。

―関西を拠点に活動されている事務所と伺っておりますが。
堀部:私の両親は二人とも東京の出身なのですが、父親の勤務先が関西だったことから、子供時代から関西で過ごしてきました。現在は大阪、東京両アトリエを拠点としていますが、活動の範囲は全国に対応しています。

―そもそも建築家を目指されたきっかけは?
堀部:子供のときから絵を描くことが好きでしたね。それから、家族が皆理系なので、絵が描けて+理系となると「建築かな」という感じでした。

―「MIMOSA PUDICA」では、コンクリート打ち放しを選択され、さらにプレートラーメン構造を用いた建物で、工事の途中で構造内覧会も開催されました。今後もこの構造をどんどん採用されていく予定ですか。
堀部:いえ、特に構造ありきで建物を作っていく、ということではなく、あくまで建物の状況にあったものを選んでいきます。ただ、構造設計の高橋さんには、以前やはりRC造で建てた「白ばら幼稚園英会話学校」(写真①)でもお世話になっていて、独立されてから、今回の「MIMOSA」や現在進行中の住宅でもご一緒させていただいているので、今後もいい形で協働作業させてもらえれば、と思っています。

―ホームページを見て、「はつが野の家」と「白ばら幼稚園英会話学校」が気になったのですが。
堀部:「はつが野の家」(写真上)は、家の中心に”中庭”を配置し、玄関を開けた途端に開放的で、光溢れる中庭が広がる住宅で、プライバシーに配慮しながら開放的な空間を生み出しました。「白ばら幼稚園英会話学校」(写真①)では、ファサードに子供たちの未来を感じさせる半円のデザインを施し、送迎車の混雑緩和のため、ドライブスルーできるような工夫をしています。

―この兵庫県のワークギャラリー(写真②)なども面白いですね。
堀部:「koti」ですね。場所は兵庫県たつの市。住宅地の一角での、ワークショップの企画や、レンタルルームとしても利用できるギャラリーの計画です。
ご要望は、「小さくても、多様な過ごし方を提案できる空間」でした。まず10数台の駐車場を確保し、建物に取り込む風景としてはあまり望ましくない古い団地を背にして、何組かで同時利用もできるよう空間を3つのボリュームに分割して配置しました。
空間を分けることにより、建物のボリュームを小さく見せることができ、視覚的に建物の連なりを瞬時に把握することもできるので、初めて訪れた人にとっても利用しやすいプランとなっています。

―最近はリノベーションなどでも、地域で活用できるスペースの必要性が言われています。
堀部:比較的新築物件が多いですが、建築はいろんな影響をそこに与え続けるものですから、私は、デザインや機能だけでなく、建築に関わる様々な物事にこだわり続けています。

-最近事務所を移転されたそうですね。Horibe Associatesの今後の展望はどのようにお考えですか?

堀部:今年の春、駅近くのビルに事務所を移転しまして、ビルの空きテナントの賃貸経営も行うようになりました。
今後は設計者としての提案だけでなく、自社での賃貸経営の経験も活かして、よりクライアント目線に立った提案ができると考えています。
仕事の割合としては住宅も多いですが、また「MIMOSA PUDICA」のような収益物件やオフィスビル等の設計もどんどん行っていきたいですね。

―本日は、ありがとうございました。

 

 

 

堀部 直子(ほりべなおこ)

1972年 大阪府生まれ
1995年 近畿大学理工学部卒業
設計事務所勤務を経て
2003年 堀部直子建築設計事務所設立
2009年~2013年 摂南大学 非常勤講師
2012年 ~近畿大学 非常勤講師

2011年 東京アトリエ開設
2012年 法人化

受賞歴(直近のものに限りました)
2015年 「第9回キッズデザイン賞」
2012年 第7回「関西建築家新人賞」
2010年 2010年度 グッドデザイン賞
2010年 「阪南の戸建分譲住宅地PJ」設計提案最優秀賞
2009年 エアスタイルコンテスト2009優秀賞
2009年 第3回トステム設計コンテスト[サッシ部門]佳作

 

210-4  「建物再訪」 4. M邸 

大きなデッキの家

今回は、2001年に竣工した、2世帯住宅のメンテナンスのご紹介です。
2001年、奥様のご両親の家を建て替えて、2世帯住宅にされたM邸。1階の奥がご両親の世帯、前面道路側の3層の部分がM様ご夫妻の世帯で、ご両親の世帯の上に、庭に代わる大きなデッキを設置し、2階のリビングダイニングに連なる心地よい空間を作り出していました。当時は、隣接する南側の土地にはまだ建物が建っていませんでしたが、今は住宅が建っています。

竣工後16年が過ぎ、デッキの傷みが目立ち始め、その下の波板の鋼板にも一部錆がみられました。デッキ材の寿命は、「イペ」などのハードウッドで約20年ですが、場所によります。DIYショップなどで売っているSPFやレッドシダーなどでは約2年と耐用年数はかなり短くなるので、あまりお勧めではありません。そして、木粉と樹脂材を合わせた樹脂木があります。腐食や害虫にも強く、天然木に比べ、夏場少し熱くなりやすいのですが、耐用年数は20年以上と言われています。今回は古いデッキ材を撤去して、テラス面は半分に減らし、新たに樹脂木製のデッキ材を貼り直しました。ご両親世帯の屋根として露出する部分には、遮熱塗料を再塗布して温熱環境の変化を抑えました。
白かった建物外壁は全体に黒ずみ、軒裏に一部カビが見られ、また玄関の鋼製の庇にもかなり錆びている箇所が見られました。北側の隣家と境壁もクリーニングし、再塗装。また境壁を利用して、デッキを載せるためにかけられていた梁も、白く再塗装しました。
室内では、地下1階から地上2階までを貫く吹き抜けの鉄骨階段にサイザル椰子のカーペットを貼っていましたが、踏み板の一部が破れていたので、すべて貼り直し、擦れやすい角の部分には、アングルピースを組み込みました。
お子様も独立され、ご両親もお元気な今、M様はご自身の趣味を活かしたお仕事を、さらに楽しんでいらっしゃいます。

 

構造:RC造
用途:専用住宅
規模:地上2階 地下1階
竣工:2001年6月