トップ4項目でご紹介しています。全ての記事をご覧になりたい方はバックナンバーのPDFをご参照ください。

232-1 都心の工事

232_p1_01

「CUBE西麻布」  撮影:アック東京

今月は、西麻布の交差点のすぐ近くに建った、「CUBE西麻布」のご紹介です。

「CUBE西麻布」の場所には前回の東京オリンピックの頃建てられた木造2階建ての小さな店舗兼アパートがありました。大家さんは10年ほど前から古くなった建物の建て替えを考えておられましたが、一軒残った店子(床屋さん)のご商売が続いていたので、すぐにはできませんでした。それが3年前、床屋さんが「2018年5月に出ます」という決心をされたので、やっと建替えの設計がスタートしたのです。

敷地は六本木通りに面しており、今は立体交差になっていますが、六本木方面から谷底になる交差点の側道に面しています。
設計のバウ・ビルトの村上さん、榎本さんによると、工事にあたって第一の問題点だったのが、敷地の奥の部分(2/5)の下を地下鉄日比谷線が斜めに走っているということ。古い路線のため、土かぶりが少なく、地上面から3.5m下を走っています。当然その部分は杭を打てず、可能なところに杭をたくさん打つことになります。工事開始前の1年間、営団地下鉄と協議を重ねて杭の位置を調整し、既存家屋解体後に試掘も行いました。そこで地下鉄の越境もあったことが発覚しましたが、当時は図面もきちんとしておらず、事情を知る人はすでになく、という具合でした。

また、東隣の建物が境界ぎりぎりに建っていて、こちら側が下がらない限り隙間がないので、どこまで敷地を有効に使い得るかということが第二の命題でした。そこで、バウ・ビルトさんではそのような都心の工事の経験を豊富に持っている施工会社を決めるために、見積もりを数社から取り、最初に工務店を決めたとのことです。その上で構造も概算で基本単価を確認して、技術的なやりとりを具体的に決めていかれました。
「隣地とは50cmは開いてないと無理」という施工会社もいた中、救世主となったのが、建物の裏に通る2項道路でした。2項道路(にこうどうろ)とは、建築基準法第42条第2項の規定により、「建築基準法上の道路」とみなされる道のことで、「みなし道路」ともいわれます。辰の担当者はその裏の道を使う、という見積もりを出してきました。

大通りは都バスも走っており、昼間の道路使用許可はおりません。しかし夜間工事となると、ここ西麻布は隠れ家的な飲食店が多い場所で周辺への理解を得にくいのです。このみなし道路を使うことで、昼間も工事用車両が駐車できます。しかし、2項道路は小さなビルの裏側で不法占拠のたまり場となっていて、放置自転車、バイクが山のようにありました。既存建物の解体時、それらを排除することから工事の準備は始まりました。営業担当者が、周辺の誰もが本当は「なんとかしてほしい」と思っていたクリーンアップ大作戦を行いました。

テナントビルはボリュームを稼ぐことが命題ですが、完成したビルを見ると、天井の高さは余裕があるけれど、隣のビルよりは高くありません。
「容積率は使い切っていないですよ。本当はもう4層載せられるくらい。でも重量的に、鉛直荷重にしても引き抜き荷重にしても杭がぎりぎりなのです。1層でも増やすとはね出しの分、引き抜きも大きくなるので、杭が持ちません。階高だけなら、壁が延びる分くらいの重量だけで済みます」と榎本さん。

リーシングを行う不動産業者さんからは、「内外コンクリート打ち放しのかっこいい建物に」というご希望が出ています。細長く向こうが開け、「狭い場所、でも壁で目立つ」という方向性を考えていくことになりました。榎本さんは「断熱をやらないという発想もあるけれど、今の時代にエネルギー消費の大きい建物を造るのはよしと出来ないので、巧みに内断熱と外断熱を切り替える方法を考えた」とのことです。

さてどのような解決方法をとられたでしょうか。

232-2  CUBE西麻布

コンクリート打ち放し、エコサーム、無足場工法でスマートな建物に

隣地との境界に余裕がない、都心の狭小敷地に建つテナントビル。下を地下鉄が走っている。
内外の壁はコンクリート打ち放しを活かしたものとするため、工事の制限から各面で異なる施工方法を選択した。

北側前面道路側はファサードのデザイン優先のため足場を建てた通常の施工を行い、内断熱である。外断熱を施した西側との間がヒートブリッジとなることを防ぐため、内断熱と外断熱のラップを取り、内断熱部は石膏ボードで覆っている。西側は隣地をお借りして足場を建て、外断熱を採用し、内側のコンクリート打ち放しの壁の雰囲気を優先させている。

西側と南側は足場が建てられたので、外断熱は「エコサーム(東邦レオ)」という湿式外断熱工法を施している。発泡スチロールを直貼りし、その上にベースのモルタル、メッシュやプライマーを重ね、フィニッシュコートを左官で仕上げる、外断熱としては比較的リーズナブルなものである。大きな開口部、外階段がある南側は極力壁を排し、壁に囲まれた屋外避難階段との対比ですっきりとした外観を実現している。

そして、足場の組めない東側は、「ガンバリ工法(元日マテール)」を採用した。「無足場工法」といい、内側からアルミ外装一体断熱型枠を立てて、そのままコンクリートを打って終わりというものだ。外側はアルミのスパンドレルでそこに断熱材が付いている。幅300mmのスパンドレルのジョイントに金具を引っかけるだけである。セパレータは300ピッチで通常の足場を組んだ型枠よりも小さい。柱の部分はさらに縦間隔が小さく150ピッチである。エントランスのところも細かく入っているので小さなセパに変えている。

「無足場工法」は、足場費用が不要で安全で効率的な施工ができる。ここまで内部が広くなるのだと実感できるが、壁構造が主で、今回のようなラーメン構造ではあまり事例はない。リーシングの対費用効果を鑑み、採用に踏み切った。都心でなければできなかったろう。

3つの工法を採用し、スマートな建物が完成した。
テナントにはバーや和食店が決まっているが、どの階でも飲食店は可能なようにしてある。

(村上まみ氏・榎本幸男氏 談)
斜めの線が地下鉄の走行部分
232_p2_0a 1階平面図
232_p2_10houi
232_p2_0b屋上設備配置図

所在地:港区
構造:RC造
規模:地上5階
用途:店舗
設計・監理:村上まみ・榎本幸男/バウ・ビルト
施工担当:能田・内藤
竣工:2019年6月
撮影:アック東京

 

232-3  村上まみ・榎本幸男/一級建築士事務所バウ・ビルト

SNSはやれません

―お二人の事をお調べしたいと思いましたが、HPは作られていないのですね。

村上:2人とも、そういうことにエネルギーを注ぎ込めないのです(笑)
今回の建て主は、以前設計した葉山の家の建て主の同級生だったことからお話をいただきました。お母様から引き継いだ土地にビルを建てようと考えているという事でご紹介いただいたのが10年前でした。
結局ご実家をご自宅に改修する木造の大規模リフォームを先行してやることになり、その後、西麻布の物件が動き出したという感じです。
―お二人とも、林寛治さんの事務所出身でいらっしゃいますね。
村上:重なっているのは2年半です。私は大学を出てから、藝大の院に行って、建築史・保存の研究室で、街並みの調査などに関わりました。
日々の暮らしや街のにぎわいと建物の工夫の関係などを調べましたが、やはりつくる側になりたくて、林寛治さんの事務所に行きました。

榎本:僕は大学卒業後、大学の研究室で助手をしていましたが、その後、関西のランドスケープを得意とする事務所に入り5年間在籍。それから住宅をやりたくて、林寛治さんの事務所に入りました。1999年からバウ・ビルトに所属しています。

村上:事務所名の「バウ・ビルト」は、「baubild」というドイツ語の造語です。元々30年程前に亡くなった父がやっていた商業デザイン会社の名前ですが、25年前に事務所を始める時にその名前を貰って付けました。「bau」は構築、つくる「bild」は絵、イメージなどという意味です。

―ご夫婦一緒に仕事をされているんですか。

村上:基本的にそれぞれ別の仕事をしています。ほとんど一緒に仕事をしていないので、今回は珍しいです。榎本:既成のモノ、メーカー品では飽き足らないという方が設計者に頼むことになると思うのですが。超お金持ちも中にはいらっしゃいますが、ほとんどの方は条件が厳しいので、どうやって夢を実現させるかということになりますね。

―お仕事は木造の住宅が多いのですね。

榎本:こちらの「普通の家」は実家の建替えです(記事内写真参照)

村上:「宮前の家」は、車椅子で暮らす家族のいらっしゃる住まいです(同じく記事内写真参照)

―気持ちよさそうな木の家ですね。村上さんは特に住宅が多いのですか。

村上:そうですね。以前設計した住宅の建て主からの紹介や、知人の住まいに関する相談から仕事が始まることが多いからかもしれません。住宅の設計は、住む方の望む暮らしや実現したいと考えている事を一緒に整理するという「整理のお手伝い」から始まると思います。

家の事を初めて真剣に考える方も多く、色々不安を抱えている場合が多いので、設計者の解説や提案を受けながら納得して進んで欲しい。安心して家を考える事を楽しんで貰いたいといつも感じています。ですから私の仕事はほとんどが住宅で、大体口コミです。

SNSをやったら?と言われることもありますが、どうしても手が出ません。漠然とした不安もあるし、始めても維持管理し続けられるエネルギーが持てるとは思えませんから(笑)

榎本:結局、所員を持たないで、二人で来ちゃったこともあって。人を雇うとそのための仕事を作らなきゃならなかっただろうから、事務所規模を大きくしなくて良かったなと思います。

最近は他の事務所とネットワークを組んで大きめの仕事もやっています。必要な時に必要なメンバーが集まってプロジェクトを進めるスタイルです。

―本日はありがとうございました。

村上まみ (むらかみ まみ)
1960年  東京都生まれ
1983年  日本女子大学家政学部住居学科 卒業
1985年  東京藝術大学大学院美術研究科建築理論専攻 修了
1985年  林寛治設計事務所入所 92年退所
1992年   個人設計室 開設1995年   一級建築士事務所バウ・ビルト 開設
主な作品 葉山の家、北沢の家、大磯の家、宮前の家、代沢の家、他多数 

榎本幸男 (えのもと ゆきお)
1961年  東京都生まれ
1983年  武蔵工業大学工学部建築学科 卒業
1983年  武蔵工業大学建築学科広瀬鎌二研究室 研究補助員
1984年  三宅祥介建築設計室(現 SEN環境計画室)
1989年     林寛治設計事務所1999年   一級建築士事務所バウ・ビルトに所属
林寛治の協力者として設計協力2005年  一級建築士事務所バウ・ビルトに専属

主な作品 普通の家、鉄町の家、アンリーベノイエ(音楽小ホール)、
他多数

232-4  建物再訪 5.C-House

建物再訪 5.C-House 室内テラスのある家


今回は、14年ほど前に竣工した品川区のC様のお宅にお邪魔しました。
施工担当者が退社して時間が経過、メンテナンスをご希望だったC様を結果的にずいぶんお待たせしてしまいました。それでも今回、屋上防水、クラックなどの外壁改修、撥水材塗布工事などの外部の改修工事を行いました。現場担当の小関に工事のフォローの状況を確認しながら、C様にお話を伺いました。

-こちらは高級住宅街という環境もあり、竣工当時はプライバシーに配慮したファサード、そして内部にトップライトから光が降り注ぐ大きな室内テラスがある建物としてご紹介しました(ShinClub59号)

小関:そもそも私が伺うようになったのは、テラスの上のトップライトのサッシの両脇から雨漏りしているとのご連絡をいただいたのがきっかけでした。聞けば、前任の担当者の頃からとのことで、メンテナンスで一時的には修復されたものの、実際は根治していませんでした。
前任者の引継ぎ事項を行うまでに時間が経ち、ほんとに申しわけないことでしたが、今回それに引き続き長期修繕的な外部の改修もお受けくださいました。
C様:家はどんどん劣化していたから、助かりました。小関さんには感謝状を出したいくらいです(笑)

-お引渡しの時はどうでしたか。
奥様:大満足でした。ネットで調べて芦原先生の事務所に突然お邪魔しましたが、小さな個人宅にもかかわらず、とても良く対応してくださいました。ミッドセンチュリーテイストのシンプルで美しい建物ができあがり、感謝感激でした。
C様:妻が風水も少し取り入れたいと言うことで、水周りの配置や建物の凹凸にもこだわりました。
奥様:そうですね。芦原先生も空気が流れる家が良い家とおっしゃっていただけに、植物が良く育つ、気の流れの良い空間になりました。

ところがその後間もなく、風通しの良いはずのリビングのフローリングが黒ずみ始め、日に日に広がっていったのです。原因は床暖房の水漏れによるカビで、2階の床を全部張り替える大工事に発展しました。

-それはうちの責任で対応させていただいたのでしょうか。
奥様:はい、日数はかかりましたが、辰さんに直していただきました。数年後、次に問題になったのがサンルームの雨漏りです。構造上、そうなりがちだとは聞いていましたが、やはり修復も難航しました。結果サッシ周りのシーリングとそれを取り囲むコンクリートの塗装を広範囲にしていただき、一時的には解消しました。でも最も担当者さんを困らせたのは、3階シャワー室から付近への水漏れで、こればかりは原因究明とその修復が大掛かりになりそうでしたので、この時期から互いに連絡が滞るようになりました。

小関:で、その担当者が退社してしまったため、2年位前から私が引き継ぐことになったのです。
本来、建物がいろんな事情で補修していかなくてはならなくなるのは、仕方が無い事なのです。ただ、せっかく有名な先生に設計していただいたバリューを損なうことなく保存していくことは大事なので、適切なメンテナンスを施していかなくてはなりません。

お客様の中にはコンクリートは永久にもつと思っている方も時にいらっしゃいますが、それはないです。木造よりは長持ちしますが、寿命が50年というハウスメーカーの説明書も「10年に一度、大規模改修をしたら」という条件付きだったりしますから、過度に景気のいい話をしても問題です。
お客様が困っているときにこそきちんとお話を伺う関係を築かないとだめだと思います。

奥様:なかなか小関さんのように親身になってくださる方はいないと思いますし、興味深く、為になる事柄をユーモラスにお聞かせくださるので話が楽しく尽きません。
C様:彼女、聞き上手なんですよ(笑)

-奥様は、デザイナーのお仕事を続けていらっしゃいますよね。
小関:ほんとに言われたことをこちらがきちんとやらなきゃならなくなるんです(笑)職人さんも名前で呼んで、工事の全体像までお話くださるから、自然に頑張ろうという気になります。

-職人さんにはお客様の笑顔が何よりですね。室内テラス、続くリビングはお友達を呼んでパーティにも最適な空間と伺っておりました。
奥様:仲の良い友人達を招いて時折食事会をしていましたが、最近は実家や親のケアに週末を充てています。でも余裕ができましたらこの空間を心温まる集いに生かしたいと願っています。
C様:友達は宝ですからね(笑)

-親御様のことで忙しい皆様は、ご自分の生活についての整理は先送りになりがちです。
奥様:はい、ですから消費税増税前のこのタイミングで工事が出来て、ほんとによかったです。
愛着が深いこの家に生涯済み続けていきたいですが、今後のことを思うと、売却にしても賃貸にしても良い状態にはしておきたいですね。

小関:建物のバリューを維持して、その価値をわかってくれる人に使ってもらえるようにお手伝いしていきたいですね。

-本日はありがとうございました。

所在地:品川区
構造:RC造 地上2階
用途:専用住宅
設計:芦原太郎/芦原太郎建築事務所
竣工:2004年12月
改修:2019年5月
工事内容:外部長期修繕改修工事
・ 屋上防水やり替え
・外壁メンテナンス
クラック処理、シール部打ち替え、
化粧塗装