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234-1 建築の不可能を可能に

「ReBreath Hongo 2018」  撮影:Kenta Hasegawa

「ReBreath Hongo 2018」  撮影:Kenta Hasegawa

 

今月は、文京区で再生された4階建ての共同住宅をご紹介します。
「ReBreath Hongo 2018」は、築50年の旧耐震で既存不適格の共同住宅でした。耐震補強をしても開口が小さくなり、居住性が損なわれたり、法律の改正などで建て替えようとしても元のボリュームを維持できない建物なので改修をあきらめたという話はよく聞かれます。が、「建築の不可能を可能に」を合言葉に多くの建物の再生を手掛けている再生建築研究所は、今回、既存のボリュームを維持しながら、耐震補強も行い、既存建物が持つ南側の空地を活かすなど、専有面積を増やして不動産の価値をさらに向上させました。

過去に建てられた建物が、増改築、耐震補強などの課題を迎えた時に立ちはだかるのが、「検査済証」がないことです。工事が適法に終えられた、とういう証明書ですが、昔はその取得率はかなり低く、また建物所有者がきちんと保管していない、所有者がいろんな理由で変遷しその保管がわからなくなっている、などという例は少なくありません。

しかし、検査済証がないことで法的に認められずに改修工事の許可が下なかったり、銀行からの融資を受けることが出来なかったりして、放置されたまま古びていく既存建物の何と多い事でしょうか。建物自体は工夫すれば何とか住める、この場所にずっと住み続けたいという人たちがいる。そんな思いを救い、既存ストックの活用に積極的に取り組んできた「再生建築研究所」の神本豊秋氏。昨年移転した、神宮前の事務所「ミナガワビレッジ」は、1敷地に4建物が建つ築60年の違反建築物でしたが、図面を起こし直し、耐震設計を見直し、60年ぶりに「検査済証」を取り直しました。豊かな緑の庭を残し、環境設計も見直して快適な建物を再生、入居、運営も行っています。

「ReBreath Hongo 2018」では、耐震改修などのほか、建物の省エネ化を進めるため、全体で1次エネルギーの消費を約45%削減するという環境設計が行われました。

現在、世界では異常気象が各地で頻発しており、2020年以降の温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の結果を受け、国内では2030年度までに温室効果ガスの削減目標を-26%とすることが設定されています。
住宅の省エネ性能を評価する際の基準には、2つあります。
①外皮性能を評価する基準(屋根や天井、外壁、床、窓など建物の外側の部分)
②1次エネルギー消費量(エアコンや照明、換気、給湯など、生活をするのに必要なエネルギーのこと)
基準値は地域ごとに定められて、その基準値以下を目指すことが必要となります。今回の改修工事は、改修でありながら国の定める省エネ基準以上の環境性能を有しています。日本は欧米に比べて、建物の評価に環境性能も加える意識がまだまだ低いと言われています。リノベーションが多く行われる中で、もっとその意識を全体で高めていけるようになることも必要だと思われます。

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234-2 ReBreath Hongo 2018

既存のボリュームを維持しながら専有面積を増やし、新築以上の性能に

本郷の住宅密集地に建つ、築50年の4階建ての既存不適格マンションである。25㎡程の2DK住戸だったが、間取りは現況ニーズに合わず、設備も老朽化し、入居率が10%を切っている状態だった。建て替えも検討されていたが、この建物が建てられた後に様々な建築基準法が改訂され、「高度地区」「日影規制」「容積率」が厳しくなり、高さ、容積共に既存不適格となっていた。新築する場合は現行法規に合わせなくてはならないため、今のボリュームを建てることができない。新築、再生の両案を作成し、事業収支から検討していった。工期、施工費はもちろん、南側の豊かな空地や眺望、広い共用廊下や使われていない屋上などのメリット・デメリットを読み込むことで、利回りが大幅に改善され、かつ、耐震補強や現代にマッチしたプランやセキュリティと環境性能など新築以上の価値を得られることから、再生案が選ばれた。

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耐震性能を向上させるため、道路面の閉鎖的なコンクリートのバルコニー手摺を解体することで建物重量を減少させ、耐震補強は廊下側の耐震壁およびバルコニーの袖壁補強とした。そのことで、既存建物よりバルコニーの広さや居室の開口率を高めながらIs値0.6以上をクリアさせ、区の耐震助成金を得ている。
道路面のファサードを印象付ける溶融亜鉛メッキ鋼板の手摺はルーバーとしての機能も果たし、アングルやフラットバーの向き、組み合わせを各階ごとにコントロールすることで、外からの視線を巧みに遮断しながら道路から離れる上層階に行くほど透過性を高め景観を臨める変化をつけている。

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住戸のプランについても、全戸ウッドデッキバルコニーとし、多くは2DKを1LDKとした。また、自動ドアや屋外廊下を全て屋内廊下とすることで、セキュリティを向上させ、断熱は国の定める省エネ基準以上の性能を実現し、現況市場ニーズに大きく適合させている。
さらに、賃料の低かった1階の価値を向上させるため、1階のみ南側の空地に広い専用庭を確保し、バルコニーアクセスとして、共用廊下を専有化することで各戸の専有面積を広げた。使用されていなかった屋上は4階住戸の専用テラスとしている。一部、1.5住戸分を1区画とすることで2LDKの住戸も設け、DINKs層等、多様なニーズに対応している。

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1割にしか満たなかった入居率は竣工後、すぐに満室稼働となった。

再生建築研究所 神本豊秋

所在地:文京区
構造:RC造
規模:地上4階
用途:共同住宅
竣工:1968年
改修設計・監理:再生建築研究所
施工担当:宮島・畠中・朴
改修引渡:2018年3月
撮影:Kenta Hasegawa

234-3 再生建築のプラットフォーム   神本豊秋/再生建築研究所代表取締役

今月は、「ReBreath Hongo 2018」の改修設計を担当した、再生建築研究所代表の神本豊秋に登壇いただきます。再生建築研究所のオフィスでもあり、企画、設計、運営も行っている神宮前の築60年の木造住宅を改修したシェアオフィス「ミナガワビレッジ」に伺って話を聞きました。

 

―再生建築を手がけられるようになったのは、どうしてですか。
神本:もともと小学校の卒業文集で「建築家になりたい」と書いているような子どもでした。ちょうど大学のときが就職氷河期で、新築の建物はもう建たないと言われ始め、既存ストックの活用や、リノベーションという言葉が流行り出した時代でした。
でもリノベーションと言っても、根本は変わっていない、お化粧直しに過ぎなくて、建物の資産価値が上がることはないと感じていたのです。そもそもなぜ日本の建物はすぐに取り壊されてしまうのだろう、と調べたらコンクリートの歴史はまだ80年くらいしか経っていない。建物は平均2、30年でとり壊されてしまう。なのに欧米では平均が140年。この差は一体何なのだと考えたのが最初です。

 

当時、再生建築の分野でトップランナーだった方が大分に講演にいらしたとき、すぐに事務所に入れてくださいと談判しました。インターンで入所して、大分事務所に。それから福岡事務所に出させていただき、東京事務所を開設というときに東京に出てきました。26歳でした。
先生が論文を書いたプロジェクトや自邸の改修工事に携わらせてもらえたのは運が良かったですね。
8年勤め、神本建築設計事務所として2011年独立。始めたら、新築を最初1戸やっただけでやっぱり再生しかなかったんです。既存ストックの再生をご相談いただくことが多く、デザインだけでなくチームとしてプラットホームをつくる、違法建築を適法化する、(建て替えの)不可能を可能にする、という矛盾したことをやるシンクタンクとしての活動が広がり始めました。構造も、環境も、法も統括することが出来る事務所、「再生建築研究所」を創り、今年で4期目に入ったところです。

 

設計事務所として、「再生建築研究所」は研究機関としての人格、「神本豊秋建築事務所」は建築家としての人格、この2つを両輪として体制を整えられたのは、非常に大きな事ですね。我々はデベロッパーさんと不動産言語で会話をすることが出来ます。検済済証がない建物に検査済証を得ることができる。耐震補強すると普通下がってしまう利便性や資産価値を上げてしまうとか、建て替えると5階建てにしかならない建物を再生により10階建てを維持できるとか、そういう回答ができる設計事務所、チームとしての存在価値が認められているのですね。

 

―簡単ではないですね。大変な労力が必要と思いますが、何が大事なのでしょう。経験が必要ですね。
神本:経験とコミュニケ―ション能力ですね。再生の多くは無理と言われることから始まりますが、協議に行って「ダメ、と言われました」では止まらない。どうやったらいいか、落ち込まずにそのニュアンスをつかみ、ダメなものをどうすればいいかを考える。そこは日本の教育と違うところだから、なかなかむずかしいんですよ、ロジックが。
普通に相手に「どうすればよいですか?」と聞いたら「ダメ」と言われるんです。「これこれこういうことだから、こういう研究も、プロジェクトもあるし、実例もあるから大丈夫ですよ」と言うと、相手は「ああ、大丈夫ですね」と言います。そういう、歩み寄り、相互の責任の担保を、お互いが白黒じゃなく拮抗されることが、法でも建築でも必要になってくるし、その隙間にこそ面白い建築ができるのではないかと思いますね。法にないことも、「例えば、こう解釈したらどうですか」と言ってみたりします。

 

―再生建築では、ボリューム維持もありますが、既存の建物のいいところを拾い上げていく作業もされているのですね。
神本:どんな建物もいいところがあって、世の中のマジョリティは建築家のデザインした建物ばかりでない、誰でも作れる色のない建物がほとんど。そんな建物達に対して少し手を加えるだけで、モノのあり方が変っていくことを伝えたい。既存のフレーム躯体をリスペクトしながら、反転していく瞬間を切り取ってそれをデザインに転用していく。そこに面白さがあり、事務所内でも発表していくということをしています。
ここ、ミナガワビレッジもまさにその反転の瞬間があり、緑豊かな庭を引き継ぎ、建築と庭という主従関係が逆転して、庭を中心に建物が生まれ変わりました。さらに耐震補強し、環境設計を行い、60年ぶりに検査済証を取り直して、不動産価値的にも再生することができたのです。
また、事務所としての両輪にさらにエンジンを積むことが出来ました。
というのも、このシェアオフィスの運営も任され、建築によって自分もスタッフも育てられているし、そういう「場所」、「こと」をどう自分達で発展させて行くのかがテーマなのです。こういう面白いプロジェクトをやらせてくれるクライアントに120%応えていかなくては、やる価値はないですね。自分達で何を生み出せるか、それは自分で考えないとだめだと若い人たちには、伝えていきたいですね。
―本日は、ありがとうございました。

 

 神本豊秋(かみもと とよあき)

 

1981年 大分県生まれ
2004年 近畿大学九州工学部建築学科卒業qr_code1568006933
青木茂建築工房(-2012)
2012年 神本豊秋建築設計事務所設立
東京大学 生産技術研究所川添研究室 特任研究員
2015年 再生建築研究所設立
2018年 ミナガワビレッジ運営■受賞歴
・グッドデザイン賞:「渋谷商業ビル」(2013)、「YS BLD.」(2012)、「FTK BLD.」(2010)、「IPSE目黒鷹番」 (2008)
・日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)「FTK. BLD」(2010)
・人間サイズのまちづくり賞(兵庫県知事賞)「FTK. BLD」(2010)
・近畿大学九州工学部卒業表彰 学部長賞(2004)

234-4 打ち放し壁補修 社内勉強会開催 8月6日(火)

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2003年竣工の賃貸集合住宅「Zephyr(ゼフィール)」の外壁補修工事を承りました。
そこで現場に入っている協力会社の皆様に協力いただき、補修工事の勉強会を開催しました。
社員から材料や費用など細かい点について質問されると、職人さんや営業の方が丁寧にお答くださっていました。
「これからはメンテナンスに力を入れている建設会社こそが生き残れる企業であると信じて、
協力会社の皆さんと共に改修の技術向上の努力と研鑽を重ね、
長期に亘りお客様から喜ばれる企業を目指して行きたいと思います」と辰・カスタマー室小関敏幸室長。
辰・カスタマー室では今後もお客様に最新の情報をお伝えできるよう情報交換の場を随時設けていく予定です。
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<協力会社>
仮設足場:株式会社服部架設工業
高圧洗浄~躯体補修、防水:株式会社トミヨシ商会
打ち放し壁 化粧補修:前進テック株式会社
一般塗装 鉄部塗装:株式会社岡正塗装

 

 

「Zephyr (ゼフィール)」
設計・監理:谷内田章夫/ワークショップ
構造:RC造
規模:地上4階
竣工:2003年6月
竣工撮影:齋部功