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194-1 熊本地震

アットホーム本社ビル 撮影:アック東京

このたびの「平成28年熊本地震」により被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。皆様の安全と一刻も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。

写真は、昨年の冬、竣工した不動産情報会社「アットホーム」の本社ビルです。赤いつなぎを着たお笑いコンビ「さまーず」の二人とロボットが出てくる広告をご記憶の方もいらっしゃるでしょう。加盟している不動産会社は、全国5万3000店以上。日々送られてくる各店舗からの不動産情報をユーザーに提供しています。インターネット上の充実したサイトもありますが、実際の店舗に印刷物も発送しており、事務所と工場が一体となって24時間稼働しています。築40年を超えていた建物は、東日本大震災もあったため、このたび耐震性に配慮した新たな建物に建替えられました。

設計を担当された「建築集団フリー」様に、竣工から少し遅れて取材をする機会を得たのですが、その6日前に熊本であの震度7の地震が起こりました。2日後の未明には、さらに本震とみられる大きな地震が起き、余震は5月に入ってからも続いています。
取材では、「建築集団フリー」の上村健太郎設計チーフが熊本出身ということもあり、「災害時の拠点となるべき建物が、いくつか使用不能になったことは本当に残念だ」と振り返られ、また「余震がこのように続くのであれば、地震係数や建築基準法のあり方を考え直さないといけないのではないか」と所長の三木俊治氏も「安全第一」を強調しておられました。
現地では余震が続くことで建物の中が不安なため、車中で過ごしている人も少なくなく、肺塞栓症(エコノミークラス症候群)になる方も出ています。道路や水道などインフラはまだまだ大変な状況ですが、避難所生活をされている人々には、いろいろな支援が入るようになってきています。
今回の地震で倒壊した建物は旧耐震基準のものが多いのですが、一方、新耐震基準でも倒壊した建物があり、残念なのは1度目の地震で命が助かったものの、自宅に戻り、2度目に来た大きな地震で亡くなった方がいるということです。覚えておかなくてはならないのは、新しい基準法で改正されたのは、以下のような点だったということです。
■頻繁に起こる大きさの地震(震度5クラス)に対しては建物の構造に損害がないようにする
■滅多に起こらないが大きな地震(震度6-7)に対しては、致命的な損害を回避し、人命を保護するようにする
つまり、現実的な耐震基準とするために、第一波でとりあえず命は助かるような建物にすることであり、その後、連続して起きてくる地震については保証の限りではないというものだったのです。
私たちは、今回の地震で震度7クラスの地震が頻発する時代に入ってしまったことを再認識させられました。だからと言ってあきらめることはありません。現状でできることをしっかりやっておくことが大事です。「地震により強く」という条件を、もっとデザインや機能に盛り込んだ建築や仕組みに取り組み、改修が必要であればスピードを上げることが肝心です。

写真のビルでは、白い外壁は、熊本に本社がある「日丸産業株式会社」の『ファインウォール・デコ』というものを使用しています。銀座の新しい歌舞伎座の外壁と同じものです。東日本大震災の建物外壁のクラック補修にもやはり「日丸産業株式会社」の、『ジョイント・V』という工法が使われていたので、今回の熊本でも補修にも使われるでことしょう(上村氏)
内閣府の資料によると、西日本の太平洋沿いの「南海トラフ地震」が30年以内にマグニチュード(M)8-9クラスで発生する確率は約70%、「首都直下地震」で南関東域に30年以内にM7クラスが発生する確率も約70%となっています。まず、現在建っている建物を安全な基準に対応させることが急がれます。

 

194-2 アットホーム株式会社本社ビル

存在感のあるシンボリックなデザインの不動産情報会社本社ビル

築40年の鉄骨造の本社は、旧耐震(旧建築基準法の耐震基準)による建物で、構造体が老朽化していたことや2011年の東北大震災の影響もあり、このたび安全な建物とすべく建替えることとなった。当事務所は、「アットホーム株式会社」が「不動産ニュース株式会社」であった時代からこれまで約35年、14棟の建物の設計をご依頼いただいており、デザインもさることながら、所長三木の人柄とアフターケアを含めた真摯な監理業務の積み重ねだと思っている。
プランニングのプロセスは至ってシンプルである。1階を工場、2,3階を事務所とし、建蔽率・容積率から見出される、四角い箱として最大限に取れる空間を確保し、上下をつなぐコアの位置をファサード・デザインとアプローチを絡めながら設定している。普段、私はファサードをスタディする上でテンプレートとしてタテ・ヨコ比で黄金比(1:1.618)等を考慮してプロポーションを構成していくが、今回は印刷工場、事務所という先天的な機能を優先させるため、スタディ模型を作成し、数学的な比率に頼らず、自分自身の感覚を信じ、コアの位置・壁の位置等を決定してきた。結果としてコアを除くファサードの長方形部分(工場部分)のタテヨコ比が1:1.66、と黄金比に近いプロポーションになっていたのは、無意識のうちにこの比率が心地よいと自分が感じていたのだと改めて思った。
ファサードのコア部分は、三角形に切り出して上部を開口部、下部をエントランスアプローチとしている。建物の本社としての位置づけも考慮し、社名の頭文字の「A」をモチーフにして、シンボリックなデザインとしている。計画地の大田区西六郷は、中小の工場の多い地域で、いわゆる機能優先でほとんど意匠性のない建物が多い地域だが、今回、新たに2階事務所にはデザインセクションも入るとのことで、工場らしからぬスタイリッシュなデザインを心掛けた。 建物に隣接して、三木が27年前に設計した「アットホームコンピューターセンター」が建っている。今回の建物も壁面との連続性を意識してベージュの壁色を選定しているが、それ以外は次世代の担い手としてモダニズム的であるべく、アンシンメトリーで、仕上げもシンプルな白いプラスターの壁とした。シンボリックな建物という点では以前のものと共通しており、 その理念は引き継いでいるといえる。

               (上村健太郎氏 談)

 

所在地:大田区
構造:S造
規模:地上3階
用途:事務所・工場
設計・監理:上村健太郎/建築集団フリー
施工担当:佐々木、八幡
竣工:2015年12月
撮影:アック東京

 

 

194-3 上村健太郎/建築集団フリー

雑草のような設計者でありたい

今月は「アットホーム本社ビル」の設計を担当された、建築集団フリーの設計チーフ、上村健太郎氏にお話を伺いました。「建築集団フリー」は、その名前からフリーランスの設計者が、プロジェクトに応じてタッグを組むと思われがちだそうですが、もともと拘束されることが嫌いなメンバーが集まって作られた事務所だったため、そのような名前をつけたのだとか。その後、所長の三木氏が代表として運営、40年続いている事務所なのだそうです。上村氏は、自分の生年月日と、「建築集団フリー」の創立日が1日違いということもあり、運命のようなものを感じたということです。
現在は、ハウスメーカーの委託設計を担う本田奈央氏とデベロッパーのテラスハウスの確認申請や実施設計を担う石山良平氏の2人の有能なスタッフとともに、少数精鋭で業務にあたられています。
辰とは、2006年、ある落語家さんの着物を担当されている日本橋の呉服店の店舗併用住宅のお仕事からお付き合いが始まりました。減額調整しながら工事がまとまり、和の趣を持つビルが無事建ち上がりました。

―今回のアットホーム本社ビルは、印刷工場と事務所ということですね。
上村:35年にわたるお付き合いをいただき、今回のご依頼で15件目になります。全国展開されていらっしゃるので名古屋、九州、大阪、東北、千葉も船橋に支店があります。中には、同じ敷地の中で、最初は所長の三木が設計し、2つ目を私が担当したものもあります。一昨年は賃貸住宅を建てさせていただきました(アットホームレジデンス:右下写真参照)
―長いお付き合いで信頼関係が築かれているのですね。
上村:隣接して「アットホーム・コンピューターセンター」がありますが、ここは所長の三木が27年前に設計した建物なのです。赤いタイルで、重厚感のあるデザインです。実は、今回の建物の設計を私に委ねてくれたのには三木の『考え』がありました。今後、経営を含めて、事務所の権限を私に委譲していこうという気持ちを示してくれたのです。私も担当させていただくにあたって、三木の設計した以前のものとは違うものをやってみたいという思いがありました。シンメトリーではなく、外壁も白いモダンな形で、新しい時代にあったものを作りたいと。ただ、違うけれども、「シンボリックな建物」という意味では、「建築集団フリー」としては、そのコンセプトは受け継いでいけると思いますね。「受け継がれるかたち」だと思います。
事務所は今年で創立40年を迎えるので、節目でいろいろなことをやっていきたいと考えています。

私自身は、「建築家」とか「先生」と呼ばれる存在ではない、と思っております。正直にお話させていただくと、1998年、大学を卒業したときは、バブルがはじけて数年が経ち、建築業界も経済不況の真っただ中でした。大学の友人は、「設計事務所なんか就職するもんじゃないよ」という人間がほとんどで、どこに就職するにも、設計事務所なんかやめた方がいいと言われていました。それでもやっぱり設計がやりたくてこの世界に入ってきたのです。そして友人らの言うとおり、食べていくのもやっとでした。入った設計事務所は小さなデベロッパーの下請け、代願業務がほとんどで、土日にコンビニでアルバイトして食いつなぐ、大変な時代でした。設計事務所を渡り歩き、行く先々で経営困難に追い込まれ、ある事務所では信頼し、尊敬していた上司が経営難で自殺するというヘビーな経験もしました。そんなわけでこれまで、仕事の面でも経済的な面でも、恵まれているとは言い難い環境できたので、過去に素晴らしい実作などありません。でも、多くの同世代の人たちは同じような経験をしているんじゃないでしょうか。「今まで苦労してきた分、どんな状況にも耐えられる」、「建築を通して社会貢献ができたらいい」と本当に思っているのです。

実は今回、故郷の熊本が地震でこのような状況になって、今、震災に対してとにかく何かしたいという気持ちでいっぱいです。建築士として力になれればと願っています。
―さぞ、ご心配でしたでしょう。ご実家は大丈夫でしたか。
上村:外壁にヒビが入ったり、家具は全部倒れたり、食器はめちゃくちゃになったそうですが、家族は無事でした。実家は幼稚園をやっています。今、避難所のようになっていて、幼稚園の体育館を開放して50人くらいの人を受け入れているそうです。

「避難所」となる建物や、指揮系統を持たなければならない役所、病院がダメージを受けて、機能できなかったことはかなりショックでした。公共機関はそれなりの耐震性を持った形にしておかないとだめです。耐震診断、それに伴う改修工事が間に合わなかったのは本当に残念です。まず「安全」、それが第一ですね。
制振、免震技術は進歩しているのですから、それを実行する判断が大事。やはり、地震に対する行政の考え方、意識は都市部と地方では違いますね。それが形になって表れています。それに電力については、九州は火山、温泉があるので、より地熱利用が進むといいと思いますね。こんな機会に改めて考え直してみることが大事ではないでしょうか。

―今日はどうもありがとうございました。

「地元熊本の復興に建築士として尽力していきます」

 

 

上村健太郎

1976年 熊本県熊本市生まれ
1998年 東海大学工学部建築学科卒
アトリエ・アプト入所
1999年 山下建築企画研究室入所
2004年 シンヤ設計入所
2010年 建築集団フリー入所 設計チーフ
現在に至る

 

 

 

194-4 注目のポリウレアコーティング『ライノ・エココート』

アットホーム本社ビル屋上に注目のコーティング施工

今月ご紹介した「アットホーム本社ビル」では、屋上に「ポリウレア」と呼ばれる樹脂を被膜する、軟質でありながら耐久性の高い新しい防水工事を行いました。
特徴としては以下のような点が挙げられます。

・2液混合の化学反応による希薄な膜厚(1mm~3mm)で強靭な保護層を形成
・超速乾硬化(4~12秒)で工期短縮
・コンクリートを始め、金属、木材、鉄板、プラスチック樹脂などほぼあらゆる基材に付着
・無溶剤、無触媒。耐薬品性、耐久性に優れ、水槽、タンクなどの防水・防食・防錆工事に最適
・強靭な物性特性により、コンクリート剥落防止、耐衝撃性、耐爆性を実現、土木工事にも最適

ポリウレア吹き付け状況

 

トップコート塗布状況

 

ポリウレアを施した部分は全体がゴムのようにしなるのに強靭で、躯体などが破壊されるような衝撃にも破れないという特性を持ちます。アメリカでの耐久性試験では2万回の戦車の走行にも耐えたというデータが示されています。
「建築に利用され始めてからの歴史が短いため、既存の材料・工法には実績面で劣りますが、速乾性・付着性等の特徴はアイデア次第では設計・施工の自由度を引き上げてくれることが期待できます」(現場担当者)
新たな耐震補強工事の一つとして注目されています。