トップ4項目でご紹介しています。全ての記事をご覧になりたい方はバックナンバーのPDFをご参照ください。

224-1 街をつくる

224_kaede_00

kaede 撮影:上田宏

写真は8月お引渡しを終えた、中野区の集合住宅です。オーナーは地域に複数の集合住宅を建設されており、設計者との良好な関係で街並みづくりに尽力されています。
設計の田村芳夫先生への取材の折、「建設費の高騰による事業費の圧迫で、せっかく『良い建物を』とオーナーが言ってくださるにもかかわらず、採算が取れなくなってしまう状況が残念だ」とのお話をいただきました。
結局「コストを低く抑えるハウスメーカーと戦えない」ということでした。
確かに、基本性能を満たした工場生産のパネルで、工期を短く抑えられる建物は、設計者がデザインし、施工者の手数が入った建物に比べれば、簡単に建ってしまいます。
ハウスメーカーには、広告宣伝費、営業・管理部門の人件費、など建築に関係のない費用が薄く広く載せられており、建物にかけられている経費がどのくらいなのか、をよく見てみる必要があります。もちろん弊社もこのように広報をしておりますので、そのような費用がないとは言えません。
しかし、基本的に「何処に建っても同じ」というスタイルを日本全国で展開されるわけですから、ハウスメーカーのデザインだけでは満足できない方々もいらっしゃいます。そのような方々のために、建築家の先生方が、そして、その施工を行う者としての弊社の存在価値があるわけです。
建物の性能をよりよくする、あるいは、魅力的な新しい資材、設備を導入してみる、というのは、設計をする先生の常であり、そういうものづくりがなければ世の中進歩しないわけです。それにお応えするためにも施工会社も努力を重ねております。が、他の製造業の給与水準と比べると建設業界全体は、まだまだ低いようです。
昨今の建設費の高騰が作業労働者の高齢化など「人材不足」という理由からなら、やはり人件費などが上がってくるのは致し方ないのですが、東京オリンピックの特需も根本的な解決にはつながらないのですから、今後も建設費がすごく落ちる時期が到来するとは言えない状況のようです。
一方で、免震・耐震装置、という地震国日本ならではの設備に対して、先ごろまた事件が起きました。
装置メーカー、「KYB」で検査データの改ざんが引き継がれ、マンションや病院、教育施設など全都道府県の物件で不正が続き、2015年に表面化した東洋ゴム工業の免震偽装を規模で上回る、というニュースが流れました。
いろいろな対策を考慮されても莫大な費用が掛かるようです。
それにしても、最初にこのような装置を考えた人は、そんな運用を想像したでしょうか。関わった一部の人の想像力の欠如が、とんでもない結果を生み出してしまったということです。
222号でご紹介させていただいた「代々木の家」の建て主Y様が、関係者一同を招いて「ねぎらいの会」を開いてくださいました。
「良い建物を建ててもらった」というお客様からの感謝の言葉が、施工者の一番の喜びです。
ときにお叱りを受けようとも、そのことを大事に思っていることに嘘はなく、その後のメンテナンスに、関わったもの一同が長いことお付き合いをさせていただけるように、今日も頑張っています。
その場所にあった、環境に配慮した機能的な建物を建てていただき、魅力的な地域にするためのお手伝いを、弊社は今後も続けてまいります。

224-2 Kaede(かえで)

周囲と調和し、多彩なプランを展開する賃貸併用住宅

以前建築した上鷺宮の「SAKURA」という集合住宅の建て主S様から、引き続きの設計依頼による建築である。近くにも11年前にご自宅+19戸の集合住宅「MOMIJI」を建てている。今回は、父上の住まわれていた木造住宅を孫にあたるお嬢さん夫妻の自宅との賃貸併用住宅に建て替えるという計画である。
敷地は閑静な住宅街の私道を取り囲む一連の建物の公道側角地に位置する。「SAKURA」は鉄骨造だったが、今回はRC壁式構造の建物で、杉本実型枠コンクリート打ち放しと、「SAKURA」と同じ溶融亜鉛メッキ鋼板、アルミルーバーを使用し、統一感をはかった。構造設計は、梅沢先生にお願いした。
建物の高さ制限が10mの地域で、4階建ての建築をつくるにはプランニングと断面計画に工夫が必要であった。北側に私道があったため天空率や日影図のチェックによりそれが可能となった。
オーナー邸は南東の角に1,2階メゾネットで配置した。アプローチは白いストライプの入った大理石を使用し、エントランス内部までその仕上げが入り込んでいる。リビング・ダイニング・キッチンは、1FLより500mm下げて、天井高を確保してのびやかな空間になることを目指した。
一方、賃貸8戸は独立したアプローチをとり、オーナー邸との違いを持たせ、溶融亜鉛メッキ鋼板で設えた。解放感ある階段と共用廊下にはそれぞれ違った色の床材を使用し、あまり禁欲的にならず楽しくつくっていくことも心掛けた。1階から2階は1DK5戸、3-4階には3戸の吹き抜けと屋上テラスのあるメゾネットタイプの住戸を設け、そこには家族のパーティやイベントを可能にする空間を備えた。
建物はいつもあまり神経質にならず、あっさりと作るのがいいと思っている。空間の豊かさの追求はもちろんであるが、使用材料など毎回どこかでチャレンジしている。自然の材料、石や木、コンクリートなど、素材そのものの持つ力と施工する人の手の跡が残るものを予算内で選択していきたいと思っている。
外部と内部の構成、連続と変化、その切り替わる狭間に建築空間を作る醍醐味があるとも考えている。
(田村芳夫氏 談)
所在地:中野区
構造:RC造
規模:地上4階
用途:共同住宅
設計・監理:田村芳夫 秋吉英史/アトリエ・リ・ガテ都市建築計画
構造設計:梅沢良三 三野裕太/梅沢構造建築研究所
施工担当:瀧澤
竣工:2018年8月
撮影:上田宏

224-3 田村芳夫/アトリエ・リ・ガ・テ都市建築計画

時を経た美しさがある

今月は、「kaede」の設計者、田村芳夫氏率いるアトリエ・リガ・テ都市建築計画の事務所にお邪魔して、お話を伺いました。
―木造の黒塗りの板壁がいい感じですね。年代を経た建物のようですが。
田村:この建物は大正11年築ですので、関東大震災をのりこえて今あります。リフォームして事務所として使用しています。ジャッキアップして新たにベタ基礎を作り、壁をばらして構造補強したうえ元のような仕上げに復元しています。玄関のホールにあたる部分は畳敷でしたが板張りにし、適所に作りつけの本棚を筋交い替わりに配置しています。今年で11年がたちます。昨年この部屋の竿縁天井も取り外し小屋裏を表し、天井の高い空間にしました。
時間が経つと建築はまた違った味わいが出てくるものです。
―田村先生は建築研究所アーキヴィジョンに長くお勤めになられていたのでしたね。
田村:戸尾任宏先生(北海道から近畿地方までの各地に博物館建築及び文化財保存関係施設を設計)の下で修業しました。関西の仕事も多かったですが、今でも依頼が来たものは何処でも何でも受けますよ(笑)・・・・・・。
(以下、最近のお仕事をいくつかご説明いただきました)
千葉の松戸の介護施設ですが、予算がない中、介護施設などでも入居者の方が豊かに過ごせて、ご家族も「大事にされている」と感じることができるような空間を造ることが重要です。
足立区の介護老人保健施設では、環状7号線沿いで周りの環境は決して良くなかったけれども、騒音などに配慮し、内部がうまくつながっていくような空間を作りました。屋上庭園があり、富士山やスカイツリーが見渡せます。この施設は5階建てであったため、中央に大きく1階から2階の吹き抜けと3~5階の吹き抜けを2か所、各ゾーンをつなぐエントランスにも吹抜けを設け、のびやかな空間を造りました。

「ドーミーインPremium 神田(万惣ビル)」はビジネスホテルですが、限られた空間に大浴場と食事を提供するサービススペースを入れて、手すき和紙、なぐり仕上の突板、光り壁、間接照明などで和の空間を作りだしました。

「無極庵」という住宅では、線路とほとんど並行しているので、騒音対策が必要でした。1階は親世帯、2,3階が若者世帯で、事務所と賃貸住宅もついています。中庭を作り、遮音と通風、明るさを確保しました。杉本実型枠のコンクリート打ち放し、竹のルーバー、溶融亜鉛メッキ鋼板の外壁、1階は桐の床、和紙の壁、漆や柿渋の和紙で床の間や襖を構成し、上層は漆喰と打ち放しの吹き抜け空間です。音も予想以上に抑えられて、オーナーも満足されています。こういう賃貸住宅では、それなりに予算があわなければなりませんが、今は工事費がほんとに高く、何とか、施工会社にも頑張ってもらいたいと思っています。

「kaede」の建て主、Sさんにも「街並みに配慮した、クォリティの高いものを作りましょう」と言い続けて頑張っておりますが、単純にお金だけでなく、Sさんはゆったりと考えられている、その姿勢に頭が下がります。何とか収益を上げてさし上げられるようにしたいと思っているのですが、毎回厳しいですね。特に、ハウスメーカーは施工費が安く、工期が短いでしょう。収支が全然違って戦えない。でもやはり周辺がよくなるような良い建物を作っていきたいですね。
「サンポのいえ」は、コルテン鋼の屋根をかけた建物が敷地を回遊するような別荘ですが、構造の梅沢先生が協働してくれたのでできたような建物です。亜鉛メッキ鋼板も耐候性がありますが、最近はコルテン鋼の方が流行っていますね。メーカーによってさらに塩害に強い「ナウテン」があり、海沿いの建物にはこういったものがありますね。
この間、「Kaede」で使用した石の検査にスタッフと中国の「廈門(アモイ)」に行ってきましたが、世界中の石が集まっている、すごいところです。
(福建省南部、九龍江の河口に開けた海浜都市。厦門港には「海上の楽園」と呼ばれる島が浮かび、温暖なリゾート地であり経済特区でもある)
世界遺産の「田螺土楼」でも知られています。建材として使用する石を原石からチェックし、石の特徴を理解し、それがどのように加工されるのか、どのように市場に出てくるかを見ることは、若い設計者にとっても非常に有意義なことです。まずはいろんな経験を積むために、年に1回はスタッフを連れて海外研修に出かけています。

―それは、羨ましい事務所ですね。本日はありがとうございました。

田村 芳夫 (たむら よしお)

1951年 新潟県生まれ
1975年 工学院大学建築学科卒業   建築研究所アーキヴィジョン入所
1988年 アトリエ・リガ・テ都市建築計画設立
代表取締役に就任、現在に至る
2002年~14年 工学院大学 兼任講師
2006年~16年 長岡造形大学 兼任講師
主な作品
佐野市郷土博物館(日本建築学会賞)、都立埋蔵文化財センター(公共建築賞優秀賞)、奈良県橿原考古学博物館(建築業界賞BCS賞)、清瀬市郷土博物館(東京建築賞最優秀賞)、奈良県新公会堂(甍賞・公共建築賞優秀賞)、立山カルデラ砂防博物館(公共建築賞優秀賞)、奥松島縄文村資料館・交流館(屋根コンテスト1等)、龍生会館、朝日学園、葵の園・椿(介護老人保健施設)、葵の園・新潟内野(特別養護老人ホーム)

224-4 「ACE神宮前」改修工事 2018年10月31日

住宅を店舗にリノベーション

原宿駅から東側、閑静な住宅街におしゃれなブランドショップや美容院、カフェが並ぶ神宮前。築27年のレンガタイルの戸建て住宅が真っ白な外壁と鉄骨外階段を設けたテナントビルに生まれ変わりました。

もともと地下1階には美容院、1階にはかばん屋さん、とそれぞれアクセスが異なるお店が入っていましたが、2階は住宅として使用されていました。しかし、この度オーナーが建物を売却、購入された㈱エース・コーポレーションが企画し、改修設計を「YOSHIKUNI ARCHITECTS」が行いました。2階に開口部を大きく取り、新たな外階段と螺旋階段を設置、住宅の趣はなくなり、店舗として、モダンなファサードデザインを打ち出しています。

工事は、地下1階と1階の2店舗が営業しているため、大きな音を出すような工事は、例えば既存の2階ベランダの解体などは、「午前11時以降は行わない」と時間制限があり、躯体に響かない「ハンドクラッシャー」(手持ちタイプのコンクリート壁はつり機。騒音、振動、粉塵に厳しい現場での工事に適している)を採用しました。

また前面道路はあまり広くないため、関係車両による資材の搬入・搬出や大きなクレーン車を利用しての外階段設置などでは、近隣へのご迷惑を最低限に抑えながら、無事完成させることができました。

㈱エース・コーポレーションは今年で創業30周年を迎え、現在は不動産の再生、開発事業を主力に取り組んでおられます。
好立地にも拘わらず不動産価値の落ちた物件に、再び光を与えるべく斬新なアイデアでバリューアップを計り、魅力あるテナントの誘致で新たな人の流れをつくるなど、その取り組みは地域の活性化にも繋がっています。

住宅が多い神宮前ですが、店舗としての可能性を十分に引き出した改修工事は、今後も増えていきそうです。
所在地:渋谷区神宮前3-15-5
構造:RC造
規模:地下1階、地上2階
用途:店舗
設計・監理:吉國泰弘/吉國建築設計事務所
施工担当:畠中
竣工:2018年10月
撮影:①②現場担当者(before)、③④⑤編集部(after)