トップ4項目でご紹介しています。全ての記事をご覧になりたい方はバックナンバーのPDFをご参照ください。

220-1 発想の転換

ksng_078

「Peak Cottage」 撮影:阿野太一

 

写真は、2017年8月に竣工した北品川の住宅「Peak Cottage」です。庭の緑も揃いはじめて、やっとご紹介する機会を得ました。
大きなブリッジは傾斜地に建つ建物から、奥の高台へのアクセスとなっています。擁壁に負荷をかけないように片持ちで支えています。
敷地は、起伏のある土地の谷を南北に走る道路に面して、西側から東側に向かって高くなっており、3つのグランドレベルに分けられます。西側前面道路に面する地下1階は、ガレージとユーティリティ、少し上がって1階がエントランスとギャラリー、和室、そして2階はプライベートルームと浴室、3階は大きなリビング・ダイニング、というプランです。
設計のarchitectureWORKSHOPの北山恒氏は、地耐力を見ながら、フローティングの基礎の上に、地下1階から3層目の2階まではRC造、その上の4層目の3階は、木造、という構造を選択しました。
建物の素材は、打ち放しコンクリートや波板型ガラスの外壁、スチールフレームのブリッジやアルミサッシのテラスなど、インダストリアルな雰囲気で、室内の床もフレキシブルボードと、ハードな印象の住宅です。
そのため、うかつなことに私は今回ご案内いただくまで、設計を依頼されたオーナーの方はてっきり男性だとばかり思っておりました。が、子育ても終えられたゆとり世代の奥様でした。
千葉にご自宅もあるのですが、今回は都心でギャラリーやサロンなど自宅を開放して、いろいろな方との交流を楽しみ、お庭も自分好みの木々を植えられて、愛犬と好きな時間を過ごすためのセカンドハウスを建てられることにしたのです。
このような4層の建物では、下から上階に行くにしたがってプライベートな空間を設けるのがオーソドックスなプランです。そのため、当初2階をリビング・ダイニングとしていたそうですが、奥様が以前から気になっていた波板型ガラスを「こういうのも面白いですね」と設計の北山恒氏に伝えたところ、開放的な空間を求められている奥様の気持ちを感じ取った北山氏は、最上階に大きなリビング・ダイニングを持ってくるプランに変更されました。

「もし2階と3階が逆転していなかったら、外に開いた住宅にならなかったし、ブリッジもできていなかったと思います。千葉の家は吹き抜けもあり、その半分の敷地で、どれだけ開放的な空間ができるか、私の中でつじつまが合わなかったいろんなことを、北山先生がうまくリンクしてくださいました」と奥様。

3階のリビング・ダイニングはひとつながりの大きな空間となり、東側の妻から明るい光が差し込みます。2階のバスルームはガラス張りで、モザイクタイルの美しさが目を引きます。1階のギャラリーには、簡易宿泊できるシャワーや和室も用意されて、お友達がしばらく滞在することも可能です。ギャラリーから擁壁へ向かう出口に、庭を手入れするためのコンサバトリーも後から設置されました。
ギャラリーには、奥様が千葉で親交のある備前焼作家や墨絵作家の方の作品が展示されています。「Peak Cottage 」でのすてきな暮らしは、まさに始まったばかりです。今月号は、奥様のご案内で建物をご紹介してまいります。

220-2 Peak Cottage

傾斜地の建物をブリッジでつなぐ

東側の高台の私道から建物を臨むと、遠く清泉女子大学の森の木々まで見える景色が広がる(写真①:この撮影時ではまだ植栽が植えられていない)。
高さ約5mの既存の擁壁は古かったので、積み直ししてもらい、北山先生が植栽のためのワイヤーも張って、擁壁の上からも下からも緑が生えるように計画してくださった。
ブリッジの鉄製フレームは、溶融亜鉛メッキされており、亜鉛メッキのプールに入り、トラックの輸送に耐えられる最大のサイズで搬入され、2階が上棟したところで設置となった。スクリーンは防腐処理された杉材。出入り口にはセキュリティがかけらている。
西側前面道路に接する地下1階はガレージで、車2台が余裕で収まる。天井の高さが厳しい地域なので、横引き式シャッターの納まりが気に入っている(写真②)。
ガレージの中はかなり広いので、車を出せば、雨の日に散歩に行けない犬たちの格好のトレーニング場所となる。コンクリートの打ち放しの外壁は、産地の異なるラワン材を型枠に使われたとのことで、径の小さいPコンとともにコンクリートの表情を和らげている。ガレージの奥のエレベータ前はユーティリティとなっている。
3階のリビング・ダイニングは、フレキシブルな照明を岡安泉さんに作っていただき、中央にはキッチンとリビングの間のスパイラルダクトに組み込んだリターンダクトが付けられている(写真③)。
同じく3階のブリッジのある東側は、引戸で妻の内側を仕切ることができるようになっている(写真④)。犬が苦手なお客様がいらしたときには、こちらに犬を移動させる。ブリッジへの出入り口に犬の洗い場も作ってあり、建物内の床はすべて、犬が滑らないようにフレキシブルボードにしている。妻側の外壁に採用した波板型ガラス(ワイヤー入り)で明るく開放的な空間になっている。
2階の浴室は名古屋モザイクのタイル(写真⑤)を貼っている。かわいいデザインだが、結構男性に人気があり、職人さんの手仕事が素晴らしく、家具はIKEAでまとめた。
キッチンは、オーブン・コンロにアメリカのVIKINGを入れたので、それに合わせて、レンジフードは設計のarchitectureWORKSHOPに制作してもらった(写真⑥)。壁の飾り棚も重宝している。
(W様 談)
規模:地下1階、地上3階
構造・工法:地下1階~2階 RC造  3階木造在来工法
用途:住宅+ギャラリー
設計・監理:北山恒、岡田尚子/architecture WORKSHOP
構造設計:江尻建築構造設計事務所
コーディネーター:奥村毅/テイクワン
施工担当:夏井、高沢
竣工:2017年8月
撮影:阿野太一

220-3  Peak Cottage オーナー K・W様

自由な空間を創り出す

 

生活が充実してくると、どんどん広がる趣味や人とのつながり。心からリラックスして自由なひとときを楽しむ空間を演出することは、普通はなかなかできないものです。でも今回取材させていただいた「Peak Cottage」のW様は、千葉のご自宅の新築、増築を経て、今回が3件目の建築。経験豊富でいらっしゃいます。親交の深い千葉のアーティストやクリエーターの方たちの作品に囲まれる、豊かな空間を作られました。

「建物の素材を選んだのは全部、私。結構男性的でしょう」とにこやかに話されるW様(写真⑦)。毎日、朝夕3匹の愛犬の散歩を欠かさないとのこと。かなりのアスリートでいらっしゃるようです。
愛車はドイツのカイエン。上質を知っている人の車ですね。ダイニングに置かれているテーブルはインフィニティ。世界で最も美しい木製家具といわれるポラダの家具の中でも、とりわけ美しい芸術的なテーブルです。そのガラスのテーブルの上に置かれた大きな備前焼は、千葉県長生郡長柄町で「六地蔵窯」という窯を持つ備前焼作家、安田裕康氏の作品です。W様自身も焼き物を制作されますが、作家にとっては、購入してくれる方は何よりの支援者です。

1階ギャラリーには、墨絵作家、荒井恵子氏の2つの大きな作品が飾られています(写真⑧)。「百種の墨」シリーズの2点で、知り合いの備前焼作家が作品を焼いたときに出た炭から作られたなど、それぞれがストーリーを持つ墨色を用いて、モノトーンのアートに仕上げています。1点購入を希望されていたけれども、持ってこられた中から、2点選んで、「やっぱり、バランスとしては2点入れて正解でした」とW様。ギャラリーから擁壁に向かって表へ出ると庭が広がります(写真⑨)。
「平面的な庭よりワイルドガーデンにしたかった」というW様は、オーストラリアの木が好きだというので、造園家のSOYプランの百瀬守氏が、ミモザやティーツリーなどたくさんの木々を集めてくれました。
都心ですが、緑が豊かなこの地域では、鳥の鳴く声もあちこちから聞こえてきます。コンサバトリーも農家の小屋のような素朴な味わいのものに決まり、後から設置されました(写真⑩)。
庭の片隅には、ご結婚後これまで育て、そして天国へ行ってしまった愛犬達のお墓も作られました。

ギャラリーの反対側には、洗面所とシャワールーム、和室(写真⑪)などが設けられ、ゲストの宿泊に応えられるようになっています。
2階の各個室、階段室は引戸で仕切られ(写真⑫)、プライベートに配慮して開口部は小さめになっています。
最初は、エレベータを怖がっていたワンちゃんたちもすっかり慣れて、ブリッジを通ってのお散歩も、毎日楽しみのようです(写真⑬)

「最初にこの土地を見つけた時は、外国人のレジデンスを建てたいという先客が2方いらしたんですが、私に回ってきてご縁があるな、と思いました。資金計画の相談にのってくれた方、設計の北山先生、岡田さんはじめ、ほんとに多くの方の協力があって建てることができました。人に恵まれて、私は自分の好きな事をさせてもらったと思っています」というW様。

名刺には、建物名の「Peak  Cottage」と、お名前だけが書かれています。この邸宅のオーナーとしての心意気を感じさせてくださいました。
(撮影:⑦⑧⑨⑩⑪編集部⑫阿野太一⑬W様)

220-4 Peak Cottage 現場報告

「Peak Cottage」現場報告~擁壁工事とブリッジ設置、その他について

今月ご紹介した「peak cottage」の現場担当者高沢から、今回の現場で特徴的ないくつかの工事を振り返ってもらいました。
<間知石(けんちいし)擁壁工事>
高さ約6mある擁壁を作るには、まず既存擁壁を解体し、土留めを設け、基礎と両端部の袖壁を先行して造る必要がありました。出来上がった両袖壁に、丁張りし、それに沿うように石を積み上げていきます。
一日2、3段を目安に「石積み」、「コンクリート打設」、「裏込石敷」、「水抜パイプ設置」を順々に施工していきました。
規則正しく積みあげ、壮大な擁壁が出来上がりました。
(写真:②~⑨高沢)