188-2 A-FLAT 

以前の家の趣を活かし、建替え後も心地よく暮らす

代々木八幡の商店街で、長年お米屋さんを営まれていた建て主は、老朽化が進んだ店舗兼自宅を次世代への継承も視野に入れて、新たに賃貸住宅を加えたビルに建て替えられることにした。
当事務所は戸建木造住宅の設計が多く、「賃貸マンションなどの資産運用面の判断は、専門家の意見を仰いだ方がいい」と企画実績が豊富なタカギプランニングオフィスに協力を依頼した。結果、銀行の選定や返済計画だけでなく、この地域にアピールするには、設計上どんな付加価値を考えるのがいいのか、などいろいろと適切なアドバイスをいただいた。
数年前に比べて建築コストが上昇したこともさることながら、今回、都心の集合住宅の設計は法規制が厳しく、予想以上にプラン、デザインが限られてくることを実感した。しかし、RC造でも木造のようなディテールを持ち、全体に柔らかく、周辺には開かれた印象を持たせたいと考え、バルコニーの手摺に合成木のルーバーを取付けたり、1階の外壁もベージュや茶色の土壁風にしたりして、落ち着いた、親しみやすい雰囲気を作り出している。細長い敷地のビルにありがちな、奥が陰鬱な空間になることを避けるため、アプローチとなる建物右側の通路には、足元にフロアライトを仕込み、突き当りの外部階段の下に、小さなオブジェを置いて、建て主や居住者にとっての癒し空間になるようにしている。

1階はテナント、2階はバレエスタジオ、3,4階は1フロア2戸ずつの賃貸ルームで、5、6階が建て主一家の住宅スペースとなっている。
居住スペースには、なるべく木を使ってほしいとのご希望があった。
既存の建物は、お米屋さんの奥に上がり框があり、堀こたつがあって、その背中には、建て主のお父様がいつも米糠で磨いていたというヒノキの柱があった。建て主の愛着のある柱や堀ごたつの団欒スペースも新住居で再び採用することにした。
高齢に向かう方の住宅設計は、既存プランの骨子は残して、改善すべきは改善する、という方法がいい。既存の家が場所に対して、理にかなった建て方をしているのであれば、精神衛生的にもプランを変える必要がない。

よくバリアフリーと言うけれども、全部平らにすれば良いというものでもない。座ってから建ち上がるまでは、結構な労力である。今回も畳のスペースを40cmほど床から高くして小上がりとし、床下収納も設けている。板ぶすまもあって、長女ご一家が泊まりに来ても大丈夫である。予算の上から天井に木を貼ることを一端あきらめかけたが、不燃パネルに薄い突板が貼ってある製品(ニッシンイクス)を見つけ、採用した。
建て主の奥様のこだわりは、庭の柿の木であった。嫁がれた時から立っていた木は、ビルの谷間なのに、美味しい実を毎年付けていた。実のなる木の移植はむずかしい。だが、今回は全ての葉を落として別の畑に移植。「冬を越して再び春に芽を出せば大丈夫」と言われ、戻ってきたときには葉を付けていたという感動ストーリーがあった。建物前面に移され、今も道行く人を眺めている。

(関本竜太氏 談)

所在地:渋谷区
構造:RC造 規模:地上6階
用途:店舗・バレエスタジオ・共同住宅
設計:関本竜太/リオタデザイン
施工担当:小原
竣工:2015年9月
撮影:BAUHAUSNEO

 

2015年11月9日 at 2:21 PM