161-2 M3
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①全景。最上階はオーナー邸。専用入口も建物右手に設けている
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②施工中の地下1階。階段も構造体と別になっている
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③施工後の地下1階。タイル貼りで、マルチな使い方に対応する
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④施工中の2階。構造体としては界壁を作っていない
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⑤2階賃貸居室。界壁部分は将来抜くことが可能。また開口部は建物のファサードとなる表に向かって腰壁となっており、バルコニーは専用使用ができないが緊急避難の時は使用可能となっている
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⑥2階共用廊下
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⑦1階エントランス
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⑧南側に突出した共用階段は緩やかな傾斜で周囲の建物の視線を遮断し、長いアプローチが建物の余裕となっている。最上階のオーナー邸はバリアフリーであり、アクセスである階段も車椅子に対応できる角度にしている
次世代のコンバージョンを想定した集合住宅
最近連作している「Mシリーズ」の流れをくむ壁構造の集合住宅。構造壁をバランス良く配置することで各住戸の界壁の躯体はすべて抜いてある。住戸間の乾式間仕切りは施工に手間がかかるが、将来的なコンバージョンに柔軟性を持たせる上であえて採用し続けている。現行の建築基準法は新築の建物を想定したもの。不確定な将来のニーズに対するリスクヘッジは供給側のアイデア次第。持続可能な計画はオーナーのモチベーションを次世代を見据えて育みながら、その結果として事業が継続されることが大切だと思う。
この元代々木という地域は、新宿、代々木、原宿など若い人に好まれる場所である。クリエイティブな層が集まる地域でもある。事業計画として最初は住居であっても、特に低層部に生活感が前面に出てくるプランを配置するとパブリックの関係性から少し無理がある。建物は1階の顔づくりが重要である。将来的に店舗やインキュベーションなど地域の拠点として機能できる顔が望ましい。小さなスペースである1階と地階をメゾネットとし、縦にボリュームを作り、リーズナブルな価格で若い人が最初にスタートさせるSOHOとして自立性のある生活を促すスペースともなり得るだろう。
また建物前面のバルコニーを専用使用するという日本の住居形式は、都市に対してバッファゾーンもなく、前面にエアコンの室外機などの生活感が出て猥雑になる。あえてバルコニーには出られないようにして建物全体の一体性を出している。
都市部ではハコとしての建物は、もう十分に供給されている。制度設計が追いついていない現在、次世代のニーズのために、現世代のウォンツをうまく活用していくロジックこそ、今求められている。
(内海智行氏 談)
所在地:渋谷区
構造:RC造
規模:地上4階、地下1階
用途:共同住宅
設計・監理:内海智行/ミリグラムスタジオ
施工担当:奥村
竣工:2013年6月
撮影:ミリグラムスタジオ